掲載:2022年2月号
結婚から妊娠、出産、育児、就学と、若者・子育て世代への支援が充実する日立市。産前産後から乳児期のママにもうれしいサポートが整っている。海や山の自然に加え、身近なところに遊びの場や相談できる人がいっぱい。子どもと一緒に安心して暮らしが楽しめる。
茨城県日立市
県北部の中核都市で人口は水戸市、つくば市に次ぐ県内3位の約17万人。東は太平洋に接し、西に多賀山地が連なる。温暖な海洋性気候で、年平均気温14.5℃。日立製作所創業の地。東京~日立は常磐線特急で約1時間40分、常磐自動車道利用で約2時間(約150km)。
都内より子育て関連の施設やイベントが多く低料金
小室有梨さん(38歳)は、1人目を出産したばかりで服飾ブランドの企業を産休中に移住を決めた。夫が出身地の日立市内にチャレンジしたい仕事を見つけたのがきっかけだった。
「私は都内で復職するつもりでしたが、子育てを充実させたい気持ちもあって。思い切って引っ越すことにしました」
東京育ちの小室さん。日立に来るとまちを歩く人の少なさに戸惑ったというが、大好きな海がすぐそばにあり、魚や野菜がおいしい環境が気に入った。
「落ち着いて子育てするにはいいところです。都内で子育てする姉に話を聞くと、日立市のほうが施設やイベントが多いですし、しかも無料や低料金で利用しやすいんです」
近くの保育園や認定こども園が子育て支援センターも兼ねており、乳幼児向けの遊びのプログラムは週に数回開かれる。
「新型コロナウイルス流行以前は予約なしで参加できました。ほかにも図書館では月2回の読み聞かせがありましたし、シビックセンターではベビーカーで入れるコンサートも楽しめました」
日立駅近くに住まいを探した小室さんは、多くの施設を徒歩で利用。プールや体操など子どもにさせたかった習いごとにも歩いて通う。
「市外から来た人で、車が運転できない人は意外に多いです。私もペーパードライバーでした。運転の講習を受けて乗れるようになると、景色がいいところにも行けるしお店の駐車スペースも広く快適で、楽しいですよ」
妊娠期から切れ目のない支援。移住者ママに優しい支援
日立市では産前産後のママのためのさまざまな支援が充実している。小室さんが2人目を産むとき利用したのは「マタニティ子育てタクシー費用助成(コラム③参照)」。
「車の運転がまだ不安だったので助かりました」
おむつやミルクの購入に使えるクーポン券(コラム⑥参照)は、当時6万円分だった。
「実際に使ってみると約10カ月間購入できました。今は8万円分なので、丸1年賄えるでしょう」
ほかにも、希望すれば産後に助産師の訪問が受けられたり、自宅にヘルパーを無料で派遣してもらえるなど、慣れない土地での育児にうれしいサポートがある。日立市シティプロモーション推進課長の富永淳子さんは言う。
「市は日立製作所やJX金属の企業城下町として発展してきました。転勤などで転入され、妊娠出産や子育て中に身近な親や親戚の支援が受けられない家族が多いんです。その方がたの視点で、妊娠出産や、乳幼児から18歳までの子育てを切れ目なく支援しようと、施策を重ねています」
ヘルパー派遣の利用者アンケートでは、家事負担の軽減と同時に「子育て経験豊富なヘルパーに育児のことを聞けて、ストレス解消にも役立った」という声も多かったそう。また、市ではよりよい支援ができるよう、保健センター、子どもセンター、子育て支援課など、子育てにかかわる各部署同士や、市と医療機関、保健所などが情報を共有する機会を毎月定期的に設けている。
市の健康づくり推進課の松本美友紀さんは、「市は出産後2週間後と1カ月後の健診に助成していますが、例えばこのときの質問票で産後うつのリスクが高い方に本人の同意を得て、保健センターから必要なケアを提供するなど、連携によってきめ細かな支援ができます」
と言う。国も後押しするこうした取り組みを、日立市は先駆的に進めている。
■スゴイ! 出産・育児支援①
無料でヘルパーを派遣! 産前・産後ママサポート事業
市外から転入して近くに親族がいないなど、日中に家族などの支援が受けられない妊娠中や1歳未満の乳児を育児中の家庭は、20回(多胎児40回)まで無料で家事ヘルパーを派遣してもらえる。
■スゴイ! 出産・育児支援②
出生届け時に現金3万~10万円! お誕生おめでとう事業
最初の住民登録地が日立市の子どもを対象に、健やかな成長を願う誕生お祝い金。第1子3万円、第2子5万円、第3子以降10万円が贈られる。出生届を提出した父母に、その場で現金で手渡される。
■スゴイ! 出産・育児支援③
出産や健診にはタクシーで! マタニティ子育てタクシー費用助成
妊産婦や1歳未満の子どもの保護者を対象に、健診、出産、子どもの予防接種などで市内医療機関(市内医療機関の紹介状があれば市外周産期母子医療センターも対象)に通院する際のタクシー料金を助成。通算限度額3万円。
