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田舎暮らしの本 11月号

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田舎暮らしの本 11月号

10月3日(木)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

消滅可能性自治体/自給自足を夢見て脱サラ農家37年(55)【千葉県八街市】

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 6月28日。「日本で最も安全な場所は東京かもしれない」。

 午前中はごく普通の雨だった。プールの睡蓮が心地よさそうに雨を受けていた。九州から東海にかけては線状降水帯の発生が伝えられ、避難警報まで出ているらしいが、幸いにもこっちにはさしたる影響はなさそうだな。雨の中でいつもの荷造りを始めた。しかし、ビニールハウスでトマトを収穫している時、ビニール越しにすさまじい雨音が響いてきた。さあ困ったぞ。されど、お客さんとは約束している。野菜もすでに予定の半分を収穫している。途中でやめるわけにはいかない。ズブ濡れになりながらどうにか荷物を作り終え、クロネコ営業所に向かうため軽トラのエンジンをかけようとした頃、久しく経験したことのない激しい降りとなった。不安である。僕は運転がうまくない。高速道路を一度も走ったことがないのはそのためだが、ここは度胸を決めて行くしかないないだろう。ワイパーをハイパワーにして出発した。そして帰り道・・・うちまであと1キロという地点に大きな下り坂があり、すぐに急な上り坂という場所がある。僕の前方に泥の海があった。都会での道路冠水はそこそこ澄んだ水色をしているが、ここでは畑を経由して流れて来るゆえ文字通りの泥海なのだ。恐怖を感じた。運転が下手なせいでだけでなく、もうひとつ、だいぶくたびれている我が軽トラがこの泥の海を無事にわたり切れるかという不安である。僕の前を行く乗用車が左右にVの字の泥水を跳ね上げている。それに続いて進む。停まるなよ、エンストしないでくれよ。祈る気持ちでアクセルを踏んだ。前方から大型トラックが来た。それが跳ね上げた泥水で僕は前が見えなくなった。どうにか坂道を登りきった。わずか1分ほどの時間ではあったが、緊張度はマックスだった。

 家に帰り、庭にいるヒヨコたちは無事か、まずそれが気になった。ズブ濡れの母鳥がおなかの下で3匹のヒヨコをかばっている。そして、ここで唐突、日本でいちばん安全なのは、ひょっとして東京じゃあるまいか、そんなことを考えた。九州は鹿児島、宮崎、長崎、四国は高知、愛媛、そして我がふるさと山口も。さらには地震で被害を受けた能登地方も、東海地方も。打ち続く大雨で危険が迫っている。たまたま今年・・・なのではなく、特に西日本は毎年のように水害が発生している。東北、北海道には西日本のような水害はないが、大雪の被害がある。それら、いずれもから免れているのは・・・なんと、東京だけじゃないのか。まだ降り続く雨の中、庭の片付けをしながら空を仰いだ僕は、唐突に、そんなことを想ったのである。

 もちろん、東京でも、神田川や墨田川が氾濫する可能性はあるだろう。しかし、実際に氾濫で大きな被害が出たという話を僕は聞いたことはない。思うに、東京で、すぐ裏手に崩れるかもしれない崖を背負った住宅なんて無いに等しい。立木が倒れて電線を切断したり、道路を塞いで孤立するなんて地域も無いと言っても過言ではあるまい。もしかしたら、やっぱり、日本で最も安全な場所は東京なのかも・・・夜のテレビが伝える西日本の被災状況を見ながら、僕は晩酌しながら再びそう思ったのである。いや、それは違いますよ・・・異論を唱える人もいよう。首都直下型の地震が発生したら、電車は止まる、携帯電話は通じなくなる、帰宅困難者は何十万人も出る、ビルに設置してある看板などが落下し、道路を歩いている人たちを直撃するかもしれない。高層マンションに住む人たちはエレベーターも使えず・・・だが、しかし、首都が大地震に襲われる可能性は百年単位でのことだ。毎年のように台風や梅雨の豪雨に襲われる西日本と比べたら・・・やはり、東京は日本で最も安全な場所なのではあるまいか・・・僕はそんな気がするのだ。地方はやがてだんだんに消滅してゆく。東京は最後まで生き残る・・・とすれば、東京を生活拠点とした人々の選択、それは間違いではなかった。東京には何でもある。地方にはないものがすべて揃っている。唯一、欠けているものがあるとすれば、それは自給能力だろう。東京には巨大な「消費能力」がある一方、食糧生産の場は(まだいくらか畑のある練馬区などを除いて)ほとんど無いに等しい。東京はインフラの面では群を抜いている。しかし、地方消滅となると、どこから誰が都民のために食料を届けてくれるのか。よって、蛇足だとは思いつつ、東京でマンション生活をしている人に僕は推奨する。ベランダに雨水を貯めるタンクを置く、プランターを幾つか並べて野菜を作る。ついでに300ワットのソーラーパネルを設置して電気を作る・・・これ、小なれども確かなサバイバル術である。

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