全国に広がっている住みます芸人の笑いあふれる地域協力活動にフィーチャーした、「47都道府県エリアプロジェクト(あなたの街に“住みます”プロジェクト)」をレポート! 今回は、岩手県盛岡市で日本酒作りに奮闘する、岩手県住みます芸人のコンビ、アンダーエイジをクローズアップ! ボケ担当のたもんさんが田舎暮らしの本 Webに寄稿してくれました。
CONTENTS
岩手県住みます芸人
アンダーエイジ
左・くまがい|1982年6月5日生まれ。岩手県花巻市出身。ツッコミ担当。NSC東京校11期生。
右・たもん|1982年8月10日生まれ。山形県山形市出身。ボケ担当。NSC東京校11期生。芸歴17年。同期は、チョコレートプラネット、シソンヌなど。趣味は競馬(岩手競馬)、プロレス観戦、酒、歴史巡り。特技は、刺繍、走り幅跳び(インターハイ出場)。著書に『妄想餃子』(八五八六商店)がある。
住みます芸人活動歴:2011年5月~
活動拠点:岩手県盛岡市
住みます芸人の主な活動:岩手県の紫波酒造で日本酒作り。ローカル情報番組・ラジオ番組・イベントの出演。
テレビ:『Go!Go!いわて』(岩手朝日テレビ)、『5きげんテレビ』(テレビ岩手)
ラジオ:『フラワープラス』(FM花巻)
X(旧Twitter):くまがい @chankumachan / たもん @ageyuki
Instagram:たもん maguroishi_tetsuo
YouTube:たもんチャンネル
【岩手県】
「北海道に次ぐ面積の大きさを誇り、県内の33市町村それぞれに特色がある。たとえば、盛岡冷麺も盛岡市では一般的なものだが、沿岸部に行けば見たことすらない人間も少なくない。そのかわり、沿岸部は三陸産海産物の一番美味しい食べ方を知っている。しかも、それをアピールすることもないので、現地に行って驚くことが非常に多い。13年住んで各地域を訪れているが、いまだに毎回新たな発見があり、『アピール下手』が逆に訪問者をワクワクさせる。『来てみりゃわかる』それが岩手県!」(たもんさん)
今回は、アンダーエイジのたもんさんが、田舎暮らしの本 Webに、自身のコメントを寄稿してくださいました。たもんさんは、地元岩手のタウン誌『AREA i』(隔月発売)にて、連載しており、その内容をまとめた著書『妄想餃子』(八五八六商店)も好評です。
それでは、岩手県住みます芸人の気持ちのこもったエッセイをお楽しみください。
目指すは謙虚な力持ち
岩手県の県民性は、まさに地元が生んだスーパースター大谷翔平選手のような「実力主義の謙虚な力持ち」である。その根底には『雨にも負けず』の宮沢賢治イズムが流れているのかもしれない。
僕はこの県民性が大好きである。しかし、逆にいえば「アピール下手」も岩手の県民性といえるのだ。
岩手に住む前に抱いていた岩手の印象といえば「わんこそば」「冷麺」「平泉の金ピカのやつ」くらいのものだった。今でも県外の人間に岩手の印象を聞くと大体この三つのどれかがほとんどだろう。しかし、住んでみて岩手の印象はガラリと変わった。「何でこんなものを僕は知らなかったんだ」の連続だったのだ。
あまりに連続するので「わざと隠していたのか」と勘繰るほど岩手は魅力的なものに溢れていた。パニックに陥り取り乱してしまった僕は、「何で今まで黙ってたんだよ」と岩手県出身の相方に詰め寄ってしまったのだが、相方はポカンとしていた。
そして、気付いたのだ。岩手県民は自分らの魅力にまったく気付いていないことを。
当然、県外から来た人間は気付く。その証拠に、ニューヨークタイムズ紙では「今年行くべき世界の街」として盛岡市がロンドンに次ぐ二番手で紹介された。そんな一報に対しても、岩手県民はポカンである。「何で?」「どこが?」なのだ。
そんな、あまたある岩手の魅力のなかで、驚いたものの一つが日本酒だ。当然、『東北だし、米作りも盛んだろうから日本酒も美味いんだろう』と予想はしていたが、深さが違った。酒造りをするうえで、各酒蔵のリーダーを杜氏(とうじ)という。杜氏の腕によって酒のクオリティが決まるのだ。そして、そんな酒造りにおける日本三大杜氏の一つであり日本最大の杜氏集団が、岩手が生んだ「南部杜氏」なのだ。岩手の南部杜氏が全国の酒蔵におもむき、酒造りを今でも行っているのである。
その事実を僕は当然だが、独学で学んだ。誰もアピールしてくれないからだ。住んだ序盤に自慢されてもいいものだが、ここの人間は特に誇りにも感じていないようだった。そのため、若者は全国の若者と同じようにアルコール離れが進み、日本酒を飲んだことがない者も当たり前のようにいるのが現状だ。そういった影響もあり、やむなく休業してしまった酒蔵も多くある。和食が世界文化遺産に認定されてからの日本酒は海外での人気が年々高まっているにも関わらず……。
