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田舎暮らしの本 11月号

最新号のご案内

田舎暮らしの本 11月号

10月3日(木)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

写真家と画家の夫妻が見つけた、芸術を育む大地に根を張る暮らし【新潟県十日町市】

十日町市松代の田園風景と森の美しさにひかれ、9年前に移住した報道カメラマンの会田法行さんと画家の蓮池ももさん。米づくりやコーヒースタンド、絵本づくりをしながら、自分たちの足がこの地に根付いていくのを感じている。

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掲載:2024年8月号

新潟県十日町市
新潟県十日町市 とおかまちし

新潟県南部、長野県との県境に位置する十日町市。市街地には信濃川が流れ、雄大な河岸段丘を形成している。松代エリアは星峠の棚田をはじめとした棚田群で有名な地域で、大地の芸術祭の拠点施設や作品も点在。東京から関越自動車道経由で約2時間30分。

 

キャンプ場の管理棟で週末だけ営業する店

会田法行さんと蓮池ももさん/新潟県十日町市
会田法行(あいだのりゆき)さん(52歳)・右
横浜市出身。ミズーリ大学卒業後、朝日新聞社写真部入社。著書に『トイレをつくる 未来をつくる』『砂上の船 水上の家』(ポプラ社)など。
蓮池ももさん(41歳)・左
新潟市出身。独学で絵を描きつづけ、2006年より新潟市や東京のギャラリーで個展を開催。

 

 里山に囲まれた新潟県十日町市。魚の鱗模様のように形成された棚田群がある土地で、20年続くアートの祭典「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」の舞台の1つでもある。
 市の北西部、日本屈指の豪雪地帯として知られる松代(まつだい)地域の高台に、秘密基地感満載の「やぶこざきキャンプ場」がある。その管理棟の1階が、元報道カメラマンの会田法行さんが週末にオープンするコーヒースタンド「コーヒーとタープ」だ。

 会田さんは横浜市出身。アメリカの大学でフォトジャーナリズムを学び、卒業後は帰国して新聞社に入社。その後独立し、世界中を駆け回ってきた。

 新潟市出身の画家・蓮池ももさんと結婚し、しばらくは横浜で暮らしたが「子育ては自然豊かな場所で」と、移住地を探す旅に出た。たどり着いたのは、美しい田園風景のなかで芸術祭が開催される十日町だった。

 このころ会田さんは、移住したら写真を仕事にするのはやめようと考えていた。報道写真家としての視点以外で物事を見てみたいという思いからだ。

 「長年報道カメラマンをしていると、物事を客観的、中立的に見ることが当たり前になっていくんです。例えば震災や戦争で先祖代々の地を離れる人たちの、身を切られるようなつらさを、僕は完全には理解できていなかった。どこで取材していても、外から眺めているような感じがどうしても抜けなかった」

 地に足をつけて、その土地の人と同じ視点で物事を見てみたい。そう考えた会田さんは、米づくりを学ぶことにした。就農し5年続けたが、生計を立てることは想像以上に難しかった。

 「無農薬、無化学肥料、天日干しの米は本当においしいけど、どうしても価格が高くなる。それこそ自分じゃ買えないくらい。自分が買えないものをつくることにジレンマを感じました」

コーヒーとタープでは自家焙煎した東ティモールの有機豆を使用/新潟県十日町市
自家焙煎した東ティモールの有機豆を使用。「ここはもともと漬物をつくる設備があったので、比較的簡単に厨房をつくれました」。

管理棟の2階。窓が大きく、刈羽黒姫山や遠く弥彦山まで見渡すことができる/新潟県十日町市
管理棟の2階。窓が大きく、刈羽黒姫山(かりわくろひめやま)や遠く弥彦山(やひこやま)まで見渡すことができる。
コーヒーとタープ
住所/新潟県十日町市蓬平829 やぶこざきキャンプ場内 営業/グリーンシーズンの土日祝のみ営業、 9時〜日没
Instagram/@rice_terraces_ao

会田さんが文、ももさんが絵を描いた絵本『おにがくる』(めくるむ)
会田さんが文、ももさんが絵を描いた絵本『おにがくる』(めくるむ)。主人公は夫妻の息子のあおくんだ。

ももさんが初出展した2022年の「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」の様子/新潟県十日町市
ももさんが初出展した2022年の「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」の様子。絵巻のような作品「山の奥 海の底」を管理棟2階に展示した。

 

 そんな折、2022年の大地の芸術祭でももさんが出展することになった。展示会場はやぶこざきキャンプ場の管理棟だ。お茶を飲めるところがあればいいねと、芸術祭に先駆けてコーヒースタンドをオープンした。

