年月を経てなお透明度の増す歌声、美しい日本語の響き。日本が誇る歌い手であり、コントから社会派ドラマまで演じる女優でもある由紀さおりさん。
初主演となる映画『ブルーヘブンを君に』(6月11日公開)は、青いバラ「ブルーヘブン」を生んだ園芸家が、余命宣告を受けながら無謀に思える夢に挑む姿を描く人間ドラマです。
本誌2021年7月号掲載のインタビューを前編・後編に分けてご紹介します!
同世代へのエールが込められた映画
「この映画の主役は岐阜です」
由紀さおりさんは主演作『ブルーヘブンを君に』をそう表現した。
「地方創生ムービー2.0プロジェクト」の第3弾で、舞台は岐阜県西濃(せいのう)地区。
「ロケ地へはいつも川沿いの道をず〜っと車で走るんです。空が広くて、緑がいっぱいで。水がキレイね?と言うと、〝鵜飼いのアユはキレイな水がないと育ちません。岐阜の人はそれを知っているから川を汚さないんですよ〞と聞いて。あぁ、なるほどなと。映画に出てくる池田山(いけだやま)からの景色も素晴らしくて。展望台でうわ〜!と声を出したら監督に、〝危ないですよ!〞と言われてしまって」
はしゃいだ記憶に、うふふと笑う由紀さん。
「地元の方と溶け合うように」、世界初の青いバラ「ブルーヘブン」を生んだ園芸家の鷺坂冬子(さぎさかふゆこ)を演じた。
「撮影は、モデルとなった河本純子さんのバラ園でスタートしました。バラってこんなにたくさんの種類があるものかと。河本さんがバラを一つひとつ説明するお顔は、雑談のときとまったく違って。強い想いでこのお仕事をなさっているのを実感しました。共鳴するものを感じたのは事実です」
バラの育種家として40年以上活躍する河本さんと、一昨年に歌手生活50周年を迎えた由紀さん。歩む道は違っても、確かに共通点がありそうだ。
「きっと夜な夜な家族が寝静まったあと、これとこれを掛け合わせたら?と諦めずに努力されたんでしょう。バラの育種は今日やって明日結果が出るものではないし。そうした執着には敬服いたします」
劇中、余命宣告を受けた冬子の脳裏に遠い昔、ハンググライダーをしていた彼との初恋の記憶が蘇る。私も空を飛びたい! 63歳で未経験、冬子の無謀な夢が動き出す。
「残された時間にやりたかったことをやり遂げたい、そんな冬子さんの想いが伝われば。健康であること、歌うこと、思い通りにいかないことは日々ありますが、そこをなんとかクリアして前へ進んでいこうとすると、一日一日が真剣勝負になるし、一生懸命に生きている感じがします。コロナ禍で思うようにお客さんの前で歌えない日々ですが、歌える日が来たときに自分がどれだけの準備ができているか。若い方の1年と私たち世代の1年とでは全然違いますから。臆病にならず、周囲のアドバイスをいただきながらとにかく前へ。それをいま自分が実践することで、そんなふうに生きましょうよ!という同世代へのエールが、この映画には込められているのです」
……後編では「私が知らない私に出会いたい」と、チャレンジを続ける由紀さんのプライベートのお話も! 後編へづづく。
ゆき・さおり●1969年『夜明けのスキャット』で歌手デビュー。女優としても1983年に映画『家族ゲーム』で毎日映画コンクール助演女優賞受賞。1986年から姉、安田祥子と美しい日本の歌を次世代に歌い継ぎたいと活動を続ける。2011年発表のアルバム『1969』は全米iTunesジャズ・チャート1位ほか世界各国でチャートインを果たした。2012年紫綬褒章受章、2019年に旭日小綬章受章。
『ブルーヘブンを君に』
(配給:ブロードメディア)●原作・監督:秦建日子 ●脚本:秦建日子、小林昌 ●出演:由紀さおり、小林豊(BOYSAND MEN)、柳ゆり菜、本田剛文(BOYS AND MEN)、大和田獏、寺脇康文 ほか ●6月11日~イオンシネマ板橋ほか全国公開 ●ストーリー:青いバラの生みの親である園芸家の鷺坂冬子(由紀さおり)。ある朝、ウオーキング中に腹痛に襲われ、病院へ向かった。がんが再発し、主治医の川越(大和田獏)は冬子に余命半年と宣告する。迎えに来た孫の蒼太(小林豊)に池田山へ寄り道するよう頼んだ冬子は、「私、決めたわ。この空を飛ぶ」と宣言する。彼女はそのとき、50年ほど前の初恋を思い出していた……。 ⓒ2020「ブルーヘブンを君に」製作委員会
文/浅見祥子
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