薪ストーブには、暮らしを一変させる力がある。美しい炎、おいしい料理、薪割り仕事。からだが芯から温まり、話が弾み、家族の絆が強くなる。北欧製のオーブン付き薪ストーブを導入して1年の竹林さんは、薪ストーブのある暮らしに、すっかり魅了されてしまったようだ。
新しい家への唯一のリクエストが薪ストーブ
釧路(くしろ)空港から車で20分ほどの釧路市阿寒町(あかんちょう)。秋風の中訪れたのは、外壁の一角に施した板張りが涼しげな印象の平屋。切り妻屋根にちょこんと突き出た煙突と、庭に置かれた薪棚に、ひと目で薪ストーブのある家だとわかる。
にこやかに招き入れてくれたのは、町内で郵便局長を務める竹林聖英(たけばやし きよひで)さん(41歳)。玄関の目隠しを抜けると、広々としたリビングの向こうに間仕切りなくダイニングキッチンがつながり、庭の見える大きな掃き出し窓から自然光が明るく差し込んでいる。その素敵な空間をいっそう魅力的にしているのが、キッチン側の壁に設えられたスマートな薪ストーブだ。
「最初は薪ストーブはちょっとなぁ、と思っていたんですよ。子どものころから休日に薪割りを手伝わされていたから、大変なイメージしかなくて」
楽しそうに薪ストーブに火を入れる聖英さんを見守りながら、妻の愛堅(あいか)さん(39歳)がそう打ち明ける。阿寒町出身の愛堅さんの実家では、昔から薪ストーブで暖をとっていたそう。せっかくの休日が頻繁に薪割りとなれば、子どもには残念だろう。
しかし昨年6月に完成したこの家を設計する際、聖英さんが望んだのはただ1つ、「薪ストーブを入れてほしい!」ということだけだった。唯一の望みをなくすのもねぇ……と笑いながら、愛堅さんはそれでも「薪を焚くのとエアコンでは暖まり方が全然違います」と話す。
↑ 今季初火入れのため焚き付け用の薪を組む聖英さん。
↑ キッチン側から見たリビング。薪ストーブならローソファでも足元から温まる。
食材をおいしく調理し 友人とのトークも弾む
4月ごろまで雪が残る道東では、木々が芽吹くのは5月半ばを過ぎてから。遅く短い夏でさえ、朝晩はぐっと冷え込むことがある。娘の麦凪ちゃん(つむぎ)ちゃん(7歳)と3人で暮らす竹林家は、計算された窓のおかげで太陽の恩恵を受けやすく、この1年で薪ストーブが活躍したのは10月〜4月ごろの約7カ月。5月以降で寒いときはエアコンで対処した。
「エアコンの暖房はほんのり暖まる感じ。やっぱり薪を焚くと、全体が芯から暖まりますよ」
聖英さんがにこにこと話す。メンテナンスを終えてから初火入れだというストーブでパチパチと薪がはぜる音に、う〜ん、いいですねぇ、と心底うれしそうだ。釧路市街地にある小さな港町で育った聖英さんの実家では、これも北国らしい練炭ストーブを使っていたそう。
「練炭ストーブは炎が見えません。炎のゆらぎが見える薪ストーブは憧れでしたね」
横長のタイプしか思い描いていなかったところ、釧路の専門店「薪ストーブあかり」でデンマーク・HETA(ヒタ)社のNORN(ノルン)と出合い、こんな形もあるのかと驚いた。家との相性や操作のしやすさ、オーブンが付いていることも決め手になった。
「料理好きではないので、オーブンは使うかなぁと思っていたんですが、あってよかった。ジャガイモをそのままとか、鍋に余り物の野菜や肉を入れておくだけでおいしくなるんです」 と愛堅さん。
ちょうど実家で育てたトウモロコシをもらったからと、皮付きのままオーブンに並べる。焦げ目がついたころに取り出し皮を剥くと、ふっくらと蒸し焼きになった黄金色の粒が現れた。香りや甘みが凝縮されておいしい! こんがりと焼けたピザとともに、無垢材のテーブルの上が華やいだ。
↑ 愛堅さんの両親が育てたもぎたてのトウモロコシを皮ごとオーブン室へ。
↑ 薪ストーブの上部に付いたオーブンで焼けば野菜がふっくらとおいしく仕上がる。
↑ オーブンに入れて数分で焼き上がったピザを切るとサクッと小気味よい音。
↑ 分厚い一枚板のテーブルは愛堅さんの父親の手づくり。人が集まるときは短い脚に替えれば座卓にも変身するそう。
薪ストーブが運んだ幸せはほかにも。この家に住む前はDIYと無縁だったという聖英さんは、薪棚を製作したり、薪づくりにいそしんだりするようになり、今では玄関の舗装や庭の整備も計画中だ。町内で同じストーブを使う人とも急に親しくなり、聖英さんいわく「これが最高」というストーブで炙ったスルメを肴に〝薪トーク〞が尽きないのだそう。今のところ薪はほぼ購入しているが、乾燥中の丸太を割るのも聖英さんの楽しみの1つ。暖房効果以上に、お父さんの笑顔やおいしい食事が、家族の時間を温めている。
↑ 火がちょっぴり怖い麦凪ちゃんだが、動線が広いので安心の空間で遊べる。
↑ 平屋ならではのゆったりとした家。上手に西日を避けながら日中はちょうどよく太陽光が入り、冬でも暖かいのだとか。
↑ 聖英さん自ら薪棚を製作。薪割り台と斧もいい風景に。
ヒタ ノルン・オーブン
価格 67万6500円(煙突は別途)
燃焼効率のよさや操作の容易さなど機能面はもちろん、北欧らしいモダンな姿が現代的な家にも好相性。炉内に高さがあり、ダイナミックな炎のゆらめきが見える。
●サイズ:幅504×奥行き468×高さ1190mm●重量:330kg●最大出力:9kW(7740kcal/h)●暖房面積:30〜120㎡ ※条件により異なる●最大薪長:約40cm●生産国:デンマーク
●問い合わせ先:ファイヤーサイド㈱ ☎03-6304-3030(東京営業所)︎
文/春日明子 写真/横井千春
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