俳優・東出昌大の“今”を追ったドキュメンタリー映画『WILL』が2024年2月16日から公開される。彼はなぜ、現代人にとっては不便極まりないはずの山の中に居を構え、狩猟生活をしているのか。動物の生命をいただきながら自分の生命をつなぐ、原始的とも言えるほど生々しい生き方にこだわるの理由は何なのか。映画の内容を補足する、全4回のロングインタビュー、第3回目。
便利なギアに頼らず、徒歩で一人山に入る猟法を選んだ理由
――東出さんがやっている“単独忍び猟”というのは、読んで字のごとく一人だけで猟場に入り、獲物に忍び寄る猟法だそうですけど、携帯電話の電波も入らない山奥に一人で入るのって、本当に恐い気がします。それこそ骨折して動けなくなっても助けてくれる人はいなくて、自力でなんとかするしかないんですよね?
(東出さん:以下、省略)「そうです、うん」
――どうしてそんなことができるんですか? あまりにも雑な質問ですが。
「……なんでだろう? ある意味、動物とフェアに向き合いたいからだと思うんです。ちゃんと勉強してないと、自分も危ない目に遭うということなので」
(映画『WILL』より)©2024 SPACE SHOWER FILMS
――なんだか凄まじい話ですね。映画の中でも、猟は動物と人間の“命の取りっこ”だと話している方がいたので、そういう世界なのかなと頭では理解したんですけど。
「ただ、狩猟もいろいろで、動物がいそうな場所まで車で走っていき、見つけたら降りて撃つ “流し猟”というのもあるんです。猟師も高齢化しているから、今さら山奥は歩けないということで、最近は流し猟の人が非常に増えています。野生の鹿もこの20年ぐらいで激増していますが、流し猟が多くなったため道路端に出てくる鹿は減り、山奥にいる数がどんどん多くなっています。だから、単独忍びで行くと、山奥で鹿に出会える確率が高いんですよ。それに、車で走って獲物を探すのは効率的だし安全かもしれないけど、僕はやっぱり車という道具の力は借りず、自力で動物に向き合いたい。突き詰めると、鉄砲もどうなんだという話になっちゃいますが、なるべく自力にこだわりたいと思っているんです」
――そこにこだわる理由は?
「……動物が好きだから、かな。そんな動物を獲っているわけだから、矛盾しているのは分かってますけど、せめて同じ境地を味わってみたいのかもしれません 。動物を見ていると、食事して排泄して寝るという、生き物としての基本を自力でしっかりやりながら生きてるんだなって思えます。それなのに対峙するこっちが、すごくいい登山靴だとか、GPSのついた時計だとかを使って、ギアにばかり頼っていると、動物の基本から外れているように思えてしまうんです。それは、フェアじゃないなって。縄文人のように石矢でやり合うことはできないけど、 もうちょっと動物の近くに寄った方が、何か得られる感覚があるんじゃないかなと思って、“単独忍び”でやってるんだと思います」
――すごく共感はできるんですけど、でもやっぱり聞いてるだけで恐いので、ぜひ気を付けてください。ほんとに。
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この記事を書いた人
佐藤誠二朗
さとう せいじろう <編集者/ライター、コラムニスト> ●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わり、2000~2009年は「smart」編集長を務める。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』(集英社)はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。その他、『オフィシャル・サブカル・ハンドブック』『日本懐かしスニーカー大全』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物も多数。最新作『山の家のスローバラード 東京⇄山中湖 行ったり来たりのデュアルライフ』(百年舎)が好評発売中。
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