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田舎暮らしの本 1月号

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田舎暮らしの本 1月号

12月3日(火)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

温暖な気候と釣り場にひかれ リアス海岸が美しい漁師町へ【三重県尾鷲市】

入り組んだ海岸線が多数の湾をつくり、多様な漁業が営まれてきた 三重県南部の尾鷲市。「自然豊かな場所で趣味の釣りをしながら暮らす」という生活に憧れていた夫妻は、透明度が高く魚種豊富な海と、周囲を取り巻く山々の環境に魅了され、移住を決めた。

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掲載:田舎暮らしの本 2024年7月号


熊野灘に面して総延長約100㎞に及ぶリアス海岸の地形が広がる尾鷲市。点在する天然の良港と黒潮の影響による温暖な気候に恵まれ、古くから漁業や林業が盛ん。高速道路を利用して名古屋から車で約2時間、大阪から約3時間。

尾鷲の集落が気に入り
漁港近くの古民家を購入


戸田さん夫妻は趣味の釣りがきっかけで尾鷲市へ。最寄りの釣り場は自宅から徒歩約5分。「尾鷲は温暖な気候も魅力。12月でもそれほど厚着をせずに過ごせます」。

 ともに栃木県出身の戸昌良(とだまさよし)さん(49歳)・幸子(さちこ)さん(55歳)夫妻は、物流会社で働いていた昌良さんの転勤で愛知県名古屋市に引っ越したころから、2人で釣りを楽しむようになったそう。昌良さんはこう振り返る。

「週末は愛知県内を中心に、福井県や三重県など車で3時間圏内の海へ釣りに行っていました。当時から、いつか緑豊かな場所で暮らしたいという思いはありましたが、まだ強く意識していたわけではありませんでした」

 そんなあるとき「年末年始にどこか温暖な場所へ釣りに出かけよう」と選んだのが尾鷲市。滞在中、いくつかの港を訪れるなか、南部の三浦(みきうら)漁港の雰囲気が特に気に入った。

「自分たちが知っている外海の風景とは異なり、リアス海岸の内湾はまるで湖のよう。すぐ後ろに山々が迫る豊か過ぎるほどの自然環境や、集落の気さくな人たちにもひかれました」

 と、昌良さん。こうして尾鷲市への移住を意識するようになり、空き家バンクで見つけたのが、三木浦漁港から路地を少し入った高台に立つ家。漁師町では珍しく広い庭があり、古民家の風情が感じられ、建物の状態は良好。10年ほど前にリフォームされ、オール電化や水洗トイレといった快適な設備も整っていた。内覧時には2階から海が見えることに気づかなかったそうだが、のちに知って得した気分になったという。

 契約後しばらくは週末に名古屋から通い、家の手入れをしながら釣りを楽しんだのち、2022年7月に移住した。

週末は夫妻で釣りを満喫
悩みは酒量の増加!?

 仕事はちょうど募集していた、移住・定住促進担当の地域おこし協力隊に応募。協力隊が運営する「おわせ暮らしサポートセンター」で活動している。

「当初は名古屋で働きながらの二地域居住を考えていましたが、徐々に気持ちが盛り上がってきて完全に移住しようと決めました。仕事として協力隊を選んだのは、任期中に自分のスキルが磨けますし、移住や空き家バンク物件購入の経験も生かせると思ったからです」

 そんな昌良さんに対し、幸子さんは以前の経験を生かして地元の漁業会社の経理職で就職。

 生活が落ち着いてきた現在は、2人の共通の休みである日曜を中心に、趣味の釣りを満喫。家から徒歩約5分の三木浦漁港ではカサゴやアカハタ、たまに養殖場から脱走したマハタなどが釣れるというが、普段は町内の遊漁船を利用して筏釣りやカセ釣り※へ。「紀州釣り」と呼ばれるダンゴエサを使ったクロダイ(チヌ)釣りにもはまっている。

「尾鷲の海は透明度が抜群で、魚種も豊富。深場へ行くといろんな魚が釣れます。日本記録のサイズのクロダイが釣れたことで知られるなど、クロダイ釣りの人たちの憧れの地にもなっているようです」

 と、昌良さん。釣れなかったときには遊漁船の船頭がカツオをまるごとくれたり、ときには近所の漁師がイセエビを譲ってくれたりと集落の人たちの温かみも実感。常においしい魚があることで、酒量が増えてしまったことが唯一の悩みだという。

※養殖いけすの横や湾内に固定されたボートで行う釣りのこと。


釣り場でよく会う釣り仲間。互いに名前は知らないものの親しくしている。


三木浦漁港に隣接する三木浦マリンパーク(海水浴場)は、潮風が心地よい散策スポット。


「間違って釣れました」という高級魚のシマアジ。最近は55cmのマダイも釣れたとか。


普段はあまり釣れることがないというヒラメ。魚種豊富な海は思いがけない幸運も多い。


ユカタハタの刺身。釣果は刺身のほか、昆布じめ、干物、ソテーなどにして食べる。


ビーチに椅子を置いて2人でのんびり。美しい海の風景を眺めながら飲むビールは格別!


夫妻ともに以前からトレッキングも趣味。移住後はまだあまり行けていないというが、海の眺めがよいコースも市内にあるという。


2階の寝室からの眺望。毎朝カーテンを開けると見られるこの景色もお気に入りだ。


300万円で購入した家は6DKの2階建て。正確な築年数は不明だが推定100年ほど。


円形の下地窓が迎えてくれる玄関ホールは、この物件を気に入ったポイントの1つ。


Before
建物に大きな傷みはなかったものの、階段や廊下にはじゅうたんが接着されていた。

After
階段と廊下のじゅうたんや古い床板を撤去し、無垢材の板張りにリフォームした。


釣りに出かけない休日は、縁側で庭を眺めながらのんびり過ごすことも多い。


雑草に覆われていた庭は既存の芝生を再生し、新たな花を植えて彩りよく演出。


魚鉄(うおてつ)商店は、尾鷲港で水揚げされた鮮度抜群の魚介類が評判の老舗。「刺身が安くておいしいのでよく利用します」と昌良さん。


簡易郵便局を兼ねた町内会の事務所。町内会費の支払いに訪れるだけでなく、まちのことをいろいろと教えてもらっているという。


現在は移住・定住が任務の地域おこし協力隊として、空き家バンクの運営などを担当。

戸田さんに聞く! 海の楽しみ

「非日常的な日常」を満喫

 家の近くで釣りができることが一番の喜びですが、釣果を含めて新鮮な海の幸が手に入るので、お酒のアテをつくったり、海産物を買ったりして楽しんでいます。また、日常でありながら非日常のような暮らしができるのも、海の近くならでは。夜にお酒を飲んだあと「ちょっと散歩でビーチへ」という、海辺のリゾート気分が味わえます。


町内の海でウミガメを見かけることも珍しくないという。

 

文・写真/笹木博幸

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