掲載:2022年1月号
糸魚川市(いといがわし)木浦(このうら)地区の人たちが大切にしてきた温泉を受け継いだ、関東地方出身の屋村さん夫妻。これまでの運営方法を教えてもらいながら、クラウドファンディングで12泊プランも新設。暮らしに密着した温泉の魅力を発信し、地域のファンを増やす方法を模索中だ。
千葉県出身の屋村祥太さんと、埼玉県出身の靖子さん、娘の日和ちゃん (1歳8カ月)、秋田犬の吉は3歳のときに保健所から譲渡された保護犬。
自宅は海の近く。天気のいい日には外に出て、夕日を眺める。
「『まんが日本昔ばなし』に出てくる里山みたいでしょう?」と、靖子さん。
新潟県西端に位置し、南は長野県、西は富山県に接する。国石であるヒ スイがとれる珍しい地質で、日本で初めて世界ジオパーク(現ユネスコ 世界ジオパーク)に認定された。東京駅から糸魚川駅まで北陸新幹線 で約2時間。東京から上信越自動車道、北陸自動車道経由で約4時間。
旅人を受け入れてくれる地域の土地柄に感動
日本海沿いを走る国道を山側へ曲がり、車で約10分。紅葉が深まりつつある道の奥に、まるで昔話に登場しそうな集落が現れた。ひときわ目をひくのは、茅葺き屋根の大きな古民家。長者温泉の一軒宿「ゆとり館」だ。
「この家は、ここに移築されて100年ほど。使っている材としては、200年を超えるかも」
そう話すのは、埼玉県出身の屋村靖子(おくむらやすこ)さん(35歳)。2016年に糸魚川市に移住し、宿の代表を務めている。
靖子さんと夫の祥太(しょうた)さん(35歳)が移住を考え始めたのは、11年の東日本大震災の直後。電気と物流が止まり、「自分たちが完全な消費者だということに気がついた」ことがきっかけだ。
先に靖子さんが移住し、津南町(つなんまち)の秋山郷(あきやまごう)にある宿で働いた。ある日、国道8号を西へドライブしていると、右が海、左は山という景色が現れた。海と山が同時に迫る光景に感動した2人は、空き家バンクで付近の物件を探し、海の近くの家を購入した。
ゆとり館の運営に携わることになったのは、18年のこと。この温泉宿は、木浦地区の人たちが共同で管理・運営する「集落運営」という形で守られてきたが、働き手の高齢化により宿は休業。日帰り温泉の業務も、体力的に厳しくなっていた。そのため、施設の担い手を市の回覧板で募集していたのだ。
秋山郷の宿で働いていた靖子さんは、すぐに手を挙げた。祥太さんは当時のことをこう話す。
「僕は靖子の2年後に移住したのですが、来たら温泉宿をやることが決まっていて(笑)。でも、ここは来る人来る人に『いらっしゃい、よく来たね』って受け入れてくれる土地。それに感動し、やってみたいと思いました」
20年には娘の日和(ひより)ちゃんも誕生。コロナ禍で両親に来てもらうこともままならなかったが、集落の人たちに助けられた。
「みんなが代わる代わる面倒を見てくれて本当にうれしかった。大好きな人たちが大切にしてきた、地域の宝であるゆとり館。これからもずっと守っていきます」(靖子さん)
売店にはゆとり館オリジナルグッズをはじめ、地元の作家による作品やフェアトレード商品が並ぶ。
温泉に来る地元の人は、事務室に立ち寄っておしゃべりしてから帰る。
屋村さん夫妻が「師匠」と呼ぶ、ゆとり館元館長。野菜づくりも教えてもらっている。
和室をDIYでフローリングに!
靖子さんのお父さんがコツコツとつくっているウッドデッキ。ピザ窯ももうすぐ完成だ。
空き家バンクで見つけた物件は、築約50年で、床や壁に経年劣化が。靖子さんが中心となってリノベーションした。
「家を買うとき、売主さんが一緒にご近所の挨拶まわりをしてくれたんです。おかげでスムーズに地域に入ることができました」(靖子さん)
借りている畑で。眺めのいい畑で育った野菜は、宿の料理の材料にも使われる。
温泉DATA 長者温泉ゆとり館
泉質……メタケイ酸泉
温度……源泉12℃、湯船42℃
効能……皮膚病、アトピー、湿疹、虫刺され、神経痛など
昔から傷に効くとして知られていた木浦集落の湧き水が温泉と認定され、1995年に温泉宿兼日帰り施設がスタート。
長者温泉ゆとり館
所在地:新潟県糸魚川市木浦18778 ☎025‐566‐3485
https://yutorikan-onsen.webnode.jp
https://www.facebook.com/yutorikan/
文/はっさく堂 写真/村松弘敏 写真提供/糸魚川市観光協会
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