 「コーヒーが大好きだったけど、当時は近くで豆を買えるところが少なくて。でも、こっちの人って、できることは何でも自分でやるんです。そのマインドにならって家で焙煎していたのを活かせるときが来ました(笑)」

 現在、会田さんは自家用の米をつくりつつ、週1回は東京の大学の講師、週末はコーヒー店の店主を務めている。

 「じつは今年、ももと2人で絵本を出版したんです。息子が通った市内の保育園の節分の話。みんなで大豆を育てて蒔くと聞いて、とてもいいなと思って」

 十日町での暮らしは9年目。新しい章が幕開けるような感触を、会田さんは持ったそうだ。

 「カメラマン時代は『次は何を取材しよう』と常に新しいことを追いかけ、移住してからも毎年何か新しいことをしていました。今年は初めての『初めてのことがない年』。大地に根を張るということは、四季が巡るなかで同じことを繰り返し、今していることを深めていくということ。僕たちは今、そんな暮らしが始まる地点に立っているのだと思います」

収穫した稲を天日干しにする「稲架(はざ)掛け」の様子/新潟県十日町市
収穫した稲を天日干しにする「稲架(はざ)掛け」の様子。このエリアでは木の間にロープを渡し、そこに稲をかける。

十日町には3つのスキー場がある。息子のあおくんがスキーにハマったので、会田さんは30年ぶりにスキーを再開/新潟県十日町市
十日町には3つのスキー場がある。息子のあおくんがスキーにハマったので、会田さんは30年ぶりにスキーを再開。毎日のようにスキー場に通ったという。

マ・ヤンソン / MADアーキテクツ「Tunnel of Light」Photo by Nakamura Osamu(大地の芸
術祭作品)
マ・ヤンソン / MADアーキテクツ「Tunnel of Light」Photo by Nakamura Osamu(大地の芸
術祭作品)

 

「新しい暮らし」へのアドバイス

子育て環境がとてもいいです。保育園ではていねいに見てくれて、小学校もみんな一緒。バス通学なので放課後は友達と遊べないのですが、夏の週末はこのキャンプ場、冬はスキー場で友達に会えて喜んでいます。私に関しては、周りの環境が変わることで絵も変わるんだなと思いました。本が好きなので、これからここで、絵本や挿絵、装丁など、本の絵を描いていけたらいいですね。(ももさん)


「必要に応じて家族会議を開いて、家族みんなで考える機会を持つようにしています!」

 

十日町市の移住支援情報
気軽に移住相談できるコンシェルジュ制度

十日町市には移住コンシェルジュがあり、暮らし、子育て、仕事、住まい、気候など、移住に関することならなんでも相談可能。移住後のフォローアップ相談もできる。最長1年間利用できる単身者用のお試し移住シェアハウスがあるほか、UIターンに使える各種補助金や空き家バンクも充実している。

【問い合わせ】
企画政策課 ☎︎025-755-5137
https://www.city.tokamachi.lg.jp/iju/index.html

十日町市移住コンシェルジュ
☎025-755-5444
https://ijuiju.jp/tokamachi/

定期的に移住者交流会などのイベントを開催している/新潟県十日町市
定期的に移住者交流会などのイベントを開催しているので、最初は知り合いがいなくても安心だ。

UIターン情報誌『I’m home! Tokamachi』/新潟県十日町市
UIターン情報誌『I’m home! Tokamachi』。市の移住定住サイトからデジタルブック版を閲覧可能。


「アートトリエンナーレ開催中です!」企画政策課 大嶋美香さん

 

文/はっさく堂 写真提供/会田法行さん、十日町市

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  • 会田法行さんと蓮池ももさん/新潟県十日町市
  • コーヒーとタープでは自家焙煎した東ティモールの有機豆を使用/新潟県十日町市
  • 管理棟の2階。窓が大きく、刈羽黒姫山や遠く弥彦山まで見渡すことができる/新潟県十日町市
  • 会田さんが文、ももさんが絵を描いた絵本『おにがくる』(めくるむ)
  • ももさんが初出展した2022年の「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」の様子/新潟県十日町市
  • 収穫した稲を天日干しにする「稲架(はざ)掛け」の様子/新潟県十日町市
  • 十日町には3つのスキー場がある。息子のあおくんがスキーにハマったので、会田さんは30年ぶりにスキーを再開/新潟県十日町市
  • マ・ヤンソン / MADアーキテクツ「Tunnel of Light」Photo by Nakamura Osamu(大地の芸 術祭作品)
  • 定期的に移住者交流会などのイベントを開催している/新潟県十日町市
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