東京でコーヒーの焙煎業を営んできた金川さん。理想とするコーヒーの楽しみ方を求めて移住を検討し始めたときに出合ったのが、見ず知らずの土地・三重県だった。多気町にたどり着いた経緯、地域の魅力、今感じていることなどを伺った。
掲載:2024年6月号
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三重県多気町 たきちょう
三重県のほぼ中央に位置する山に囲まれたまち。古くから農業が盛んで、丹生大師(写真)をはじめ歴史ある文化や遺産も多数。企業の進出を促進する工業ゾーンもある。伊勢自動車道勢和多気ICより名古屋まで約1時間、関西圏まで2時間弱。
気圧(けお)されるほどの元呉服店。皆で力を合わせて大改装
金川幸雄さん、淺奥美穂さん
東京で生まれ育った金川さんは、祖父の代から続くコーヒー豆焙煎業の3代目。ブラジルのコーヒー農園で学んだ父のもと、焙煎を究めてきた。パートナーの淺奥さんとともにコーヒーを本当においしく楽しめる場所を探し求め、三重県に移住。2020年7月、多気町に「金川珈琲」を開業。淺奥さんが接客を担当。焙煎やハンドドリップでコーヒーを抽出するのは金川さん。
1885年建築の元呉服店を改装した「金川珈琲」。ガラス越しに焙煎機を見ることができ、作業中はコーヒーの香りが煙突から漂う。
金川珈琲
住/三重県多気郡多気町丹生1618 ☎0598-67-8194
営/9:00〜17:00 休/水・木曜
https://kanecafe.com/index.html
「コーヒーを本当においしく味わえる場所で店を営みたい」
祖父の代から続くコーヒー店を継ぎ、コーヒーと真摯に向き合うにつれ、そんな思いを募らせるようになっていた金川さん。東京の「ふるさと回帰支援センター」に通い、たまたま足を踏み入れたのが「ええとこやんか三重 移住相談センター」だった。金川さんは三重県についての知識がまったくなかったものの、ポテンシャルの高さを感じるとともに、担当者の三重県愛にあふれた対応に、次第にひかれていったという。店の移転を父に承諾してもらうのに少々時間はかかったものの、2019年には東京の家を処分。松阪市の賃貸物件を拠点に物件探しを始めた。そのとき知り合ったのが多気町役場の担当者だ。
「町をすみずみまで案内いただいたり、町の人にあいさつをさせていただいたり。現在の店舗兼住居も、そのときに巡り合いました」
物件は、和歌山別街道が通る、多気町丹生(にゅう)にある元呉服店。金川さんたちは当初「恐れ多くて自分たちには手が出せない」と購入は考えていなかったという。だが、さまざまな経緯を経て、購入を決断することとなった。
物件を改装するにあたっては、多気町の担当者に紹介してもらった「山路工務店」に依頼。古民家再生事業に精通している業者で、さまざまなアドバイスを聞くことができた。また、自分たちができる作業は手伝い、周囲の人たちから助けてもらうことも。みんなで一丸となって工事を進めた。大工さんたちとは今でも飲みに行くほどの仲だという。
半年後に店舗が完成。土間を生かした入り口、ケヤキの梁がめぐらされた高い天井、床はスギ材、テーブル席やカウンター席は桜。カウンター席の横材には天井に使われていた端板を張り、自分たちで柿渋を塗った。飾り棚は、屋根裏から出てきたものをアレンジ。これまで大切にされてきたものを受け継ぎ、新たな息吹を吹き込んだ店舗は、とても居心地がいい。
ところが、開業した20年はコロナ禍。最初はテイクアウトのみでコーヒーを販売するなど苦労もあった。しかし、時間をかけて移住準備をしてきたこともあり、店が近隣住人に受け入れられるのに時間はかからなかった。徐々に店内営業を開始し、今では休日は順番待ちができる人気店へと成長している。
店内は靴を脱いで上がるスタイル。奥のタンス階段から2階席へとつながっている。
コーヒー豆は、店頭のほか公式サイトのWEBショップでも販売。
「これでないと理想の味が出せない」と、東京で70年以上使ってきた焙煎機も多気町に移設。自分でメンテナンスを行い大切にしている。
店以外にも、金川さんたちは敷地内で畑をつくるなど、新しいことにも挑戦。野菜の栽培について、近所の人からアドバイスをもらうことも多々ある。
「近所の方たちの温かさがとてもうれしいです。ときには、自家栽培の野菜や山で採れたタケノコなどをいただくこともあるんですよ」
趣味の魚釣りでたくさん釣れたときは、魚を調理して近所にお裾分けすることも。多気町は、海のある鳥羽市や南伊勢町へ車で30〜40分、尾鷲市へも約1時間でアクセスできるため、東京にいたころよりも釣りに出かけることが増えた。
「私たちが釣り好きだと知っているお客さまが、いろいろと情報を教えてくれることもあるんです。こんなふうに、趣味やコーヒーのことを会話しながら焙煎業に携わることができてうれしいですね。今、理想としていたかたちでコーヒーを提供していると感じています」
屋根裏部屋を改装した寝室に取り付けてもらったベランダからは、丹生の町並みを一望できる。
店舗奥には住居がある。かつてかまどがあった土台を生かし、2人の背丈に合わせたキッチンに。壁や天井は淺奥さんが白く塗って明るい雰囲気にした。
2人で選んだブルーのコーヒーカップ。改修時に戸袋から出たケヤキの材をマドラーにして、焼き印でコーヒーの種類を記載。
金川さん&淺奥さんからアドバイス
移住準備中に出会えた知人は大切な存在
物件の購入・改修資金は信用保証協会に相談をし、事業計画書を書きました。また、店を営むにあたって100軒以上を見学したのですが、そんな中でいろんな方と知り合えたことは、自分たちの支えになっています。何か困ったことが出てきても、相談する相手が近くにいるんです。例えば、コーヒーに添えるお菓子を誰かに委託したいと思ったら、すぐ「○○さんが得意だったよね」と思いつくといった具合に。
「周囲の人、みんなが私たちの師匠です」
多気町移住支援情報
近隣へのアクセスが抜群な交通の要地。住まいへの補助で移住者をサポート
古くから街道が通る交通の要衝として栄えた多気町。今も高速道路やJRが町内を通り、近隣のビジネス圏まで約30分というアクセスのよさが魅力だ。移住定住促進補助金として、20歳以上45歳未満の配偶者のいる人と一人親世帯を対象に、新築住宅の建築や、中古住宅の購入&リフォームに最大200万円を補助(Uターン者は30万円を加算、諸条件あり)。空き家バンク物件の紹介も行っている。
問い合わせ/企画調整課 ☎︎0598-38-1124
「VISON(ヴィソン)」は、ホテルや飲食店、産直市場、温浴施設などが集結した国内最大級の商業リゾート。
相可高校食物調理科調理クラブの生徒による、地産地消レストラン「まごの店」も大人気!
「魅力あふれる『ええまち 多気町』に移住しませんか!!」
企画調整課 移住担当の皆さん
文/横澤寛子 写真/松原 豊 写真提供/多気町
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