「緑と花と彫刻のまちづくり」を官民が一体となって取り組んできた宇部市。幼少期から行う環境学習やアート教育に力を入れるほか、近年は子どもSDGsも推進している。未来に向けた人材育成環境の充実も、多くの人に移住先として選ばれる理由だろう。
掲載:2024年1月号
山口県宇部市(うべし)
山口県の南西部に位置し、人口は約16万人。動物園、遊園地、植物館などがまとめて楽しめる「ときわ公園」など、市内は緑と花と彫刻に彩られた独特の風景が広がり、市街地から海も山も川もほどよい近さ。東京・羽田空港から山口宇部空港まで約90分。空港内には無料で使えるコワーキングスペースを備えたワーケーション拠点も整備。
動物になりきって考え、環境問題や解決策を模索
「せかい! 動物かんきょう会議」では、子どもたちが演じたい動物の絵を描き、想像力を働かせながら生息地で起こっている問題を訴える。コロナ禍の2022年度は、タイやモンゴルの子どもたちとリモートライブ会議を行った。
「人材は宝」という考えのもと、未来を担う人材の育成に力を入れている宇部市。なかでも特徴的なのが、子どもたちへのSDGs教育だ。2018年、市が「SDGs未来都市」に選定されたことを機に取り組みを始めた「せかい! 動物かんきょう会議」は、子どもたちが動物の立場になって、身近な環境問題を考えるプログラム。
「私たちは自分中心に、損得でものごとを考えてしまいがちです。人間という視点を一度やめて、動物視点というポジションに立つことで、気づかなかった環境問題や今までにない新しい解決策が見えてきます」
そう話すのは、連携共創推進課の大西義紀(おおにしよしのり)さん。子どもたちは動物になりきり、その動きをまね、どこに住みどんなことで困っているかなどを想像しながら、それぞれの立場からの目線で環境問題を議論する。プログラムは22年度までの5年間に82回行い、延べ2270人が参加。全国に広がっているこの取り組みのなかでも、18年から毎年開催している宇部市の存在は大きく、動物園を舞台にしたワークショップや、動物が語るSDGsコンセプトブック『Animal SDGs』誕生のきっかけになっている。
中高生に向けても、市職員が講師を務める探求学習講座を実施。担当業務や市の事業・計画について説明され、中心市街地の活性化や地球温暖化問題、ジェンダー平等など、共有すべき行政課題についてさまざまな角度から意見交換を行っている。
国内で初めて全園に生息環境展示を取り入れた「ときわ動物園」。飼育数国内最多のシロテテナガザルは、水を怖がる性質を利用し、檻や柵が一切ない池の中の島で飼育されている。
野外プログラムは「ときわ動物園」へ。自由に動き回る動物たちの生態や特徴、そして動物たちが直面する環境問題について学ぶ。
学生たちが市職員と一緒に、SDGsの課題を「自分ごと」と捉えて考える、探求学習の様子。
豊かな自然を生かした環境学習施設が多いのも特徴。宇部市立小野小学校では、授業にカヌー学習を組み込んでいる。
このような〝話し合い〞によるまちづくりの根底にあるのは、産官学民が一丸となり、ばいじん汚染を克服した宇部市独自の対策だ。明治以降、石炭産業の振興で栄えた宇部市では、発展とともに企業の石炭使用が増加し、「世界一灰の降るまち」といわれるほど降灰に苦しんだ。危機的事態に対し、全国で初めて市民・企業・学識者および行政の4者が1つのテーブルに着き、科学的調査データに基づく話し合いにより問題解決を図った。
情報を市民にも公開したことが相乗効果となり、市の環境改善に成功。「宇部方式」と呼ばれるこの対策は、現代の公害対策の先駆的モデルとなり、1997年には国連環境計画(UNEP)から世界で環境問題に著しい貢献をした個人や団体に贈られる「グローバル500賞」を授与された。
その後、市民一丸となった取り組みは、人の心とまちに潤いを取り戻すために始まった「緑化運動」「花いっぱい運動」、自然と人間の接点として広がった「まちを彫刻で飾る運動」といった市民運動の高まりにつながり、「緑と花と彫刻のまち」をキャッチフレーズとする現在の宇部のまちづくりのDNAとして受け継がれている。
「目指しているのは、まちの困難を市民協働で克服した宇部方式の精神を礎にした“みんなでつくる宇部”。自然や芸術に身近に触れながら、SDGsを意識し育った子どもたちが、大人になったときにどういう世界観で宇部市にかかわっていくのか。未来がとても楽しみです」
公園や動物園など地域資源のメタバース空間を構築し、IT産業やヘルスケア産業などのビジネス創出に活用。デジタル人材の育成にも注力する。
市内に設置されている野外彫刻は約200点。世界で最も歴史ある野外彫刻の国際コンクール「UBEビエンナーレ(現代日本彫刻展)」は令和6年に30回目を迎える。
宇部市のSDGsここがスゴイ!
宇部市では、地域に受け継がれてきた「共存同栄・協同一致」の精神に基づき人材育成を通じ持続可能なまちづくりを目指す
●「せかい! 動物かんきょう会議」で子どものSDGs人材育成に取り組む
●市職員が講師となり学生のSDGs人材育成「探求学習支援」を実施
●市民・企業のSDGs人材育成に関する制度や補助金が充実
●SDGs課題解決の拠点「SDGs推進センター」を設置
「宇部市の子どもたちが世界の未来を変えていく。そんな人材になればうれしいです」(連携共創推進課 大西義紀さん)
宇部市のここがオススメ!
山口宇部空港に隣接する公園に整備された県内初のインクルーシブ遊具。「飛行機・空港・空」をテーマに、誰もが一緒に遊べる広場として多くの親子でにぎわう。
霜降山(しもふりやま)の天然地下水と良質な酒造好適米、宇部の自然がおいしい日本酒を生み出す。特に「永山本家酒造場」の「貴(たか)」はすっきりした味わいで人気。
宇部市移住支援情報
自然豊かで空港に近いのが魅力。移住者が多く、二拠点居住にも人気
本誌の2023年版「住みたい田舎ベストランキング」人口10万人以上20万人未満のまちで、総合部門3位の人気移住地。空港があることを強みに、都会の会社に勤めつつ生活拠点は田舎に置きたい人や二拠点居住を望む人にも注目されている。子育て支援が充実しているほか、オーダーメイドツアー、お試し住宅など、市独自の移住支援策も多彩。
問い合わせ:うべ移住・定住サポートセンター ☎0836-34-8480
宇部移住計画|山口県宇部市|おいでませ!うべ移住・定住サポートセンター
毎月1回、移住者同士が気軽に話せる交流会を開催。写真は23年6月に行われた田植え体験。
「宇部市への移住で気になることは、お気軽にご相談ください」(うべ移住・定住サポートセンター 古谷次郎さん)
文/佐藤明日香 写真提供/宇部市
この記事の画像一覧
この記事のタグ
この記事を書いた人
田舎暮らしの本編集部
日本で唯一の田舎暮らし月刊誌『田舎暮らしの本』。新鮮な情報と長年培ったノウハウ、田舎で暮らす楽しさ、心豊かなスローライフに必要な価値あるものを厳選し、多角的にお届けしています!
Twitter:@inakagurashiweb
Instagram:@inakagurashinohon
Website:https://inakagurashiweb.com/
田舎暮らしの記事をシェアする