都会の飲食店で働きながら、時間の流れがゆったりした場所での暮らしに憧れていた伊藤緑さん。あるとき身近な郊外のまちを訪れたところ、出会った人たちと意気投合し、新しい人生のストーリーが始まることに。そこで見つけた自分らしいライフスタイルとは?
掲載:2022年12月号
流れに身を任せていたら望むほうへ道が開けた
私は以前から田舎に住みたいと思い、九州へ行ったり、小豆島に通ったりしていました。理想的な移住先を見つけて、例えば畑で自給自足し、お菓子づくりの趣味を生かしてお店が開けたらいいな、と。
あるとき、南河内エリアで移住者ご夫妻が営むカフェを訪れて仲よくなり、いろんなイベントに誘っていただくようになりました。田畑のワークショップにも参加し、何年も通ううち、同様に別の地域から通っていた仲間たちが、南河内エリアへどんどん移住し始めたのです。私はずっと「遠くの楽園」を探していましたが、ここには気の合う仲間がいて、わくわくできるコミュニティがある。自分も住みたいと思い、千早赤阪村役場でのアルバイトを見つけ、2017年春に引っ越しました。
同時期に設立されたのが「一般社団法人ちはやあかさかくらす」です。空き家管理や村の情報発信をしていた実績から、新たに道の駅「ちはやあかさか」の運営を任されることに。私も同法人の会員として活動していたので、過去にカレー店で働いた経験を生かし、カフェ部門で働くことになりました。
その後21年2月に焼き菓子と喫茶のお店「モネモネ」を開くことになりますが、これも本当にご縁。ここは長く地域で愛されたフードショップの跡地で、オーナーさんもとてもすてきなご夫妻です。閉店後10年以上使われていなかったものを、私たちの法人が活用を委ねられ、みんなでリノベーションして1年間はシェアキッチンとして暫定的に運営。翌年は継続的に活用できる人を探したものの、なかなか見つからず、「それなら私にやらせてください」と手を挙げました。いろいろかかわるなかで建物への愛着が湧き、お店を開きたいという夢もありましたから。開業後、オーナーさんから「ずっと過疎化の象徴のような場所になっていて心苦しかったけど、シャッターが開くようになってうれしい」と言っていただいたことは忘れません。
足りないものは補い合える雑多なコミュニティ
メニューは、クッキーやスコーンなどの焼き菓子、村産の季節のフルーツを使ったケーキ、お豆腐と米粉を使ったヴィーガン仕様のドーナツなど。基本的に村産や国産の安心・安全な食材を使い、卵や小麦粉を使わない商品も用意して、アレルギーを持つお子さんにも食べていただけるようにしています。
繁盛させたいというよりも、お店を持つ機会を与えてくださった方や、支えてくれている仲間たちに喜んでもらい、何か新しいことが生まれる出会いの場になればというのが願い。店舗も今の家も賃料を安くしていただいているので、私1人が暮らしていくぶんには困りません。
生活に余白の時間を残しておくため、営業は木・金・土曜の週3日。田んぼでの共同作業や、いろんなイベントにも参加できるよう、日曜はあえてお休みにしています。
田んぼのほかに私の持ち分の小さな畑もあり、ちょっとした野菜やブルーベリーを育てています。できるだけ身の回りのものをつくれるようになりたい気持ちがある半面、何でも自分でやりたいわけではありません。DIYが得意な人、服をつくれる人、料理人など、身近にいろんな特技を持つ人がいるので、足りないものは補い合えればいいと考えています。なかには大阪市内へ通勤する人や、逆に大阪市内から通ってくる人もいて、よい意味で「ごちゃごちゃのコミュニティ」が、この村の一番の魅力だと感じています。
【大阪府千早赤阪村 ちはやあかさかむら】
「絵本の世界のよう」とも例えられる大阪府内唯一の村で人口約5000人。登山スポットとして親しまれる金剛山を有し、「日本の棚田百選」の風景など美しい里山を保つ。大阪市内から車で1時間前後。
【千早赤阪村 移住支援情報】
空き家探しから改修まで住宅関連の多彩な補助を用意
千早赤阪村では「空き家情報バンク」専用の窓口((一社)ちはやあかさかくらす☎︎0721-21-7557)を設置。また、最大10万円の移住者向け空き家改修補助、100万円の若年夫婦・子育て世帯向け新築マイホーム取得費用補助に加えて、耐震診断費補助、耐震改修設計・改修費補助など、住宅関連の幅広い支援を行っている。
問い合わせ/千早赤阪村都市整備課 ☎︎0721-72-0081
https://www.vill.chihayaakasaka.osaka.jp
文・写真/笹木博幸
この記事のタグ
田舎暮らしの記事をシェアする