前回までにコンクリ基礎が完成した和田邸である。今回からは墨付け、刻みの作業に入るわけだが、
久しぶりに訪ねてみると、なにやら不穏な空気が……。
上出来だったはずの基礎が!?
さて、和田邸建築工事2回目である。ひと月ぶりに和田家に行ってみると、基礎の立ち上がりが「ドドーン!」と完成していた。
中山「おー、よくできてるじゃないの」
阪口「さすが、きっちり型枠つくってただけのことは……、って! よく見たらヨレヨレじゃん!」
よく見ると立ち上がり部分がグニャグニャに波打っているではないか。これは間違いなく、型枠のコンパネがコンクリの圧力に耐えられずに膨れてしまったのが原因である。何を隠そう阪口邸の玄関が同じように膨らんでいるのだ。コンクリの重圧というのは侮れない。
和田「引退した左官職人のオジサンに道具を借りたんだけど、組むのは自分でやったもんでさ……。 まあホラ、どうせ目立たないし」(←負け惜しみ)
中山「それで、この棺桶みたいなのは、何?」
和田「あーそれね。コンクリ余ったから事前に合板で組んでおいた型枠で沓石(くついし)つくったんだけどさ。重くて動かせないの」
一同(失笑)「どうすんの、これ?」
和田「……このままなかったことにする」
一同(再び失笑)
阪口「ほかにもツッコミどころ満載なんですが……。例えばアンカーボルトにコンクリがくっついてるけど、ボルト締まらないんじゃないの?」
和田「そういうのはちょっと力を入れてボルトを回せばコンクリのほうがはがれるよ。無理やりねじ込んで」
中山「天端(てんば)にヒビがあるのは?」
和田「それは無視」
水野「……もしかして中山さんより、いい加減かも?」
しかし和田の「テキトー」ぶりは、それどころではなかったのである。
キノコが生えてる!?
ひととおりのツッコミが終了したところで作業に移ろう。まずは土台になるヒノキの材木を運び出すことにしたんだが、ここで水野が悲鳴を上げた。
水野「ねえ、この気持ち悪いの何……。もしかしてキノコ?」
和田「あーそれね。雨ざらしにしといたら、なんか生えてきちゃったんだよねー」
中山「調べてみたら白色腐朽菌ってやつで、ヒラタケとかマイタケと同じ種類らしいよ」
水野「てことは、柱とか梁からキノコが生えてくるってこと?」
中山「いいねー。新しいタイプの家庭菜園だねー」
阪口「家の中でキノコ狩りできちゃう(笑)」
和田「よくねーよ! スクレーパーでこそぎ落としてよ!」
土台になる材木を並べたらアンカーボルトの穴あけである。アンカーボルトは手差ししたから、ひとつずつ位置が異なる。タテヨコの位置を正確に出してから穿孔しないとピッタリはまらないので、けっこう厄介な作業である。しかしそんなことは、すっかり忘れていた中山であった。後々の施工を考えて座掘り(ざぼり)しながら、1つずつ穴をあけていったんだが……。
和田「あれ? ボルトがはまらないんだけど。なんでかなあ」
中山「ちゃんと58㎜であけたよ」
和田「えーと……。もしかして全部58㎜であけたの?」
中山「あ……( 冷汗)」( ←ここでようやく大失敗に気づいた)
和田「……ま、いいよ。あけ直すからさ」
このとき、和田の表情が一瞬、 非常に険しくなったのを覚えている中山であった。
しかし失敗したのは中山だけではなかった。土台が組み上がっていくうちに、今度は和田の絶叫が響き渡った。
和田「ぬあーっ! アンカーボルトが届かない!(怒)」
どういうことかというと……、立ち上がり基礎にアンカーボルトを埋め込む際には、「土台の厚み+基礎パッキン(基礎と土台の間に通気層をつくるためのスペーサー)」の分だけ露出させなければいけないのだが、和田は基礎パッキンの厚みをすっかり忘れていたのであった。つまりアンカーボルトが土台の中ほどに埋没してしまい、「アンカーボルトが届かない!(怒)」となってしまったのである。しかし、ここでまったく動じなかったのは阪口である。
阪口「そうそう。よくある失敗なんだよねー。そんなこともあろうかと持ってきたのが……、じゃじゃーん!」
中山「おお! それはどっかで見たことがあるぞ!」
阪口「そう! 商品名『パイプ付き座掘ドリル』。またの名を『座掘り忘れたおバカさんのための座掘ドリル!』(←勝手に命名)」
水野「こういう商品があるということは、プロの大工さんでも座堀りを忘れる人がけっこういるんでしょうね」
阪口「このドリルビットを、ほれ、このように届かないアンカーボルトに差し込んでギュルギュルと……」
和田「おお! 座掘れた!」
中山「まさに『必要は発明の母』 ですな」
というわけで、どうにかリカバリーに成功。
テキトー施主・和田!
