現役時代の趣味はレコード収集。定年退職を機に移住した先は牛小屋付き。小屋をスタジオに改装すると、今度は自分で歌いたくなった。仲間が集まってバンドが始まり、さまざまなグループを呼んでコンサートを開き、音楽を通じて地域の輪が広がる。
掲載:2024年10月号
青森県十和田市(とわだし)
青森県南部地方の内陸部に位置し、市西部には八甲田山や十和田湖、奥入瀬渓流などがある。写真は奥入瀬渓流にかかる銚子大滝。年平均気温9.8℃、人口約5万8000人。米、野菜、畜産が盛んで、ニンニク生産量は全国一。東京駅からJR東北新幹線で八戸駅まで約2時間50分、八戸駅から十和田市中央までバスで約1時間。
定年退職を機に移住。牛小屋をスタジオに改装
牛小屋音楽会のバンド仲間たちと。左から2番目が坂本さん。
「今週の日曜日は市内の自治会の納涼祭、先週はお隣の六戸町の道の駅からお呼びがかかりました。60歳まで人前で歌ったことはなかったんですが、定年退職したおっさんたちが集まって立ち上げた〝牛小屋音楽会〞は地元のテレビ局に取材されるなどして話題になって、場数を踏むうちにレパートリーも増やしていったんです」
と言う坂本雅利さん(73歳)は2012年に妻の淑子さん( 72 歳)とともに神奈川県松田町から十和田市に移住。以後、地域の仲間とともに音楽バンド活動を行っている。
現役時代、雅利さんは片道2時間かけて都内に通勤、スーパーマーケットの管理職として多忙な日々を送った。定年退職後はのんびり過ごそうと、生まれ育った青森県や岩手県に移住先を探し、小学校6年生から高校まで過ごした十和田市で物件に出合った。
「2人で住むのに手ごろな住宅だったんですが、牛小屋が付いていて。『どうにもならないからやめよう』と思ったら、妻には『宝の山』に見えたようで」
長さ30mほどもある牛小屋を、思い切ってコンサートもできるスタジオにリフォームした。雅利さんの約3万枚におよぶレコードコレクションや、小学校教師をしていた淑子さんのピアノはここに収めた。
「コレクションは昭和30年から90年くらいまで歌謡曲、民謡からジャズ、クラシック、ラテン……。物心ついたころから生きてるあいだ、耳に入ってきたいろんな音楽を全部収納しようと集めたものです」
淑子さんは地域のお年寄りから南京玉すだれの芸を継承。
牛小屋でのコンサートには最大230人集まったことも。
バンド仲間は40~70代。懐かしい選曲で人気上昇
牛小屋のリフォームと同時に、これまで何度も聴いてきたレコードの曲を、自分たちで演奏してみようと思った。そこでバンドをしていた昔の同級生に声をかけてスタートしたのが「牛小屋音楽会」。また、声楽、フラダンス、マンドリンクラブ、民謡など、市内外からさまざまなジャンルのグループを牛小屋に呼んでコンサートを開いた。
「知り合いのいない地域に移住しましたが、音楽会のおかげで地域からたくさんの方が集まってくれるようになりました」
音楽仲間の輪も広がってバンドのメンバーは現在6人。
「よそのギタリストが来たり、バンドらしく入れ替わりもあって。いまのメンバーは40代から70代まで、半分が仕事を持つ人です。音楽が好きってだけで年齢関係なく、お互いに〝さん〞づけで呼び合って。この年で新しい友達ができるのも珍しいでしょう」
老人クラブに呼ばれることもあり、選曲は60代以上が知っている昭和の歌が多い。
「橋幸夫、舟木一夫なんて、40代のメンバーは聴いたことないと思うけど、『いやあ、いい曲ですね』なんて合わせてくれるのは大したもんだなって」
定年退職して13年。四季の移ろいを楽しみながら元気に過ごせるのは十和田市に来たからこそと坂本さんは言う。
「音楽だけでなくいろいろなところに興味を持って動く人が多いです。女性は必ず1人ではなく軽自動車に3人、4人乗ってきます。この土地には人生を楽しむ余裕があるんですよ」
縦に長い牛小屋を改装。思い切った発想で移住生活が豊かになった。
レコードコレクションを整理するのは冬の間の楽しみ。
音楽&バンド活動の魅力は?
「人には思い出と一緒に歌があります」と坂本さん。
「やりたかった表現をいま実現しなきゃ。俺にはできるんだ」と感じるんですよ。何度やってもうまくいかない
けれど、逃げないで続けて、ぱっと決まったときの感覚もまたいいですね。そして若いころから自分を育ててくれた曲を、もう一度感謝を込めて見つめ直す。演奏していると昔を思い出したりして、タイムマシンです。
十和田市の移住の問い合わせ
碁盤の目に整備された美しいまち。利用料無料のお試し住宅も!
十和田市現代美術館を拠点としたアートのまちとしても知られる十和田市。中心市街は碁盤の目に整備されており、田舎すぎず、都会すぎない “ちょうどいい”環境が整う。市では移住を希望する人の「十和田暮らしを体験してみたい」というニーズに応えるために「移住お試し住宅」も開設。移住者の住宅取得には最大150万円の補助もあり。
お問い合わせ:政策財政課人口減少・定住自立圏係
☎0176-51-6712
「日々コレ十和田ナリ」https://towada-iju.com
「移住お試し住宅」は利用料無料、2泊3日から9泊10日まで利用可能。
サクラの名所としても知られる官庁街通り。
「田舎すぎず都会すぎず、ちょうどいいまちです。ぜひ遊びに来てください!」
十和田市移住コンシェルジュ 渡邊ゆうみさん
文/新田穂高 写真提供/坂本雅利さん、十和田市
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