ジーンズや学生服など繊維産業が盛んな岡山県倉敷市。アパレル未経験ながら「自分の好きなGジャンをつくりたい」とデニムジャケットのオリジナルブランド「ダンジョデニム」を立ち上げた福川太郎さん。産地の利点を活かし、デザインから縫製、販売を手がけ、2021年には待望の店舗をオープンした。YouTubeチャンネル「縫製ばぁ【縫製バラエティ】」も大人気だ。
掲載:2022年1月号
理想のGジャンを求め、アパレル未経験から起業
瀬戸内海の穏やかな気候に恵まれた岡山県倉敷市。市の中心部から車で30分ほど離れた児島(こじま)地区は、国産ジーンズ発祥の地として知られ、学生服や帆布の生産も盛んな繊維のまち。この地でデニムジャケットのオリジナルブランド「ダンジョデニム」を立ち上げたのが、2017年に移住した福川太郎(ふくかわたろう)さん(42歳)だ。
福川さんは茨城県出身。移住前は東京の会社に勤めていた。高校時代からデニムジャケットが好きで、16年に倉敷市児島産業振興センターで開催されたジーンズ縫製実践講座の受講をきっかけに「自分でGジャンを縫いたい」と起業を決めた。
「当初は東京での起業を考えていましたが、素人同然なので融資を受けられませんでした」
そこで事業の拠点に選んだのが倉敷市児島産業振興センターにある「デザイナーズインキュベーション」だった。市内で新たにアパレル関連産業の事業を始めようとする人などが入居でき、事務所はもちろん、工業用ミシンや裁断機、アイロン、作業台など、本格的な設備が整ったワークスペースもいつでも利用できる。
センター長の上田剛久さんは、「これまで約20人が創業しました。2階には商工会議所があるので、開業資金の調達や店舗の物件探しの相談もできます」と、地場産業を盛り上げようと多角的に支援している。
インキュベーションの使用期間は原則3年。福川さんは、児島地区内に見つけた空き物件に移り、21年10月に店舗をオープン。工房を併設し、工業用ミシンの購入には市の補助金を活用した。
福川さんがつくるデニムジャケットは、細身の人にも似合うスタイリッシュなデザインが特徴。店舗で試着してもらい、袖丈を調節して販売していく。デニムは色落ちも楽しめ、長年愛用できる商品。縫製した年月のネームを縫い付けるため、記念日に因んでの購入もおすすめしたいという。
デザインから縫製まですべてを1人で行っている福川さんだが、それだけで服はできない。
「デザイン画を服にするための型紙を起こすパタンナーやミシン屋さん、生地屋さんなど、服をつくる工程に携わる職人が児島にはギュッと集結しているので、なにかと助かります」と児島での利点を話す。
福川さんは、児島地区の縫製業者6人で結成したYouTubeのグループ「縫製ばぁ」で、縫製の楽しさややりがいを発信中。地域の町おこし団体にも参加している。
「倉敷市はわりと都会ですが、児島は集中できる静かな環境。いまの年齢に合っているかな。今後は、月20着の注文が目標です。儲けたいというより、着てもらって『いいな』と思ってくれる人を増やしたい。お客さんにとって、一生に1着のGジャンをつくっていきたいです」
ダンジョデニム
岡山県倉敷市下津井1-9-31 営業/毎週日曜13:00~17:00
https://danjodenim.com
Instagram/@danjo_denim
福川さんから起業アドバイス
お客さんに喜んでもらうことを第一に
地元産業での起業はメリットが多いです。生地やボタンが手に入りやすかったり、ミシンのメンテナンスがすぐに手配できたり。情報も集まりやすいので、ありがたいです。理想のGジャンをつくりたいという思いから起業しましたが、お客さんに喜んでもらうことが一番うれしい。長くお店を続けていくなら、お客さんのことを第一に考えるのが大切です。
デザイナーズインキュベーション
繊維産業を活かした起業や新規事業の創出を支援する倉敷市児島産業振興センターによる事業。約30台のミシンがあるワークスペースや撮影設備のある多目的コーナーがあり、倉敷市内でアパレル関連産業のデザイナーなどを目指す個人や個人のグループが利用できる。使用料は入居する事務室の大きさにより月1万8656~3万4951円(共益費、電気代込み)。7室まで。
倉敷市児島産業振興センター ☎︎086-441-5123 http://www.kip-center.jp
倉敷市移住支援情報
地方の不便さを感じないバランスのいい都市
瀬戸内の穏やかな景色が広がる一方で、数多くの商業施設や大規模病院が立地する倉敷市は、充実した生活環境と交通の利便性が高い都市。お試し住宅(1泊1000円、2泊~)やテレワーク移住支援補助金(最大30万円)、東京圏からの移住者を対象にした移住支援金(最大100万円)、東京・大阪圏在住者を対象にした交通費補助がある。
くらしき移住定住推進室 ☎︎086-426-3153 https://iju-kurashiki-gurashi.jp
文/田中泰子 写真/青地大輔
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