掲載:2022年1月号
糸魚川市(いといがわし)木浦(このうら)地区の人たちが大切にしてきた温泉を受け継いだ、関東地方出身の屋村さん夫妻。これまでの運営方法を教えてもらいながら、クラウドファンディングで12泊プランも新設。暮らしに密着した温泉の魅力を発信し、地域のファンを増やす方法を模索中だ。
旅人を受け入れてくれる地域の土地柄に感動
日本海沿いを走る国道を山側へ曲がり、車で約10分。紅葉が深まりつつある道の奥に、まるで昔話に登場しそうな集落が現れた。ひときわ目をひくのは、茅葺き屋根の大きな古民家。長者温泉の一軒宿「ゆとり館」だ。
「この家は、ここに移築されて100年ほど。使っている材としては、200年を超えるかも」
そう話すのは、埼玉県出身の屋村靖子(おくむらやすこ)さん(35歳)。2016年に糸魚川市に移住し、宿の代表を務めている。
靖子さんと夫の祥太(しょうた)さん(35歳)が移住を考え始めたのは、11年の東日本大震災の直後。電気と物流が止まり、「自分たちが完全な消費者だということに気がついた」ことがきっかけだ。
先に靖子さんが移住し、津南町(つなんまち)の秋山郷(あきやまごう)にある宿で働いた。ある日、国道8号を西へドライブしていると、右が海、左は山という景色が現れた。海と山が同時に迫る光景に感動した2人は、空き家バンクで付近の物件を探し、海の近くの家を購入した。
ゆとり館の運営に携わることになったのは、18年のこと。この温泉宿は、木浦地区の人たちが共同で管理・運営する「集落運営」という形で守られてきたが、働き手の高齢化により宿は休業。日帰り温泉の業務も、体力的に厳しくなっていた。そのため、施設の担い手を市の回覧板で募集していたのだ。
秋山郷の宿で働いていた靖子さんは、すぐに手を挙げた。祥太さんは当時のことをこう話す。
「僕は靖子の2年後に移住したのですが、来たら温泉宿をやることが決まっていて(笑)。でも、ここは来る人来る人に『いらっしゃい、よく来たね』って受け入れてくれる土地。それに感動し、やってみたいと思いました」
20年には娘の日和(ひより)ちゃんも誕生。コロナ禍で両親に来てもらうこともままならなかったが、集落の人たちに助けられた。
「みんなが代わる代わる面倒を見てくれて本当にうれしかった。大好きな人たちが大切にしてきた、地域の宝であるゆとり館。これからもずっと守っていきます」(靖子さん)
温泉DATA 長者温泉ゆとり館
泉質……メタケイ酸泉
温度……源泉12℃、湯船42℃
効能……皮膚病、アトピー、湿疹、虫刺され、神経痛など
長者温泉ゆとり館
所在地:新潟県糸魚川市木浦18778 ☎025‐566‐3485
https://yutorikan-onsen.webnode.jp
https://www.facebook.com/yutorikan/
文/はっさく堂 写真/村松弘敏 写真提供/糸魚川市観光協会
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