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田舎暮らしの本 5月号

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田舎暮らしの本 5月号

3月1日(金)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

漁師になって水族館をつくる! 小3で描いた夢に一直線【高知県室戸市】

夢にはいろいろあれど、個人で「水族館をつくる」はめったにない。それを実現しようとしているのが松尾拓哉さんだ。彼はいかにして夢に近づきつつあるのか。世界ジオパークの室戸半島を訪ねた。

掲載:2023年2月号

高知県室戸市 むろとし
高知県東部、太平洋に突き出た室戸半島にあり、気候は温暖。漁業と、内陸の台地での農業が盛ん。特異な地形・地質のため2011年にユネスコ世界ジオパークに認定された。人口約1万2000人。写真は松尾さんが移住した佐喜浜町(さきはまちょう)の港。高知龍馬空港から車で約2時間、大阪市街から車で約5時間。

 

小3のときの室戸旅行が彼の人生を決めた

松尾 拓哉さん●32歳
大阪生まれ。2016年に室戸半島東海岸の室戸市佐喜浜町へ家族で移住。深海生物専門の漁師をしながら、体験漁業や冒険クルーズ、移動水族館を開催している。
https://fishermanaquarium.jimdofree.com/

 3歳のころから生き物好きだった松尾拓哉さんが、室戸の海に出合ったのは小学3年生のとき。室戸市佐喜浜町の民宿に泊まり、定置網漁などを体験した。

 「その漁では、深海魚など図鑑で見た海の生き物がたくさん獲れて、すごく驚きました」

 彼は室戸半島の自然や文化にすっかり心を奪われた。室戸半島はユネスコ世界ジオパークであり、その地形や地質に科学的意義が見いだされている。なかでも室戸の東海岸は、陸からの深海の近さが注目されている。

 「約2km沖で水深500〜600mまで急に海底が落ち込むなんて、島国日本でもそんなにない。深海という未知の世界や、室戸の地形や漁師の文化など、この地域のストーリーに僕はひかれました」

 そして小3で拓哉さんは決意する。「将来は室戸で漁師をしながら、自分やほかの漁師が獲った生き物で水族館をする」と。

 彼は毎年4回ぐらい1人で大阪から室戸に向かった。漁を体験させてもらい、漁師がくれた魚介を家に持ち帰り、専門書や熱帯魚屋などで学んで飼育した。

 「子どもだけど、もう水族館の人みたいでした(笑)」

松尾さんが漁に使うカニ籠。多いときは50個ぐらいを水深500~600mに沈め、深海生物を生きたまま漁獲する。

漁獲した深海生物を蓄養する水槽。かつて働いた水族館などから中古のものをもらった。水槽内は海洋深層水をかけ流ししていて、深海生物に快適な環境。

子どもたちに人気のオオグソクムシ。松尾さんの主な獲物だ。食べてもおいしく、味はエビ、身はカニみたいだという。室戸市ふるさと納税の返礼品になっている。

松尾さんの漁場である室戸半島の東は、深海が陸に迫る海域としては日本有数。約2㎞沖で急激に水深が増していき深海生物の宝庫となる。

 

 生き物や自然生態系に熱中する拓哉さんを理解する大人たちにも恵まれ、拓哉さんはぶれることなく成長し、専門学校を経て水族館に就職する。そこで研鑽を重ね、海の生き物を愛する人びととつながること5年、ついに室戸市へ。

 まずは漁師になろう。拓哉さんは県の新規漁業者支援事業(当時)で2年間漁業研修した。そして漁船リース事業を利用して漁船を手に入れ、独立する。

 「でも、僕みたいにいきなり個人で漁業をするのはオススメしません。リスクがあります」

 彼の漁は深海物専門で、調査や研究の手伝いもする。取引先は「海遊館」などの水族館だ。

 「僕の漁業は特殊ですから。ここ室戸だと、定置網漁をする組合に入ってサラリーマン漁師になるのが現実的です」

 さて水族館だが、まず「移動式」という形で実現した。常設の水族館のほうも、実現へと前進しているようだ。

 「規模は小さめですが、内容にはこだわります。室戸の海の生き物をしっかり見せて、この地の生態系や文化や伝統を知る水族館にしたいですね」

 何があってもやると、彼の決意は固い。少年時代に夢を持たせてもらい、多くの縁に支えられた彼は、室戸と人に恩返しをするつもりなのだろう。

 「僕の水族館を通じて地域を盛り上げ、室戸の発展に貢献したいです」

 夢を持ち、行動を起こし、少しずつでも進めば、とてつもない夢でも実現できる。拓哉さんの水族館を訪れる子どもたちは、その生き方に勇気をもらえることだろう。

オオグソクムシや深海魚を入れた水槽をトラックにのせて、子どもたちのもとに駆け付ける松尾さんの移動水族館。大きな水族館では見るだけだが、ここでは触ったりにおいをかいだりできる。子どもたちの歓声が絶えない。

松尾さんの少年時代。室戸に来るたびに、定置網漁を体験するなど地域の人と触れ合った。「漁師など大人とかかわることでコミュニケーション力が上がった」と松尾さん。

右から松尾拓哉さん、海里(かいり)くん(8歳)、汐莉(しおり)ちゃん(3歳)、みずきさん(31歳)、帆高(ほだか)ちゃん(6歳)。みずきさんはかつてドルフィントレーナーだった。生き物が好きで、拓哉さんのよき理解者。

 

松尾さんに聞く 田舎で夢をかなえるために大切なこと
「周囲への発信と、余裕のある計画を!」

 子どものころから、「こうしたい」と周囲に発信していました。すると、味方になってくれる人がよく現れた。天狗にならず、人に頼ることが大切。それから、補助金など行政の支援制度を利用するときは自分でしっかりと情報収集を。そして、行政の対応には時間がかかることもあるので、計画に余裕を持ちましょう。

 

【室戸市】移住支援情報
空き家バンクが充実!まずはお試し住宅からいかが?

 室戸市の空き家バンク登録数は県内トップクラスで、いろんな物件から選べる。「空き家バンク利用登録」の手続きをすれば内見可。移住や住居探しに少し不安がある人には、「山」「川」「海」をテーマにした3カ所のお試し住宅を用意。施設利用料は1日1020円、2泊3日から最長27泊28日まで。

問い合わせ/まちづくり推進課移住促進室 ☎0887-22-5167
sumuroto@city.muroto.lg.jp
Instagram/@muroto_iju

3カ所ある移住体験住宅の1つ。太平洋まで約50mだ。

空海が悟りを開いたとされる室戸岬の星空。

「あなたも室戸市の『海』『星空』
『食』のとりこになるでしょう!」
まちづくり推進課移住促進室 田中優衣さん

 

文・写真/大村嘉正 写真提供/松尾拓哉さん

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