住んでいる地方や住宅の構造、求める暖房域や機能などで、自分に合う薪ストーブは変わってくる。それに加え、近年はデザインも大きく変化してきた。現代の生活に合った薪ストーブ選びについて話を聞くため、国内でも寒さが厳しい北海道・釧路の専門店を訪ねた。
従来のイメージを覆す縦長の機種も登場
薪ストーブには安価で手に入る鉄板やステンレス製のストーブから、アウトドアでの使用を前提とした折り畳み式のもの、長く使用できる鋼鉄製や鋳物製のものまで多様にある。室内で10年以上使用することを想定したものでは、どっしりと重量感のある横長の形が長らく主流だった。薪ストーブあかりの代表・坂田禎之(よしゆき)さんに近年の傾向を聞いてみた。
「5年前くらいからでしょうか、縦長のデザインのものが輸入され始めたことで、当店ではそちらが人気になっています。設置面積が小さくてすむこと、現代住宅に無理なくなじむデザイン、メンテナンスのしやすさなど、理由はさまざまあります」
店でデモ機として稼働しているヒタ社のノルンは特に人気が高い。鋼鉄製のボディにバーミキュライトで覆われた炉内、二次燃焼システムはクリーンバーン方式。煙突の形状や操作にもよるが、煙突の中で上昇気流が発生し煙が排出される「ドラフト現象」が起きやすく、立ち上げが早いのだそう。
「炉内に触媒がないためメンテナンスが比較的容易で、針葉樹の薪を燃やせるのも特徴です」
↑ 最初はユーザーとして「薪ストーブあかり」を訪れ、スタッフとなり、2年前に前オーナーから引き継いだ代表の坂田禎之さん。
↑ デモ機はヒタ ノルン・オーブンとソープストーン壁が付いたタイプ。同じ縦型でも炉内の広さなどに違いがあるので慎重に選びたい。
国の排ガス規制によっても燃焼方式や構造が変わる
「アメリカは排ガス規制が厳しく、非常にクリーンな煙にしなければならないという事情があります。より効率よく燃焼させる触媒方式を採用しているものが多いのはそのため。煤(すす)が出にくく、においを感じにくいことを魅力に感じる方もいるでしょう。ただし触媒があるものは針葉樹の薪は使用を控えたほうが無難です」と坂田さん。
しかも、アメリカの排ガス規制は年々厳しくなっており、今後さらに変更される可能性がある。アメリカで販売するメーカーは、燃焼効率のよさを追求せざるを得ないということだ。一方、ノルウェーのようにクリーンバーン方式の薪ストーブしか販売できない国もあり、メーカーごとの特徴にはお国柄も出ているのが面白い。
↑ ノルウェーを代表する薪ストーブメーカー、ヨツールのクラシックなタイプ。サイドのレリーフが伝統を感じさせるデザイン。
↑ 炉内上部にパイプがある従来のクリーンバーン。燃焼効率がよいがメンテナンスはきっちりしたい。
↑ 四方を耐火煉瓦に覆われた炉を持つクリーンバーン方式のタイプ。掃除がラクで立ち上げが早い。
煙突の長さや設計で日々の使用感に差がつく
「煙突はできるだけ真っすぐに、縦の長さを確保するのが基本」と坂田さんは言う。
薪ストーブは炉内で発生した熱でできるだけ早く煙突内を暖め、外気温との温度差で生まれる上昇気流を利用して煙を排出させる。家の構造上、やむを得ず曲げる場合もできるだけ横引きを短くし、煙の流れを阻害しないことが大切だ。
↑ 上に長く延ばしたデモ機の煙突。曲げは短く、煙突内の温度ができるだけ下がらないような設計。
また、火入れの際に燃焼を手加減したり、薪を惜しんで燻(いぶ)してしまうと、安定するまで時間がかかったり煤が出て掃除の頻度が上がったりと、いいことがない。薪ストーブは道具であるため、設置方法や人の使い方によって耐久性や掃除の手間が変わってくることも頭に入れておきたい。
薪をどこで入手するか 薪仕事を楽しめるか
実際のところ、ほかの暖房器具と比べてランニングコストはどうなのかについて聞いてみた。
「例えば林業の方とか、薪を安く用意できる環境がある場合は別として、薪になったものを買うなら灯油ストーブなどより燃料費はかかると思ったほうがいいですね。北海道のような寒冷地であればなおさら、冬季は一日中焚くことになります。薪割りをするには時間も体力も必要。それを楽しめる方なら、薪づくりをすれば少しコストを抑えられます」
ストーブ周りの道具も手斧や灰を入れるバケツ、薪棚など、こだわり出したらきりがないほど素敵なものが販売されている。それらすべてを楽しめる薪ストーブ生活を思い描いてみたい。
↑ 近年流行中のキンドリングクラッカーは焚き付け用の薪を安全かつ効率よくつくれる。
↑ 函館生まれの着火剤、クリスピースターターは北海道産トドマツやカラマツのおがくずと使用済みロウソクを原料にしたエコな商品。
↑ 薪割り用の斧は実際に持ってみないと自分に合ったものか判断がしづらい。オンライン通販より販売店で触って選びたい道具だ。
根釧地方唯一の薪ストーブ専門店として釧路市内に店を構える。ダッチウエスト、ヨツール、モルソーをはじめ多数のメーカーを扱い、設置やメンテナンス、薪の購入などトータルにサポートする。
北海道釧路市愛国西3-1-18
☎0154-65-6960
営業時間:10:00〜18:00(毎週水曜休、不定休あり)
文/春日明子 写真/横井千春
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