田舎暮らしの「困ること」は、農業にまつわる内容です。週末に農業を楽しむスタイルは可能かどうか、ベテラン田舎暮らしライターにお聞きしました。
リタイア後に農業で月10万円の収入を目指す予定。5年前に知り合いの農家から、仮登記で約1町2反歩の農地を購入しました。週末に通って畑を整備し、いよいよ農業委員会に所有権移転をしたいと相談したら、「住民票の移動と営農計画書の作成が必要で、週末利用では無理」と門前払い。一時的に住民票を移す方法ではダメですか?
千葉県在住 城内さん●58歳
週未利用でできるほど農業は甘くない!
城内さんのように定年後すぐ農業を始めたい、と考える人は少なくない。現役時代に広い農地を取得し、週未に通いながら農家の真似事をする人もいる。
しかし、失敗に終わるケースがほとんど。都会の人がいくら思い巡らせても、自然相手の農業は計算どおりにいかないものだ。予想外の出費で、そろばん勘定も変わってくる。週未利用で収入の足がかりがつくれるほど、農業という仕事は甘くない。焦る気持ちもわかるが、定住してから本腰で取り組むべきだ。
農地を買うには、農業委員会に申請して「農地法第3条」の許可をもらわなければならない。これを一般に「3条申請」という。農業委員会とは、農地の運用について協議する行政委員会で、窓口は市役所や役場内にあるのが一般的だ。3条申請をするには、取得する農地と同一、または隣接の市町村(この場合のみ知事の許可が必要)に住むのが原則。都会にいながら農地を買いたいと言っても認められないのだ。
行政書士に頼めるがビジョンは自ら描こう
城内さんは農地を自分のものにするため、一時的に住民票を移してもいいと考えた。しかし、それは法律違反。選挙や税金も絡むので、居住実態のないところに住民票を移動することはできないのだ。もし簡易裁判所から住民基本台帳法違反で告発されたら、罰金もあり得る。
3条申請は住民票の移動だけでなく、営農計画書の提出も必要。書式は自治体によっても異なるが、細かな記述を求められるケースが多い。未経験の人には難しいので、行政書士に書類作成と手続きを代行してもらうのが一般的だ。
営農計画書と実際に取り組む農業に多少のズレがあってもかまわないが、農業収入を目指す人がまったく作付をイメージできないのも問題。こういう農業をやるんだ、というピ ジョンだけはしっかり描いておこう。
文・写真/山本一典 イラスト/関上絵美
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この記事を書いた人
山本一典
田舎暮らしライター/1959年、北海道北見市生まれ。神奈川大学外国語学部卒業。編集プロダクション勤務を経て、85年からフリーライター。『毎日グラフ』『月刊ミリオン』で連載を執筆。87年の『田舎暮らしの本』創刊から取材スタッフとして活動。2001年に一家で福島県田村市都路町に移住。著書に『田舎不動産の見方・買い方』(宝島社)、『失敗しない田舎暮らし入門』『夫婦いっしょに田舎暮らしを実現する本』『お金がなくても田舎暮らしを成功させる100カ条』『福島で生きる!』(いずれも洋泉社)など。
Website:https://miyakozi81.blog.fc2.com/
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