県庁所在地にふさわしい都市基盤が整う一方、美しい自然環境を身近に併せ持つ和歌山市。海をはじめとする豊かな地域資源を守るとともに、リノベーションによるまちづくりを推進。若い世代の移住者の増加にもつながっているという。
掲載:2023年12月号
和歌山県和歌山市(わかやまし)
紀伊半島の北西部に位置する和歌山市は、紀淡海峡や和泉山脈に囲まれた紀の川河口部の県都。和歌の浦など万葉の歌人に愛された景勝地に恵まれ、中心部は御三家・紀州徳川家が治める紀州藩の城下町として栄えた。内陸部には熊野古道も通る。車や鉄道で大阪市内から約1時間、関西国際空港から約40分。
海の環境から空き家まで、あるものを再生&活用
生き物の宝庫でもある和歌浦は、「絶景の宝庫 和歌の浦」として日本遺産に認定。奈良時代の歌人・山部赤人(やまべのあかひと)が歌に詠んでから来年で1300年を迎える。
2019年に「SDGs未来都市」に選定された和歌山市は、「持続可能な海社会を実現するリノベーション先進都市」を掲げ、海をメインテーマの1つに据えていることが大きな特徴。産官学で連携し、海洋資源の保全などに取り組んでいるが、市内に工場を構える花王㈱との連携もその1つだ。
「SDGs推進に関する連携協定を結び、花王さんの技術を提供していただきながら一緒に取り組んでいます」
そう話すのは、企画政策課の橋戸真優(はしとまゆ)さん。北部の加太(かだ)地区の観光地として人気の友ヶ島(ともがしま)で問題になっている海洋ごみについては、調査・回収とともに海洋プラスチックのリサイクルの研究が進む。問題をより身近に感じてもらうため、花王㈱の協力を得て、観光と環境を融合させたイベント、友ヶ島探検ウォークラリー「ウミプラー」も実施した。
「今年は市内の小・中学校を対象に開催予定です。海洋ごみを周辺都市も含めた課題と捉え、同じ大阪湾に面する大阪府堺市との連携も計画中。これらの活動が行動変容につながり、未来を担う子どもたちが大人になったときに目に見える効果が現れることを期待しています」
と橋戸さん。海を守る活動は南部海岸地域にも広がり、市による「子ども海かいぎ」の一環として、和歌浦(わかうら)の干潟の観察会などを実施。海の生態系回復などに有効とされるアマモ場の再生のため、和歌浦の干潟への植え付けにも挑戦している。
4島で構成される友ヶ島のうち、沖ノ島は観光スポットとして人気。一方で大阪湾の出入り口に位置し、海洋ごみの漂着地という問題も。
観光と環境の融合をテーマに実施した友ヶ島探検ウォークラリー「ウミプラー」。ゲーム感覚でごみを拾い、環境について考えてもらう。
近畿大学附属和歌山中学校の生徒たちによる海ごみアート。海辺に漂着したプラスチックごみを回収し、豊かな海を象徴するマグロを模した作品に仕上げた。
2021年から始めた「子ども海かいぎ」では、小・中学生を対象とした和歌浦での干潟の生き物観察会なども実施。
もう1つの柱として市が力を入れるのは、遊休不動産を生かす「リノベーションまちづくり」。都市再生課が空き家・空き店舗再生とまちづくりの担い手の育成を図るため、主に個人事業主が対象の「リノベーションスクール」を、中心市街地と漁村地域の加太地区で昨年まで実施した。
「現在はリノベーションという『点』での取り組みから、ウォーカブルやコンパクトシティといった『面』での取り組みに移行。活動をする方のなかにはリノベーションスクールの卒業生も少なくありません」
一例が、複数のまちづくり団体がタッグを組んで実施した「IN THE LOOP(インザル―プ)」。秋に開催される12のイベントを結び付け、まちを巡ってもらうことが狙いだ。
これら地域で活動する団体のうち、公的な位置付けのまちづくりの担い手「都市再生推進法人」に指定された団体数は12と全国トップ。市内外300を超える和歌山市SDGs推進ネットワーク会員とも連携しながら、さまざまな課題の解決を着実に進めている。
リノベーションスクール卒業生が運営するゲストハウス「Guesthouse RICO」は、築約50年の共同住宅をリノベーションした。移住前のお試し居住施設としても利用できる。
10月に北ぶらくり丁商店街で「KITABURA STREET PARK PROJECT」を開催。起業希望者が2日間だけ試験的に出店できる空き店舗活用イベント「まちドリ」も行われた。
和歌山市のSDGsここがスゴイ!
和歌山市では、まちなかおよび郊外漁村エリアのリノベーションによる持続可能な地域社会づくりを目指す。
●海洋ごみ削減など豊かな海づくりに官民挙げて取り組む
●観光と環境を融合させたイベントを実施
●遊休不動産を再生したリノベーションまちづくりを推進
●まちづくり活動を担う民間の人材が豊富で多様
「住み続けられる魅力的なまちづくりと海を守る活動が2本柱です」(和歌山市企画政策課 宮﨑晴香さん〈左〉、橋戸真優さん〈右〉)
和歌山市のここがオススメ!
ノスタルジックな風情に包まれた漁師町の雑賀崎(さいかざき)は、その風景からイタリア南部の世界遺産アマルフィ海岸にたとえられることも。
毎年5月に和歌浦周辺で開催され、県内最大級の祭りとして親しまれる和歌祭。紀州東照宮の祭礼として400年以上の歴史を持つ。
和歌山市移住支援情報
最大2万円の支援金を活用し、3泊4日で和歌山市へ行こう
和歌山市でのお試し滞在をサポートするのが「トライアル和歌山市活動費支援金」。対象となる活動は、市内事業所での就業体験、市内での開業を目的としたお試し出店、市立の小・中学校での学校体験、お試し居住施設の利用など。期間は3泊4日以上。交通費、宿泊費、施設利用料の2分の1、最大2万円が交付される。
問い合わせ:和歌山市移住定住戦略課 ☎️073-435-1013
http://www.city.wakayama.wakayama.jp/ijuteiju/
12月以降に対面イベントや相談会などの開催も予定している。
地域おこし協力隊でもある女性編集長が運営するウェブサイト「Wakayama City Life」。
「和歌山市は便利な都市の環境と海や山が寄り添う『トカイナカ』です」(和歌山市移住定住戦略課 森島大介さん)
文/笹木博幸 写真提供/和歌山市
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