岩手県民、特に岩手の若者にもっと日本酒、そして南部杜氏や岩手の伝統を誇りに思ってほしいという思いから、僕らは岩手県紫波町にある紫波酒造さんに協力してもらって日本酒作りをスタートさせた。もちろん、原料となる米作りからだ。紫波酒造さんの小野裕美杜氏は四百年続く南部杜氏の歴史のなかで、初の女性南部杜氏である。それも当然後から知ったことだ。本人だけに限らず、まわりも教えてくれない。さすが「実力主義の謙虚な力持ち」たちである。「岩手は凄い!」と岩手県民に思ってもらうためには、外から「岩手って、すごいんだよ!」と教えてあげなければならない。
そこで、ラベルデザインはロンドン在住で車や時計、旅客機の空間デザインなどを手掛けるインダストリアルデザイナーの新立明夫さんに作成していただいた。海外にも岩手の日本酒をアピールするためにこれ以上ない方に作っていただいた。岩手の若者も「海外で岩手の日本酒が話題になっているらしい」と聞けば、きっと少しくらいは誇りに思ってもらえると思う。
【んだからさ】
岩手県住みます芸人のコンビ、アンダーエイジが手掛けた東北の究極プレミアム日本酒『んだからさ』。世界的に活躍するインダストリアルデザイナー・新立明夫氏のデザインのラベルも岩手県一関市の伝統工芸である東山和紙(とうざんわし)を採用するこだわりよう。パッケージも同氏のアイデアで、岩手県産の杉を使用した木箱の蓋は枡になる仕様。価格は未定ですが、限定100本の生産を予定。価格は1本10万~30万円を想定している模様です。高級日本酒ということで、海外をターゲットにドバイでの販売計画も立てている様子。同じく、岩手県産の酒造好適米「ぎんおとめ」を使用したレギュラー版もあります。どちらも、近日発売予定です。
銘柄は“んだからさ”に決まった。岩手県民が会話でよく多用する言葉だ。「だよね」や「そう、そう」といった相手に賛同する際に使われる。
「このラベルかっこいいね」
「んだからさ!」
「この日本酒美味っ!」
「んだからさ!!」
岩手の若者にこんな会話をしてほしいなと思っている。
お笑いコンビ・アンダーエイジ。米から日本酒をつくる。
プレミアム日本酒『んだからさ』ができるまでを写真で紹介します! たもんさんのコメントとともにお楽しみください。
「岩手県産の最高級酒米『結の香』の田植え作業です。初めてトラクターを運転しました」
「『結の香』の稲刈り作業のときの写真ですね。たわわに実った稲穂を見ていると米作りの大変さを実感しました。でも、とても楽しかった思い出です」
「日本酒作りの基本、三段仕込みの作業です。4日間にわたって蒸米・麹米・水・酒母を投入する工程です」
「搾った直後の日本酒を一旦瓶詰めしてから試飲しました。最高の日本酒が爆誕しましたよ」
ここからは、アンダーエイジ・たもんさんのコメントを補足する追加取材(メール取材)を実施したので、その内容をお伝えします。
住みます芸人の初期メンバーとして地元に定着
中学から大学まで陸上競技部に所属し、中学時代は100m走で山形県1位という輝かしい成績を残しているアンダーエイジのたもんさん。高校時代は走り幅跳びで東北5位でインターハイ出場。その後、大学で知り合った、現在相方のくまがいさんに誘われ、NSCに入学。東京で5年間ライブを中心に活動後、2011年より、「47都道府県エリアプロジェクト」の初代として、くまがいさんとともに、コンビで岩手県住みます芸人となりました。移住した当初からレギュラー番組があり、順調なスタートを切ったコンビ芸人です。
以下、たもんさんへ、いくつか質問をしてみました。
| なぜ、住みます芸人をやってみようと思ったのですか?
「会社(吉本興業)が新たなプロジェクトを始めるということで説明会があり、他人事としてボケっと聞いて帰ろうとしたら、大好きな先輩である囲碁将棋さんが前のめりでプロジェクトに興味を持っている姿を目にし、チャンスになるかわからないけど、とりあえず自分から掴みに行けるものは掴みに行こうと思い、僕自身は特に縁もないが相方の出身地である岩手で住みます芸人なることを決意。大きな覚悟を持って岩手に住むことに。ちなみに、囲碁将棋さんは神奈川県住みます芸人という、東京とほぼ変わらず特に覚悟のいらない住みます芸人になった」
| 住みます芸人の活動で大事にしていることは何ですか?
