掲載:2022年2月号
ぜいたくはできなくとも楽しい毎日を求め、高コスト暮らしの東京からうどんの国の里山へ。身の丈に合った農業と、趣味の料理で培った技と味で、ストレスのない暮らしを獲得している家族を訪ねた。
支出とストレスは大幅減、家族の時間は大幅増加
永井博之さん●51歳、早苗さん●47歳、奏風さん●15歳、凛風さん●13歳
4人家族。博之さんも早苗さんも埼玉県出身。2016年に家族で東京都から移住。夫婦で農業とカレー屋「風凛堂(ふうりんどう)」を営む。
春にはタケノコ、秋にはカキなど、四季折々の幸豊かな三豊市財田町。田畑を囲む低山の紅葉が盛りの里山を、永井さん夫妻と歩いた。
「ここの風景が、私が親しくしていた有機農家と似ている気がしたんです。これはいいなと、移住を決めました」
まだ東京にいたころ、博之さんは都内の会計事務所に勤めながら、埼玉県の有機農業の学校で1年間学んだという。
「そのとき研修で何軒か有機農家を訪ねたのですが、とてもひかれた農家があって」
学校を修了したあとも、週1回ぐらいその農家でお手伝いをした。
「彼らは、ぜいたくはしていないけど楽しそう。自分で食べ物を育てて食べる、そんな生き方もいいなと思ったんです」
東京での生計は安定していたが、なにせ住宅や教育関連の支出が大き過ぎる。このままでいいのか……そんなとき香川県の移住相談会を訪れ、三豊市のことを知る。農地も、行政からの手助けもありそうだ。そして下見に訪れたとき、ここの里山風景に出合ったのだった。
移住先の住み処は、何度か財田町を下見したときに知り合ったゲストハウスオーナーの尽力もあり、農地と山林付きの家を購入できた。水田も3反借り、農機具も主に中古で揃えた。
そして、ついに有機農法での稲作が始まるのだが、1年目にして「農業だけで自活するのは大変だ」と気づく。博之さんがスパイスカレーを地域の人に振る舞ったのがそのころだった。
「そうしたら、おいしい、商売にしたらと言われて。昔から料理が好きでいろいろ試してきたし、なら『半農半カレー屋』だと」
永井さんの店「風凛堂」は、実店舗を持たない週休3日制。週2日、注文を受けてカレー弁当を個人宅や役場に配達する。週末は近所の道の駅やイベントなどでも弁当として販売する。
「キッチンカーはありません。普通の乗用車で配達します。注文はLINEで受けています」
つまり、風凛堂のカレーを注文できるのは知人やその知人。配達はほぼ近所のみ。
「生活できるの?ですよね(笑)。でも、生活できる分だけ稼げればよいというスタンスなんです。家のローンも、東京でかかるような諸経費もない。なんとかやっていけます。今後はカレーの通販も予定していますよ」
このカレー事業もだが、永井さん夫妻が移住後に到達した境地は、あまり無理をしないこと。そして、人に頼るということ。
「農機具を全部自分で所有せず、一部は借りるようになった。今年は稲刈りを人に頼んだり」
そんな軽やかな生き方が伝播したのか、次女から、将来はお父さんみたいになりたいな、と言われたそうだ。
「だって自由だし、なんて言ってました。冗談でしょうけど」
財田町に移住して6年目の永井さん夫妻。背伸びをしない田舎暮らしは順調のようだ。
永井さん夫妻に聞く「移住して、ここが変わった!」
博之さん「食については、あるものというか、季節のものを食べるようになりました。それから、風邪をひかなくなったなあ」
早苗さん「お父さんが出勤しないことですかね。娘たちにとっては、父親が家にずっといるというのが普通になってきました。それから、都会と比べて、こちらでは人とのつながりが増えました」
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文・写真/大村嘉正
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