起きるかもしれないあらゆることを想定し、準備に万全を尽くすことが結果につながる
さらに、防災啓発で一般社団法人日本プロ野球選手会とタッグを組む公益財団法人シビックフォースからは、ヘリコプターなどを投入しての熊本地震や佐賀水害への緊急支援や被害状況の各方面への情報シェアなどを行った出動実績が紹介され、初動がいかに重要であるかが語られました。
こうした活動だけでなく、住民が普段から備えることを伝える努力が、今後は不可欠であるという想いが選手会との連携につながったことを説明。それを受けて日本プロ野球選手会森忠仁事務局長からは、「かねてから現役選手へは、ある程度の立場になったら、自分の影響力を知り、それを社会のために使う意識づくりを会としての大きな柱にしている」とのことで、個人が参加できるさまざまな支援メニューも提供するなかで、防災についての活動は、会全体で取り組んでいくことになり、12球団の選手会長からのビデオメッセージも毎年更新されているということです。
たしかに野球少年からしてみれば、担任の先生に「災害に備えよう」と言われるよりは、プロ野球選手のメッセージとして伝えられる方が心には響きますね。選手会が協力する防災イベントでは、防災クイズや、子どもにもわかりやすい救命実習、新聞紙で作れる防災グッズなど、楽しみながら防災知識が身につく工夫がされていて、スタンプラリー形式で賞品をもらうこともできるため、野球少年たちは全ブースをまわり、ほぼ全員が毎回コンプリートしているそうです。
「今後は企業との連携も深めながら、現在はコロナ禍で控えてきた、現役選手参加の大規模なファンコミュニケーションイベントも、2024年オフには、防災の要素を入れた形でリニューアルし、大きなムーブメントにしていきたい」との抱負を語りながら、「起きるかもしれないあらゆることを想定し、準備に万全を尽くすことが結果につながるという点では、野球も防災も一緒」と明言しました。
野球に限らず“プロの仕事は、準備が9割”という言葉をよく聞きます。“起きてほしくないことは起きないに違いない”という考えが、大きな事故につながってきた例は、数えきれないほどあります。プロ野球選手のメッセージ力で、多くの日本人の意識が変わっていくことを期待させられました。
このほか、テレビ局の関連会社で企画に携わりながら、港区観光大使、そして現役の消防団員という顔を持つ前田淳氏は、「東京にも消防団があることを知ってもらいたいという想いと同時に、メディアにも取り上げられて話題となった、地域の名所や名物を題材にしたカプセルトイ『街ガチャ』なども仕掛け、こうした地域振興などで生まれる人のつながりを通じて、防災への関心を高めたい」とコメント。
また、自治体DXにも関わりながら、一般社団法人ユニバーサルメニュー普及協会事務局長で市民団体「未来減災課」も主宰する北野菜穂氏からは、「助けられる側は、助ける側に、いざというときに、助けやすくするために情報やデータを準備することの必要性を感じ、それを“私のヒナンヒョウメイ”としてアクションにしていく」というアイデアなども披露されました。
最後に元経済産業省の前田氏からは、こうした議論の機会を評価しながら、「被災直後だけでなく、そこから何年にもわたる復興途上も、被災地であり続ける現実のなかで、どうやって忘却を招かないか、一度つながった人が、つながり続ける仕組みをどう作り出すかが重要だ」と話しました。
さらに、「女性の生理用品など、本当に被災地で足りないものが届かない支援品のミスマッチの課題、そして平時から、独居老人や居場所が定まらない若者など、手を差し伸べる必要のある人たちが、災害時に弱者になるということに対して“助ける”という範疇をもっと広く考える視点が、災害支援以前に必要」だと締めくくりました。
防災・減災の重要度が増しているなかで、今回のシンポジウムは、助かろうとする側と助ける側との掛け算を生み出すことが、“命を救う”ことにつながることを確認しただけでなく、“人を助ける”とはどういうことか、災害時に必要なハードだけではなく、それをどう運用するか、平時の備えをどう強化するかについての人の知恵の結集という、ソフト面の戦略やマインド形成の重要性を感じさせられたイベントとなりました。こうした想いを持って、既に活動している企業や団体が、これを機会にムーブメント形成の軸になっていくことを期待したいと思います。
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