「岩手愛。食べ物も、自然も、伝統も、人も、すべてに岩手愛を持って接している。岩手に関連していることは何でも知りたいし、体験したいと思っている。岩手の冬は尋常じゃなく寒い。寒いを通り越して痛い。だが、そこがいい。涙が出るほどつらい。だが、そこがいい。こうでなければ岩手じゃない。すべては岩手愛である。ちなみに、キンキンに冷えきった冬の朝にカチカチと歯を鳴らしながら目をバキバキにして盛岡の神子田朝市で食べる郷土料理『ひっつみ』の味はここでしか味わえない」
| 活動のなかでどのような学びがありましたか?
「岩手の歴史がここまで面白いんだということを学んだ。世界遺産に登録された御所野遺跡の縄文時代、謎めいた伝承しかない蝦夷の時代、世界遺産に登録された平泉奥州藤原氏の時代、南部氏の時代、そしてまたまた世界遺産に登録された橋野高炉跡の近代とざっくりとした歴史を並べただけで、半分が世界遺産である。それほど、魅力的な歴史が岩手にはあることを学んだ」
| 岩手県に移住してどのような出会いがありましたか?
「良かったことは、ホヤに出会えたこと。これほど好き嫌いが別れる食べ物は他にないのがホヤなのだが、幸運にも僕には堪らなく好きな味だった。こんな美味いものをよく隠してきたなと思う。苦労していることは、ホヤを食べ過ぎて飽きて嫌いにならないように調整して食べていること。スーパーで安く売っているので注意が必要だ!」
| 実際に住んでみてどのような出会いがありましたか?
「岩手の馬文化との出会い。元々競馬が好きであったのだが、岩手がここまで馬と深い関わりがあるところとは思わなかった。古くは、源平の合戦で源義経が跨っていた太夫黒が岩手産であり、その後南部氏によって徹底的に管理された南部馬は全国的に憧れの名馬を生み出した。明治に日本で初めて開催された洋式競馬では、海外から招待されたサラブレッドを相手にぶっちぎりで圧勝した最後の南部馬である盛号。
さらに、戦前の小岩井農場では日本で初めてサラブレッドを輸入し、小岩井農場産のサラブレッドが日本ダービーを何度も制覇し、一時代を築いた。
さらに、1999年のフェブラリーステークスで、メイセイオペラが日本競馬史上後にも先にも唯一頭、地方競馬所属馬が中央を制した。
正直、岩手の馬にまつわる輝かしい歴史はまだまだある。
馬好きの僕からしたら、こんな出会いがあるとは思わなかった」
| この活動で印象に残っていることはありますか?
「岩手に来た2011年、岩手県沿岸はとてつもないことになっていた。どうすることもできない自分たちの非力さを痛感していた矢先、被災地で番組の取材が入った。被災者親子にインタビューするも勝手がわからなくどうしていいかわからなかった。そして、インタビューを終え、帰る車に乗り込もうとしたとき、被災者親子の小学生の女の子がトコトコと駆け寄ってきて、一輪の野花を渡してきてくれた。そして、僕にこう言った。『これ、貧乏草っていって、持ってると貧乏になるんだよ』と。何気ない子どものいたずらに僕は救われた。それからもうすぐ13年。僕は、その子のせいでとても貧乏である」
| 今後の目標を教えてください
「今はとにかく日本酒で盛り上げたいと思っている。いい日本酒が生まれるためには、美味しいお米が不可欠。美味しいお米のためには美味しい水が不可欠。美味しい水が湧き出るためには、きれいな山が不可欠。そして、そんな豊かな自然と長年受け継がれ磨かれてきた杜氏さんたちの酒造り技術によって美味しい日本酒が生まれる。美味しい日本酒を飲んだら笑顔が生まれる。だから、日本酒で岩手を盛り上げたいと思う
日本酒プロジェクトに関しては、岩手の若者に岩手のホンモノの日本酒を味わってほしい。確かに、僕が学生の頃に飲んでいた飲み放題の安い日本酒はただ酔い潰れるためだけの劇薬みたいなイメージだった。しかし、ホンモノの日本酒は全然違うということを知ってほしい。その上で、岩手の酒の歴史や文化を誇りに持って大いに県外で自慢してほしいと思う。そう思ってもらえるような展開を今後考えていきたいと思う。
住みます芸人としては、2024年から岩手県の33市町村で単独ライブツアーを予定している。おそらく、町や村で初めてのお笑いライブというところもあると思う。お笑いライブが岩手県民にとって新たな娯楽の一つとして捉えてもらえるようにしていきたい」
いかがだったでしょうか。実際に一年かけて、米から日本酒をつくったアンダーエイジ。今後の進展が気になります。
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