安心育児は医療の充実と地域とのつながりで
子育て支援の充実を進める市には、人口高齢化への危機感があった。全人口のうち65歳以上は33.0%、15歳未満は10.0%(令和3年10月)。今後、人口構造を少しでもバランスよくキープするため、市の総合戦略も子育て世代への施策に重心を置く。平成28年度にスタートした出産祝金「お誕生おめでとう事業」は、市の方針を象徴するもの。当初の第1子1万円、第2子3万円、第3子以降10万円は、令和3年度から第1子、第2子の額が引き上げられた(コラム②参照)。
おむつなどの購入に使えるクーポン券の支給は市内の医療機関で出産した人が対象。その理由を市の地域医療対策課長の清水博行さんに伺った。
「少子化が進む今、地方では分娩に対応する産科の存続が難しくなっています。そのようななか、市内の産科医療機関を守る必要があるので、市と日立総合病院との協力体制を築いているのです。今年度は病院の小児科医が8人に増え、新生児に対する高度で専門的な医療に対応できるようになりました。来年度からはハイリスクの分娩にも対応できるよう準備中です」
医療の充実を進める一方、地域では市内に23ある交流センターで、地域のボランティアがおもちゃを出して迎えてくれる「おもちゃライブラリー」を月2〜4回開くなど、ご近所のつながりを育てる場もつくられている。子育て支援課の中野芳恵さんは言う。
「安心して育児をするために大切なのは専門職のサポートだけではなく、同じ時期に身近で子育てする仲間や、地域で見守ってくれる人とのつながりです」
コロナ禍のなかでは毎月の母親学級を対面のほかオンラインでも行うなど、新たなスタイルの交流も始まった。
地域創生推進課の鈴木大成さんからは、日立市では減少していた出生数が令和元年の909人から、令和2年は921人に増えたと伺った。
「市の子育て支援策は要望に応えながら年々底上げされています。日立市で安心して子育てしていただけたらうれしいですね」
■スゴイ! 出産・育児支援④
産前17回、産後2週&1カ月後、妊産婦健康診査への助成&産後ケア事業
出産前の健診への助成14回に、3回を上乗せして予定日より出産が遅れた場合の自己負担を軽減。産後2週間と1カ月ごろに受ける健診費用、1回当たり上限5000円を助成。必要な人には訪問、通所、宿泊合わせて7日以内の産後ケアを実施。
■スゴイ! 出産・育児支援⑤
気軽に行ける遊びと相談の場、子どもセンター&子育て支援センターが充実
親子で遊べるスペースや広い庭を持ち、遊びや相談を提供する「子どもセンター」のほか、市内各所の保育園や認定こども園などでも「子育て支援センター」として同様の事業が行われている。
■スゴイ! 出産・育児支援⑥
赤ちゃんの産まれた家庭に8万円のクーポン券&ゴミ袋60枚を進呈!
市内の医療機関で出産した市民には、乳児用おむつ、おしりふき、ミルクを購入できる「ひたちすこやか赤ちゃんクーポン券」が贈られる(乳児おむつ等購入費助成事業)。出生届提出時には新生児1人につき、燃えるごみ処理袋60枚とエコバッグ1個が受け取れる(新生児誕生世帯ごみ処理袋支援事業)。
まだある! 日立市の出産・育児支援
- 第2子以降の保育料無料
- 5歳児健康診査
- ブックスタート事業
- 図書館子育て支援コーナー
- ひたち子育て応援マイホーム取得助成
- 小児医療福祉費助成(0~18歳まで)
- 任意予防接種費用の助成
- 学校給食費の助成(1人当たり500円/月)
- 学校給食でのアレルギー除去食の提供
- 公設放課後児童クラブ(小学校6年生まで)
- ランドセルの無償支給
不妊治療への助成も拡充!
市では特定不妊治療への費用を助成。初めて助成を受けた際、治療開始日の妻の年齢が40歳未満で通算6回まで、40~42歳で通算3回まで助成が受けられる。限度額は1回の治療につき10万円。
日立市 そのほかの移住支援情報
移住してテレワークする会社員やフリーランスを応援
ひたちテレワーク移住促進助成事業では、県外企業への勤務を続けながらテレワークする人や、県外企業などから受注してリモートワークで仕事を続けるフリーランスの移住者(39歳まで)に助成。額は水道料金や通信機器設備費、市内のコワーキング施設やカフェの利用に使えるチケットなどを含め、住宅取得の場合は住居分を合わせて最大151万5000円、賃借の場合は家賃などを合わせて最大101万5000円。
地域創生推進課 ☎0294-22-3111(内線448)
日立市移住ポータルサイト「ひたちぐらし」 https://hitachi-gurashi.com
iju@city.hitachi.lg.jp
文/新田穂高 写真/鈴木千佳 写真提供/茨城県日立市
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