世界文化遺産・熊野古道が通る中辺路町の魅力を見極め、地元の人たちとの交流を深めながら「熊野野菜」を看板に掲げるカフェをオープン。さらに、空き家物件を活用した1棟貸しのゲストハウスを2軒経営しながら地域を盛り上げている中岡さん。多角経営に至った経緯を語ってもらった。
掲載:2021年12月号
季節の地元食材を使ったメニューが人気
近畿で最も面積が広いまち、田辺市。中岡志乃(なかおかしの)さん(43歳)が営むカフェは、民家の間を熊野古道(くまのこどう)が通る中辺路町(なかへちちょう)にある。
「田辺市は山が多く、峠をへだてるとまったく文化が違うんですが、中辺路町は人を受け入れる風土があり、とても住み心地がいいです」
中岡さんは福岡県出身で、かつては東京の大手広告代理店に勤めていた。しかし「一生続けられる仕事を見つけたい」と仕事を辞め、2016年10月に地域おこし協力隊として移住。田辺市は人生で初めて訪れた地だったが、観光ビジネスに興味があったため、ポテンシャルを秘めた土地と見極めていた。しばらくは弁当づくりの手伝いなどをしていたが、次第に自分の店舗を持ちたいと思うように。
「カフェを営む場所はすぐには見つからなかったのですが、山奥に暮らしてそこから中辺路町近露(ちかつゆ)に通い、地域の方たちと仲よくなったころ、酒屋さんから倉庫を貸していただけることになりました。倉庫の前の道路は熊野古道で、旅行者が多く行き交う場所。ここに店をオープンすることに、不安はありませんでした」
18年10月、「熊野野菜カフェ」を開業。倉庫は約40年使われていなかったが、ほぼ手を加える必要がなく、内装工事はカウンターをつくった程度。補助金は使わず、改修費はこれまで貯めた費用でまかなえたという。
中岡さんは、カフェに加え、1棟貸しゲストハウスも2軒運営している。
「東京の家を売り払おうかというタイミングで、お値打ち物件の話が舞い込んできて、購入を決意しました。ただ、自分が住むだけだと何も生み出さないので、この家をゲストハウスにしてしまおうと。宿泊のたびに掃除をするから、家がきれいに保てますし。そうこうしているうちに、別の方からさらに物件の話が舞い込んできて、2軒目のゲストハウスを開業。両方の物件を行き来して暮らしながら営んでいます」
カフェの営業日は金曜から月曜の週4日のみだが、早朝から熊野古道を歩く旅行者に向けた朝ご飯が好評だ。運営するゲストハウスの宿泊プランには、夕食・朝食付きのオプションもある。ランチも人気で、昼が近づくと続々と地元客が来店。中岡さんと軽快に会話を交わしていく。カフェの営業時間が終わったあとも中岡さんは弁当づくりに忙しく動き回っていたのが印象的だった。
「カフェやゲストハウス経営で得た収益の数パーセントは次の計画に投資する予定です。今後はレンタサイクルも運営したいですね」
明るく語る中岡さんは、まちに活気を増やしていく。
オーナー中岡さんから田舎カフェ開業へのアドバイス!
「目玉商品を考案するのが良策です」
立地の見極めは大切。またメニューはオススメが複数あるよりも、何かに特化し、これ目当てに来店してもらえるものを考案するといいと思います。金・日曜限定のベーグルは、季節の食材を使うようにしていて、毎回楽しみにしてくださる地元のお客さまも少なくありません。購入ついでにランチを利用してくださったり、ありがたいです。
パンとカフェごはん 熊野野菜カフェ
☎090-3964-4141
住所/和歌山県田辺市中辺路町近露1139
営業時間/6:30ごろ~13:00ごろ ※気分で夕方まで営業
定休日/火・水・木曜
http://umebosi.jp/info/
Instagram/@kumanokurasi
田辺市移住支援情報
子育て世代に人気! 近畿で最も広いまち
県外からの移住者が多く、特に20代~40代の子育て世代が約8割を占めている。自然のなかでテレワークしたいという人も歓迎しており、東京圏から移住し、就職・起業した人、またはテレワーカーに対し移住支援金(世帯100万円、単身60万円)を用意。空き家改修補助金(最大160万円)、移住者起業補助金(最大350万円)もある。
たなべ営業室 ☎︎0739-33-7714
https://tanabegurashi.jp
文/横澤寛子 写真/川島英嗣
この記事のタグ
田舎暮らしの記事をシェアする