和田「じゃあ改めて組んでみようか。腰掛け鎌継ぎはもうつくってあるからさ」
自信たっぷりの和田の言葉を信じて継ぎ手を組んでみる。しかし案の定というべきか……、やはりはまらないのである。
中山「これさ……、全然形が違うよね」
阪口「見た瞬間に『入らない』ってわかるレベルだよ」
和田「あーそれね。チェーンソーでやったからテキトーなんだよ」
一同「入るわけねーだろ! テキトーじゃ!」
和田のいい加減な加工のため、オスメスの形があまりに違いすぎてはまらないのだが、それでも和田はひるまない。
和田「大丈夫、大丈夫! グラインダーで削るから」
そう言ってディスクグラインダーで鎌継ぎの顎の部分を削り落としていく和田である。確かにこれは新しい。今までは手ノミでバリ取りしていたが、グラインダーを使えば一発だ。
かなり削って、もう一度はめてみる。しかしそれでも入らない。
もう一度削る……、まだ入らない。
もう一度……。
阪口「こりゃ時間かかるなあ」
中山「やっぱり丸ノコと手ノミできっちり正確につくったほうが早いんじゃないか?」
和田「わかった! メスのほうを削る!」
今度はチェーンソーを取り出してきて、メスの継ぎをこじあける。
和田「まあ、こんなもんだろ」
一同「えー? だって、合ってないじゃん」
和田「大丈夫!」
最後に和田が取り出したのはカケヤであった。和田はカケヤを大きく振りかぶると、ドカンドカンと継ぎ手に叩きつけた。
和田「ホラ入った」
見ると、鎌の部分が半分潰れかけた状態でねじ込まれているではないか。
中山「いやこれ、入ったっていうかさ……」
阪口「本来、入らないものを『力ずくでねじ込んだ』 って感じだよね」
和田の「力ずく」はまだ続いた。どうにか組み上がった土台を点検していたときのこと。
中山「なんか、土台が歪んでね?」
和田「どれ……。あ、ホントだ」
すると和田は、土台のヒノキ材に2、3発、蹴りを入れた。
和田「ほら、まっすぐになった」
一同「……」
中山「今度から、あんたのこと『テキトー施主』って呼ぶことにするから」
和田「えー、全然テキトーじゃないじゃん!」
一同「いいや! オマエは絶対、テキトーだ!」
いろいろと疑問の残る施主・和田の施工なのであった。
今後の展開に大いに不安が残るぞ!
大丈夫か、テキトー施主!
文/中山茂大 写真/阪口 克 イラスト/和田義弥
第1回 基礎工事
第3回 柱、梁、桁の刻み
第4回 棟上げ目前
第5回 棟上げ
第6回 棟上げ
第7回 棟上げ
第8回 足場組み、家起こし
第9回 屋根
第10回 屋根材張り&プロによる中間チェック
人力社
ライター中山とカメラマン阪口、 ライター和田の旅とDIYを得意とする3人組トリオ。「人力山荘」シリーズでは中山の母屋リフォーム、中山のアネックス新築DIY、和田の自宅新築DIYを連載。阪口も自宅をDIYで新築している。
人力社HP➡www.jinriki.net
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