茸本 朗(たけもと あきら)
1985年、岡山県生まれ。幼少期にキノコ図鑑を読み、採取活動に関心を持つ。小学5年生で釣りに夢中になり、さらに現在も愛用する出刃包丁を買ってもらったことで、野食(やしょく)に目覚める。著書に『野食のススメ-東京自給自足生活』(星海社新書)、原作を手掛けた漫画に『僕は君を太らせたい!』(作画・横山ひろと、小学館)がある。テレビ番組への情報提供・出演も多い。
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我が国の都市は、世界の大都市と比べ「自然が多い」と言われますが、その理由のひとつに河川敷の存在が挙げられます。雨の多い日本では河川の増水がしばしば発生するため、大きな河川敷を設けて洪水防止を図っているところが多いです。そして多くの生物にとってそこは都会のなかのオアシスになっています。
河川敷には多くの食べられる野草があり、ときに野菜顔負けの大きさにまで成長するもの、味のよいものがあります。また川辺にはさまざまな小動物が生息していますが、そのなかには市販の安価なタモ網でたくさん獲れる美味な食材も少なくありません。今回はこのようなもののうち、判別の容易な15種をご紹介します。
なお、河川敷は「河川法」という法律などによって扱いが規定されており、基本的には誰もが採取を行ってよい場所となっています。しかし「木や竹を切る」「地形を改変する」「漁業権のあるものを採取する」ことは禁止されています。今回紹介するターゲットはいずれもそのような行為を必要とせず採れるものです。
【カラシナ類】
独特の辛みと香り高さが魅力の各種野菜の原種
【採取する季節】 冬~春
【採取の容易さ】簡単
【味のよさ】美味しい
上~中流域で普通に見られる。ハマダイコンと似ているが葉がややギザギザしており、葉柄に棘がある。高菜やザーサイの原種で、ぴりりとした辛さと強い香りがあり、炒め物や漬物で美味。種はマスタードの原料になる。
私が採取に愛用している「髙儀 菊堂 山菜掘りケース付」。切る・割く・掘る・突くと多目的に使える。1000円以下で購入した。
2月3日の多摩川河川敷では菜花(なばな)が食べごろだった。菜花はアブラナ科アブラナ属の花芽の総称。アブラナ属は交配しやすいものが多く、多様性に富んでいる。
【ノビル】
冷蔵庫に常備したい野生の万能ネギ
【採取する季節】 周年
【採取の容易さ】 簡単
【味のよさ】 すごく美味しい
高い知名度を誇る野生のネギ。どこにでも生えているが、日当たりがよく土の肥沃な場所に生えるものは太く、利用価値が高い。緑の部分は青ネギの代わりに、白い部分は白ネギの代わりになり、小口切りにして冷凍しておけば便利。球根は辛みが強く、あまり美味とは思わない。
【ギシギシ/スイバ】
ぬめりが多く胃腸に優しい身近な生薬食材
【採取する季節】 周年
【採取の容易さ】 簡単
【味のよさ】 普通
どこにでも生えている雑草の代表種。いくつか種類があるが、いずれも同様に利用できる。新芽には強いぬめりと酸味があり、おひたしや汁の実にするとホウレンソウやジュンサイのように楽しめる。スイバの赤い葉はジャムにしてルバーブの代用に。
【ハマダイコン】
見つけやすく汎用性も高い野生の大根
【採取する季節】 冬~春
【採取の容易さ】簡単
【味のよさ】すごく美味しい
下流域で普通に見られる野生の大根。掘ると白い根がついているのですぐにわかる。葉の味は市販品と変わらず、味噌汁や炒め物で美味しい。根は市販品と比べると細く辛いが、薬味や煮物にして美味。
河川が氾濫した翌年、河川敷の土壌が肥沃化してハマダイコンの根が肥大化した。
【タネツケバナ】
甘みと刺激のハーモニーが楽しい「陸のクレソン」
【採取する季節】 周年
【採取の容易さ】 簡単
【味のよさ】 すごく美味しい
小さい草で見つけにくいが、慣れるとどんな場所でも見つけられる。クレソンをミニチュアにしたような外見だが、水気のない場所でも旺盛に生育する。全草柔らかく、ワサビやクレソンのような刺激があって生でも美味しい。
【スベリヒユ】
世界で愛される野草離れした美味しさ
【採取する季節】 周年
