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田舎暮らしの本 1月号

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田舎暮らしの本 1月号

12月3日(火)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

ヒロシ インタビュー「やりたいことがあるなら、無理だと思っても、自分が始めないと何も始まらないんだよね」

2020年4月号掲載

「ヒロシです」のネタでブレイクしたのち紆余曲折を経て、今、ソロキャンプYouTuberとして注目を浴びるヒロシ。キャンプ好きが高じて、山まで入手してしまった。芸人の枠にとらわれず好きなことをして生きるそのスタイルが、多くの人の共感を呼んでいる。

ヒロシ●1972年、熊本県生まれ。九州産業大学卒業。ヒロシ・コーポレーション所属。2004年ごろ、ピン芸人として「ヒロシです」のフレーズで始まる自虐ネタで大ブレイク。以降お笑い活動のほか、俳優、ラジオパーソナリティ、執筆活動など幅広い分野で活躍。近年では趣味であるソロキャンプのYouTube「ヒロシちゃんねる」が人気を集め、チャンネル登録者数が60万人を突破。近著に『働き方1.9〜君も好きなことだけして生きていける〜』(講談社)、『ひとりで生きていく』(廣済堂出版)、『ヒロシのソロキャンプ~自分で見つけるキャンプの流儀~』(学研プラス)がある。 YouTube「ヒロシちゃんねる」 https://www.youtube.com/channel/UC_ak3ZurSDtT3Kv1RFdrgiA

中年独身男性の
等身大の姿が共感を呼ぶ

 2004年「ヒロシです」のフレーズで始まる自虐ネタで一世を風靡した芸人ヒロシ。最近はソロキャンプYouTuberとしても活動し、等身大の姿で自由に好きなことをする生き方が多くの人の共感を呼んでいる。

 YouTuberといわれる人はたくさんいるし、芸能人でもYouTubeで動画をアップしている人は多いが、ヒロシの動画はそういう人たちとは大きく違う。ネタが披露されることはないし、スポンサーや視聴者を意識した振る舞いや再生回数を稼いで利益を得ようという仕掛けや雰囲気が一切感じられないのである。暗い画面に焚き火が延々と映し出されていたり、主役であるヒロシが見切れていたり、失礼を承知でいえばまったく洗練されていないのだ。ただ、ソロキャンプの好きな中年の独身男性が、ときに1人で、ときに仲間と黙々とキャンプをする様子を撮っているだけ。初めて使う道具にわくわくしたり、ブッシュクラフトに挑戦するもうまくいかなかったり、本当に好きなことをしているんだなということだけが、じんわりと伝わってくるのである。

 しかし、ありのままのヒロシの姿は見る人に安らぎを与え、YouTubeの登録者数は現在110万人を突破! 道具選びへのこだわりやハンモックを使ったワイルドなキャンプスタイルは、多くのキャンパーに支持され、最近のソロキャンプブームをけん引している。

「ソロキャンプは好きなことをやっているだけだし、YouTubeも仲間と飲み会の席で見るために撮り始めた完全な趣味。あ、僕はお酒が飲めないのでソフトドリンクなんですけどね。仕事にしようなんてちっとも考えていなかったし、今でもなんで成功したのかは、正直わからない。誰も知らないときにルービックキューブをやっていたら、いつのまにかそれがすげーはやっていたみたいな。時代にマッチしたとしか言えないよね。たぶん、潜在的にはやりを待っているものっていっぱいあるんじゃないかな。それがネットでポッと話題になると、その潜在的な人たちが食いついてきて一気にブームになる。ネットの力ってすごいよね。組織に属したり、専門技術を持っていたりしなくても、自分の好きなことをして、それで仕事が生まれたり、つながりができたりするんだから」

無理をして仕事をするより
好きなことをして生きたい

 ヒロシが芸人としてブレイクしたのは、1〜2年ほどの短い期間でしかない。一発屋といわれることもあるが、本人はそれを好まない。自分のお笑いには自信を持っているし、芸人のステージであるバラエティ番組をドロップアウトしたのはもっと複雑な理由があるからだ。そして、テレビ出演を制限するようになってからはライブやバンド、釣り、ガーデニングなど興味があるものに片っ端から手を出し、タネを蒔き、そのなかで芽が出たもののひとつがソロキャンプであり、YouTubeだったのだ。

「みんな心に秘めたやりたいことってあると思うんだけど、自分には無理だろうと思うと、何か理由をつけてやらなかったりするでしょ。それって自分で可能性を潰しているんだよね。なんだって興味があるならやってみればいいじゃん。実際、僕も始めてみたもののうまくいかなかったことのほうが多いしね。田舎暮らしもそうじゃない? 本気で田舎暮らししたい人は定年したらとか、なんだかんだ言う前にもう始めているよ。まぁ、いきなり土地や古民家を買って移住するとかじゃなくてもさ、現地に足を運んでみたり、田舎とつながりを持てるイベントに参加してみたりね。小さなことからでも行動するって大事じゃないかな。僕は、結構いろいろなことをやって、人生のアップダウンや紆余曲折を経て、今があるから言うんだけど、結局自分が始めないと、何も始まらないんだよね」

 もともと人付き合いがあまり得意ではないというヒロシ。芸人としてブレイクしていたころ、その場の流れで本意でないネタをさせられたり、さまざまな企画でオールマイティな対応力を求められたりするのは苦痛でしかなかったという。そして、無理をしてやりたくもないことをするくらいなら、好きなことをして生きようと心に決めるのだ。

