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田舎暮らしの本 12月号

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田舎暮らしの本 12月号

11月1日(金)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

赤井英和さんインタビュー「実話が元で、自分も認知症になるかもしれない未来に、勇気を与えてくれます」

愛される人になりなさい

 大阪の西成区で生まれ育った赤井さん。

 「おばあちゃんの里が兵庫県丹波篠山(たんばささやま)で。先祖は荻野直正、黒井城を乗っ取った武将で通称・赤井悪右衛門(あかいあくえもん)もんだと聞かされていました。でもNHKの番組(『ファミリーヒストリー』)で、本当の先祖は悪右衛門の弟だと」

 悪右衛門はあの明智光秀軍を破った戦国の勇将で、〝丹波の赤鬼〞と恐れられたらしい。その弟とはいえ、なんとも迫力ある話。

 「子どものころは毎年、夏休みに遊びに行きました。いとこが何人かおって、その仲間とも友達になったりして。そこにいた1カ月ほどは丹波の子やったです。すると大阪に帰ってきても、しばらくは丹波の方言のままでね。今はお盆のときに、おばあちゃんの墓参りに行くくらいですけど」

 するといつかは丹波で暮らしたい、地方の、自然が豊かなところで。そんな思いもありますか?と尋ねると、「生まれたときから街中にいてましたし、でも……田舎に住みたいほうがええんですよね?」と、気を使わせてしまう。そうだった。佳子さんのTwitterを見れば明らかなように、赤井さんの〝大阪愛〞は常にだだ漏れ。大阪に行く支度をするだけで、背中からウキウキ感が伝わるほど。

 「母親が亡くなり、西成に帰っても実家はないですけど、仲間がいっぱいいますんで。新世界でみんなとワイワイ串カツを食べたりと、大阪では1人で飯を食うたことがないです。逆に(自宅のある)東京では、飲みに行ったことがない。佳子ちゃんとご飯を食べに行くくらいで」

佳子「おとなしいですから、東京では。初めて大阪に行ったとき、キャラが全然違うからびっくりしました」

 その自覚はないですか?と赤井さんに尋ねると「(ものすごく小声で)自覚は、ないです……」なんてふざけている。

「東京では朝起きてから仕事して寝るまで、ずっと佳子ちゃんと一緒ですしね。大阪に行ったときは佳子ちゃんがいてへんから……(チラッと見て)元気なんかな。はっはっは!」

 と赤井さんが今度は豪快に笑っている。

 ふと、こんなお父さんいいな、なんて思う。どっしり構えていて奥さんと仲よしで、いつでもどこか楽しそう。そしてお子さんたちはプロボクサーで映画監督、俳優、ミス・ユニバース・ジャパン東京大会審査員特別賞受賞と、それぞれに個性的な道を歩んでいる。

 「幼いときから、同じ目線でしゃべってました。小さいころはしゃがんで、今は(背丈を抜かれて、目線を上げて)こんなんですけど。子ども扱いはしない、すると対等な関係になりますよね」

佳子「赤井が子どもを怒ることはないです。それで本人は自然にしているから気づかないみたいですけど、〝自分をいちばん大事に〞と教えていました。娘が幼いころ、列に並んでいて。後ろから来た子が何人割り込んでも、いいよと譲っていたんです。私は道徳の授業などで、人に譲るのはいいことだと教えられました。でも赤井は〝順番を譲ったりしてはダメ。自分を大事にしなさい〞と。自分を優先する人は他人に不満がない。ワガママなようだけど、結局楽しそうにしている。その姿を見て、学ぶのでしょう」

 赤井さんの子どもは幼いころから対等に扱われ、考え方やすべき行動を押し付けられることはなかった。きっと、大切な自分と対等なお友達も大切に思う子に育ったのだろう。そうして常に自分と向き合い、機嫌よく生きられる道を探ったはず。それはプロボクサーから、俳優として映画主演デビューした赤井さんもきっと同じ。

 「1985年2月5日に試合があって、ケガをして緊急搬送され、緊急手術。そのまま40日ほど入院し、退院してからも週3〜4日通院する毎日で。学生時代からお世話になった先生や先輩、応援してくれた会社の社長さんに〝これからどうするか、まだ考えてます〞と一人ひとりに挨拶に行って。あとはすることもなく、酒ばっかり飲む毎日でした。それで70kgの体重は85kgになって。1988年に、〝お前の人生、おもろいから本書いてみんか?〞と言っていただいたのが、高校の先輩である笑福亭鶴瓶さんです。それを阪本順治監督が映画(『どついたるねん』)にしてくださって。そのままではカメラを回すことはできひんと言われ、65kgまで体重を落としたのです」

 どこをどう切り取ってもいろいろとスゴイ、みたいな話。すべてが、今こうしてニコニコと語る赤井さんの身に起こった事実なのだ。

 「人とのつながりがあって、今に至る。『どついたるねん』の撮影初日、記録係の今村治子さんに『撮影も初めてで、どないしたらいいですか?』と聞いたんです。すると、『愛される人になりなさい』って。愛される人?とクエスチョンのままやったけど、その言葉がずっと心に残っています」

 俳優・赤井英和誕生の瞬間に、今を予言するような言葉。それを信じてやり通す素直さと、自分を大事にすることの揺るぎなさ。赤井さんという人の芯が、見えたような気がする。

 「それでいて大事なのは、今を大切に生きることだなと。俳優としての今後? 考えたこともありません。明日みたいな遠い未来のことはわかりまへんから」

『オレンジ・ランプ』(配給:ギャガ)

●監督:三原光尋 ●企画・脚本・プロデュース:山国秀幸 ●脚本:金杉弘子 ●原作:山国秀幸『オレンジ・ランプ』(幻冬舎文庫) ●出演:貫地谷しほり、和田正人、伊嵜充則、山田雅人、赤間麻里子、赤井英和/中尾ミエほか ●新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開中

妻の真央(貫地谷しほり)と2人の娘と暮らす只野晃一(和田正人)は、カーディーラーのトップ営業マン。若年性アルツハイマー型認知症と診断された後もなんとか仕事を続けようとするも、周囲の気遣いがつらくなって離職届を提出する。真央に連れられて「認知症本人ミーティング」に参加した晃一は、診断後も営業マンを続ける加藤(山田雅人)と出会う。
©2022「オレンジ・ランプ」製作委員会  https://www.orange-lamp.com/

 

文/浅見祥子 写真/鈴木千佳 ヘアメイク/伊藤里香

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