【採取の容易さ】 探せばある
【味のよさ】 すごく美味しい
独特の多肉的な茎が特徴。日当たりのよいやや肥沃な土地に多いが、アスファルトの隙間から顔を出すこともある。爽やかな酸味とぬめりがあって歯ごたえもよく、山形などでは野菜として八百屋にも並ぶ。ギリシャではサラダの具材として人気。
【クルミ類】
どこでも拾え、市販品と遜色ない味
【採取する季節】 秋
【採取の容易さ】 簡単
【味のよさ】 すごく美味しい
水に運ばれることで生息地を広げるので、河川沿いなら普通に見られる。オニグルミが多いが場所によりヒメグルミも。緑色の果実が割れると見慣れた殻が顔を出す。味は市販品と全く一緒。固く割るのが困難なので万力があると便利。
【クワ】
河川敷の初夏を彩るフルーツ
【採取する季節】 初夏
【採取の容易さ】簡単
【味のよさ】美味しい
河川沿いならまず生えている木本(ほんもく)植物(いわゆる「木」。幹が木化し、肥大生長する植物)。ヤマグワと栽培クワのいずれも普通に見られる。初夏に熟す果実は生食のほかジャム、製菓材料によい。果実のサイズと甘みの強さは比例しない。汁が服につくと洗濯しても落ちないので注意。
【ホテイチク】
河川敷で密かに人気の野生タケノコ
【採取する季節】 初夏
【採取の容易さ】 簡単
【味のよさ】 美味しい
竹を切ることはできないが、タケノコの利用は問題ない。ハチクよりやや細いがアクが少なく、採りたてを調理したものは香りの高さもあって美味。
【キクラゲ類】
見分けが容易な初心者向けキノコ
【採取する季節】 春~秋
【採取の容易さ】 探せばある
【味のよさ】美味しい
さまざまな種の倒木に発生し、春先から秋の終わりまで長期間見られる。独特のゼリー状の質感とまるで耳のようなシルエットは判別しやすい。背面に微毛が生えているものはアラゲキクラゲと呼ばれ、博多ラーメンの具として有名。
【カメ類】
誰でも捕獲可能な「ジビエ」
【採取する季節】 初夏~初秋
【採取の容易さ】 探せばある
【味のよさ】 すごく美味しい
食材として著名なスッポンのほか、ミドリガメ、カミツキガメなどが食用になる。爬虫類や両生類は採取に当たり狩猟免許を必要としないため、誰でも獲れる貴重な「肉食材」。スッポンとカミツキガメは地鶏に、ミドリガメは牛の赤身肉に似た味がする。
【アメリカザリガニ】
エビとカニの中間的な「小さいイセエビ」
【採取する季節】 春~秋
【採取の容易さ】 簡単
【味のよさ】すごく美味しい
ペットや釣りの対象として人気のザリガニだが、味はとてもよく世界中で食用にされている。中国では「小龍蝦(小さなイセエビの意)」と呼ばれ、辛く味付けした炒め煮が人気。中央の尾羽を捻りながらちぎり、ゆっくり引っ張ると背わたが簡単に抜ける。
【ウシガエル】
世界で問題になる外来種は超美味
【採取する季節】 初夏~初秋
【採取の容易さ】 ちょっと難しい
【味のよさ】 すごく美味しい
日本最大のカエルで、牛に似た大きな声で鳴く。警戒心が強く捕獲は簡単ではないが、1匹でも捕まえれば十分に楽しめる。味は鶏肉に似ているが、ゼラチンが多くより美味。特定外来生物であり、捕獲後は現地で背骨を切断するなどして締める必要がある。
【スジエビ/テナガエビ】
居酒屋でも人気の「川エビ」
【採取する季節】 周年
【採取の容易さ】簡単
【味のよさ】 すごく美味しい
川エビと呼ばれるものの代表格。スジエビは上~中流に、テナガエビは下流~河口域に多い。大きなテナガエビは釣りでも狙われるが、タモ網で川岸をガサガサして獲るのが手っ取り早い。唐揚げのほか、大豆と一緒に煮た「えび豆」が美味。
【シラタエビ】
江戸前の隠れたブランド「ボサエビ」
【採取する季節】 周年
【採取の容易さ】 簡単
【味のよさ】 すごく美味しい
河口の汽水域に生息するエビ。スジエビよりもやや大きく、透明で青い触角が美しい。羽田周辺では「ボサエビ」と呼ばれ人気の食材となっている。味は香ばしさがあり甘みが強く、炒め物、煮物、揚げ物や干しエビで絶品。
文/茸本朗 写真/鈴木千佳、茸本朗
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