「サラリーマンを辞めて芸人を志したときもそうなんだけど、失敗して路頭に迷ってもホームレスになるくらいでしょ。やりたいこともできないそのときの状況がずっと続くくらいなら、そのほうがいいと思ったからね。こう言っちゃ失礼かもしれないけど、毎日キャンプ生活なわけでしょ。それなりの自由もある。悪くないと思ったもん」

 面倒な人間関係に縛られず、好きなことをして自分が満足できるだけのお金を稼ぐ。それが今の生き方だ。ブレイクしてたころに比べれば収入は少ないが、ずっと楽しく仕事ができていると言う。

「1人で好きなことをして生きるって口で言うのは簡単だけど、何も考えずにやっているわけじゃないよ。リスクも負わなきゃならないし、冒険も必要。失敗したら責任は全部自分に返ってくる。口で言うほど楽じゃないっていうのは知ってほしい」

僕にとって山や自然はキャンプの場所。その時間だけは誰にも邪魔されず、好きなことをして自由に過ごしたい。

ソロキャンプを
満喫するために山を購入 

 YouTube「ヒロシちゃんねる」では、山を買ったことを明かし、そこでのキャンプや草刈りの様子などもアップしている。大好きなキャンプを誰にも邪魔されず思いっきりやるために、手に入れたオレの山だ。

「僕は1人で自由にキャンプがしたいわけですよ。みんなでわいわいやるのはもう面倒くさくて。でも、人がいなくてソロを満喫できるキャンプ場ってなかなかない。周りでファミリーや大学生の集団がわいわいキャンプしてたら気分も何もあったもんじゃないでしょ。それからブッシュクラフトも興味があるんです。その辺の木や落ち葉を使ったシェルターで一夜を過ごしたり、穴を掘ってかまどをつくったりして遊びたいの。キャンプ場でそんなことできないからね。で、前々から自分の自由にできる山がほしかったんですよ」

 あまり感情を表に出さないヒロシが、このときだけはほしかったおもちゃを手に入れた子どものように目を輝かせ、頬を緩めた。自然の中で過ごすことが好きだからキャンプにはまり、以前は田舎暮らしを考えたこともあったと打ち明ける。

「今だから言うけど、僕ね、『田舎暮らしの本』定期購読してましたから。そんな雑誌ほかにありませんよ。そのころは釣りにはまっていたんで、海のあるところに住みたいと思って、千葉の茂原近辺に物件を見に行ったこともあるからね。結局、川崎の一軒家に落ち着いたんだけど、そこでちょっとした野菜をつくったりもしましたね。長続きはしなかったけど。でも、興味があったら行動するって大事ですよ。やってみて新たにわかることも多いしね」

 山は思いつきで買ったわけではない。6年ほど前から物件探しをしていたという。不動産屋の紹介でいくつかの土地に足を運び、その中で条件は徐々に固まっていった。一番大事なのは人に見つからずにキャンプができること。それから、ある程度の平地があること。ブッシュクラフトに適した広葉樹の森があること。できれば川が流れていること。理想は都心から1時間、遠くても3時間以内。そして限られた予算内に収まること。それらが土地探しの条件になった。

「とにかく1人でキャンプができればいいから、広さにはこだわらなかった。100坪もあれば充分。でも、実際は3000坪もあるんだけどね」

 ソロキャンプや冬キャンプがヒロシの動画をきっかけに、多くの人の潜在的欲求を引き出したように、最近、不動産屋にはキャンプをするための山林物件を探しているという問い合わせが増えたという話を聞く。キャンプ場を自分たちで手づくりする様子をYouTuberやInstabramでアップしている人もいる。ヒロシは今やキャンパーにとって不動のアイコンと化しているのだ。

「まぁ、念願の山は手に入れたんですけど、僕がやりたいキャンプやブッシュクラフトは、じつはまだあまりできていないんです。3000坪あるといってもキャンプに使える場所は限られるし、そういうところも笹や篠竹がすごくて、下草刈りから始めてます。笹や篠竹って、刈り払っても株元が残っちゃうんですよね。それが結構鋭くてブーツに穴が開く。重機を入れることも考えています。そんな状況だから最近はキャンプというより開拓になってますよ」

 3000坪の山となると田舎暮らしに憧れる人なら、キャンプだけに使うのはもったいないと思うだろう。ヒロシも本誌を定期購読していたくらいだから、そこに小屋や家を建てて住む気はないのだろうか?

「今は、田舎暮らしというよりキャンプなんだよね。DIYで小屋を建てるより、その場にあるもので、シェルターをつくるブッシュクラフトのほうがやりたいし、焚き火も常設のファイヤープレイスより、どこでも好きな場所でちょっと火をおこすくらいがいい。自然は好きだから、もしかしたらこの先田舎に住むかもしれないけど、あくまで拠点は東京で二地域居住をすると思う。やっぱり、僕にとって田舎とか、山とか、自然の中って、キャンプをするための場所なんですよ。ひとときでいい。ただ、その時間だけは誰にも邪魔されず、好きなことをして自由に過ごしたいんです」

文/和田義弥 写真/鈴木千佳

取材協力/南アルプス三景園オートキャンプ場

山梨県北杜市武川町柳沢烏帽子3601-1

http://www.sankeien-camp.com

 

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