TJ MOOK『田舎暮らしの本特別編集 山を買いたい!』より
※2020年1月取材時の内容です
山での自給的暮らしに憧れて、全国各地で季節労働をしながら土地探しをしてきた近藤誉さん。そして巡り合ったのは、それまで縁もゆかりもなかった岡山県の沢が流れる8000坪の山林。住まいはセルフビルドした6坪の小屋、ライフラインは自然の恵み。そんな山の中で育まれる家族の暮らしとは?
近藤誉(こんどうほまれ)さん(42歳)
埼玉県鶴ヶ島市出身。大学卒業後、バックパッカーでアジアを回り、その後東京でカメラマンなどの仕事を4年ほどやって、オーストラリアへ。帰国後、田舎暮らしを志し、2014年から山で自給生活。現在は今住んでいる山を紹介してくれた不動産屋での山林整備や物件紹介などの手伝いを仕事にしている。
ブログ「地球生活NEO」https://neoearthlife.com/
近藤千里(ちさと)さん(42歳)
兵庫県神戸市出身。2012年、西日本を旅していた近藤さんと京都で出会い、山暮らしを始めるのを機に結婚。現在は専業主婦。
近藤乃空(のあ)ちゃん(4歳)
近藤根生(ねお)くん(5カ月)
車が通れない山道の先にある6坪の小屋
「湯郷(ゆのごう)温泉近くの神社に着いたら電話をください」
今回取材する近藤誉さんに住所を尋ねると、メールの返信にはそう書かれていた。どうやら車のナビではたどり着けない場所らしい。湯郷温泉は岡山県北の美作三湯(みまさかさんとう)のひとつで、中国地方きっての温泉地。その神社は、賑わう温泉街の町外れにあった。
早速、近藤さんに電話をかけると、「あ、着きましたか。そしたら神社を右に見て道なりに来てください。間もなく二股の分岐があるので、そこは左。そのあと、小さな集落がありますが、それを過ぎると人家はありません。しばらく走ると道端に車が2台止まっているので、そこで待っていてください」
小川に沿って延びる谷間の道を案内されたとおりに進んでいく。車がすれ違えるくらいの道幅はあるが、交通量はほとんどない。集落を過ぎて1kmほど走ったあたりで路肩がちょっと広くなった場所に、車が2台止まっていた。ここだ。しかし、周りに家らしきものはない。道の両脇は雑木林の山肌だ。と、その山の中から髪の短い男性がこちらにゆっくりと歩いてきた。
「こんにちは。近藤です。うちはこの山の中なんですが、ご覧のとおり車が入れない山道なので、この先は歩いていきましょう。200mくらいかな」
近藤さんのあとについて雑木林の中に延びる山道を上っていく。足を一歩踏み出すたびに地面に積もった落ち葉がサクサクと乾いた音を立て、清冽(せいれつ)な沢の水が谷をサラサラと流れていく。
「今は木々が葉を落として緑もまばらですけど、春は色とりどりの花が咲いて本当にきれいなんですよ。沢はホタルの生息地で、6月の夜はそこら中にホタルが飛び交います。家にいながら毎晩ホタル観賞ができるって、ちょっとすてきでしょ」
車を止めた場所からなだらかな坂道を3分ほど歩いただろうか。沢が流れる谷のわずかな平地に板張りの四角い小屋が見えた。窓から女の子が手を振っている。長女の乃空ちゃんだ。
「わが家です。まぁ、家といっても電気も、水道も、ガスもないわずか6坪の小屋ですけど(笑)。昨年秋に長男が生まれて家族が4人になったんで、少し狭くなってきたかな。増築も考えているんですが、山の中で生活していると、毎日やらなきゃいけないことが多くて、なかなか手が回らない。でも、そんな日々こそ、僕がずっと前からやりたかった暮らしなんですよ」
自宅に続く山道。入り口に手づくりのポストがあり、郵便物もちゃんと届く。
小屋の窓から手を振る乃空ちゃん。窓は廃材のガラスを利用した手づくり。折り紙でかわいらしくデコレーション。
テント生活をしていたころから、今も荷物置き場として使っているティピーテント。竹の支柱に防炎シートを覆いかぶせたものだ。
一年中水が枯れることのないきれいな沢が小屋の前を流れている。山を散策すると沢沿いに石垣があり、かつて棚田があった形跡が見られる。
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