中国山地の山々に囲まれ、農業や林業が盛んな鳥取県日南町。野菜、果物、卵など、日々の暮らしのなかで消費するものをできるだけ自分たちで生産する農家になりたいと、地域おこし協力隊としてこの地に赴任した家族を訪ねた。
掲載:2022年11月号
農業を楽しむ暮らしから、いつかは学び伝える場所に
コロンビア出身のモントージャ・ジオバニさん(50歳)は、2022年4月に日南町の地域おこし協力隊に着任し、兵庫県播磨町(はりまちょう)から家族で移住した。以前は、英語の先生をしていたが、妻の由美子(ゆみこ)さん(44歳)が、大山町(だいせんちょう)に住む高齢の両親を心配して移住を検討していたのがきっかけ。なかなか理想の物件が見つからず、鳥取県西部にエリアを広げて探したところ、不動産業者のサイトで日南町の今の家を見つけた。
実際に家を見に行くと、1000㎡以上の広い敷地に平屋の古民家が立ち、目の前に広がる景色も気に入った。英語やアウトドアの指導経験があるジオバニさんには、いつか農場をつくりたいという夢があった。
「畑があって、ヤギやブタを飼える家が見つかりました。同時に、農業研修生として日南町が地域おこし協力隊を募集していて、何もわからない場所で、1人で農業を始めるより、地域で農業を勉強できるならと応募しました」
任期は2年間。1年目は農業試験地での作業や自宅での農業指導員による研修があり、2年目は自宅の畑で実際に栽培する。赴任してすぐに自宅の周辺を少しずつ開拓し、取材時には夏野菜がたくさん実っていた。収穫した野菜は、乾燥させたり、漬け込んだりして保存食を試作しているという。
「特定の農作物を出荷する農家ではなく、何種類もの野菜や果物を栽培して、動物も飼育する農家になりたい。動物のフンを肥料にして循環させ、消費するものはできるだけ自分たちで生産していきたいです」
ジオバニさんの農業を手伝うこともある由美子さんは、日南町の観光と移住定住をサポートする一般社団法人「山里Loadにちなん」で経理の仕事に就いた。小学6年生の長男・康介(こうすけ)くんは、地元の小学校へ。バス停まで歩いて20分、さらにバスで約10 分。仲のいい友達もでき、地域のバレーボールチームにも所属した。
「児童数が多い前の学校に比べ、ここは1学年15人程度で児童数が少ない分、一人ひとりに目が行き届くのがありがたいです。以前はプールの授業も少なくて泳げなかったのが、移住して泳げるようになりました」と由美子さん。
週末は米子市の市街地まで買い物や外食に出かけたり、近くの温泉に行ったりして楽しんでいる。
任期後にジオバニさん家族が目指すのは、ファームステイ。なんでも生産する農家の暮らしを実践し、県外の人が宿泊して農業やアウトドア、英語などを学ぶことができる農家だ。農産物から自家製の加工品や肥料をつくり、販売も計画している。「次の世代にも農業の大切さを伝えていきたい」と夢は膨らむ。
ジオバニさんにお聞きしました「地域おこし協力隊Q&A」
Q収入面での不安は?
妻の仕事もあるので、不安は特にありませんでした。世帯収入は減りましたが、野菜を買う必要がなくなったので支出も減りました。農業や地域のことを学びながらお給料がもらえるので満足しています。
Q協力隊の任期の短さは気になりませんでしたか?
農業の基礎だけですが、真剣に勉強すれば2年で充分だと思います。応用などは、自分で畑をやりながら学んでいくことが大切だと思います。
Q協力隊の仕事と民間企業の仕事(前職)とでは、何が一番違いますか?
前職は英語の先生。違いがありすぎて比較できません!
Q地域おこし協力隊としてやっていくコツは?
地域の人たちと知り合う機会が多くあるので、顔を覚えてもらって、地域に受け入れてもらう努力をすることが大切だと思います。
文/田中泰子 写真/徳丸正巳
日南町移住支援情報
生山駅構内に相談窓口を設置。移住や住居のことは相談員にお任せ
中国山地のど真ん中にあり、田舎の風景が今も残る山に囲まれた自然豊かな日南町。2022年4月に誕生した一般社団法人「山里Loadにちなん」は、町の中心の伯備線生山駅構内にあり、観光と移住の窓口を設けて相談員が対応している。林業支援にも力を入れていて、「にちなん中国山地林業アカデミー」では将来の林業の担い手を育成している。
問い合わせ:(一社)山里Loadにちなん ☎0859-82-1715
日南町まるごとバンク https://www.nichinan-life.jp
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