いよいよ棟上げを目前に控えた和田邸である。
仮組みした小屋組を解体して、柱を建て、改めて棟上げするのだ。
しかしその前に急きょ、先に大引を入れることに。その理由とは……。
柱は捨てられていた間伐材
ようやく仮小屋組を完成させた和田邸。しかし記念写真もそこそこに解体を始めることにした。なぜならあくまで「仮組み」だからである。
阪口「これ、バラすのもったいないよね。あそこのクレーン借りてきて吊り上げられないかな」
そう言って阪口が指さしたのは隣の鉄筋屋の橋形クレーンである。
中山「いいねー! ナイスアイデアだよ!」
和田「無理だから」
中山「じゃあやっぱり竪穴式……」
和田「それも無理だから!」
仕方なく解体作業を始める一同であった。
次の作業は柱の刻みである。柱材は、どうやら近所に捨て置かれている間伐材らしく、一同総出で運び出すことになった。近所の空き地へ行ってみると、確かにスギの丸太が大量に転がっていた。
阪口「これが柱材ですか」
和田「いらないから持ってけって言われててさ」
水野「要するに捨ててあるのね」
重いのを苦労して和田家に運び込んだら皮むきとカンナがけだ。ピーリングナイフという丸太の皮をむくための専用ナイフを使うと面白いようにスギ皮がむける。しかし、そこで担当・水野の悲鳴が。
水野「樹皮の下にあるこの無数の気持ち悪いスジは何!?」
中山「調べてみたらカミキリムシやキクイムシの幼虫がはった跡らしいです」
カミキリムシやキクイムシの多くは春に皮付きのスギやヒノキの伐木に産卵するため、木を幼虫が食い荒らす。しかし表面だけで芯は問題ないらしい。というわけで、曲面カンナで気持ち悪い木肌を削り落としていった。すると「でっかい鉛筆」みたいな丸太の柱材がいくつもできあがった。これに墨を打ってホゾ加工をすれば晴れて刻み作業は終了である。
和田「次回までに刻みは終わらせておくから棟上げよろしく!」
阪口「いよいよ、あのでっかい丸太を吊り上げるのか。大丈夫かな」
和田「みなさん安全第一でお願いしますよ!」
一同「オマエが言うな!」
ツッコミを入れつつも、一抹の不安を胸に一同解散となった。
そしてひと月後……。
当然、棟上げするものと心構えをして和田邸に行ってみると、なんだか様子が変である。必要な準備が全然できてないのだ。出てきた和田が、いつものように元気いっぱいの声を上げた。
和田「今日は大引やるから、よろしく!」
阪口「あれ? 棟上げしないの?」
和田「柱の刻みが終わらなかったから、今回はナシ!」
一同「な、なんじゃそりゃあ?」
和田「ほかの仕事が忙しくて、建築作業に手が回らなくてさ」
中山「ほかの仕事ってなんだよ」
和田「いやあの……。某誌とか、某誌とか」
一同「ふ・ざ・け・ん・な!」
束石も庭のゴミから拾う
気を取り直して「大引」である。
大引とは床を支える角材のことで、土台と同じレベルに910㎜間隔で設置して、土台に刻んだ受けと床束(ゆかづか)で支える。
ベタ基礎が普通の現代住宅では、コンクリの上に金属製または樹脂製の床束を立てて接着剤などで固定するんだが、布基礎(ぬのぎそ)で土間コンクリを流し込んでいない和田邸では地面に直接、束石(つかいし)を置いて床束を支えることになる。そこで和田が「用意した」という束石を見てみると……。
阪口「用意したっていうかさ、そこ(敷地の隅っこ)に捨ててあった石じゃん」
水野「これを地面に敷いて束を立てるわけ?(失笑)」
和田「いいの! どうせ見えなくなるんだから」
中山「面倒くさいなあ。床束なんて安いよ。1個300円くらいで売ってるよ」
和田「全部で50個だから1万5000円もするじゃん! 節約節約!」
阪口「いいよ。新築祝いに買ってやるよ」
和田「ダメ! 安く上げるの!」
一同「はーい……」
せっかくつくった大引が入らない
まずは大引の継ぎ手の加工である。阪口が墨付けしたホゾを中山が加工していくんだが、ここで「丸ノコの切り込み作戦」が威力を発揮。寸法どおりかつ迅速に「アリ継ぎ」を加工していく中山に感嘆の声を上げる和田であった。
和田「うまくできてるねえ。すごいじゃん」
中山「おっほっほ!」(←ご満悦)
そして和田が指定した寸法3610㎜に仕上がった大引き13本をはめ込んでいった。そしたら案の定と言うべきか……、入らないのだ。
なんで入らないのか。調べてみたら土台全体がゆがんでいることが判明した。土台がピッタリ長方形でないために、大引の長さが1本ずつ違うのだ。
阪口「つまり大引の寸法が、それぞれ異なるにもかかわらず、和田がサンプルとして1本だけ測った長さで、全部つくってしまったというわけだね」
一同の非難の視線を一身に受ける和田であった。
和田「わかった! じゃあ測り直して切るってことで! OK!」
中山「……OKじゃねえよ」
阪口「オマエが3610㎜って言ったんだろ」
和田「……天気がいいから土台が縮んだんじゃないの?」
一同「んなわけねーだろ!(怒)」
仕方なく中山と阪口、そして和田の友人で有機農家を営む柴田さんが大引の再加工をする。その間に和田はせっせと柱のホゾの加工である。
中山「しかしチェーンソーでホゾをつくるってのは新しい試みだよね」
和田「丸太なので丸ノコで加工するのはちょっと無理なんだよね。でも、チェーンソーだとものすごく早くできるんだよ。ただ精度がイマイチでさ、一発じゃまず入らない」
一同「ダメじゃん、それ!(失笑)」
和田「まあマテ。そのためにちゃんとつくってあるの。ホラ!」
和田が取り出したのは「ジグ」である。ジグとは型枠のようなもので、ホゾ穴や継ぎ手と同じサイズの切り欠きを合板に加工しておき、ピッタリはまれば規定のサイズだとわかるというスグレモノ。
中山「おー! これは便利だ。ていうか、なんで今までつくらなかったのか不思議なくらい」
和田「これがあれば、いざ棟上げのときになって、ホゾの寸法が合わずに入らないということがないのだよ」
自信満々の和田は、さっそくチェーンソーで加工したホゾをジグに当ててみる。当然はまらない。
和田「こういうときはグラインダーで微調整!」
ブイーンと削って再チャレンジ。しかしはまらない。またグラインダーで削る。やはりはまらない。また削る……。
中山「なんかデジャヴのようだな」
床が鳴る忍者屋敷!?
さて、ようやく大引の再加工が終わり、土台にはめ込んだら、次は問題の床束である。前述のとおり、捨ててあった大きめの石を拾ってきて床下に据え付けるだけなので、非常にバランスが悪い。しかも余った基礎コンクリがもったいなかったのか、和田が適当に流し込んだのがアチコチに硬化しておりデコボコ。砂利と砂で適度にならして束石を設置するしかないんだが非常に面倒である。
中山「これさ、そのうち地面が締まってきたら絶対、束が大引にぶら下がるよね」
水野「束が地面から浮いちゃうってこと?」
阪口「そうそう。床束ってのは、大引と地面をくっつける意味もあるからねえ」
水野「そうなると、どうなるの?」
阪口「床鳴りの原因になります」
和田「大丈夫! 床が鳴ったって死にやしないから。格好いいじゃん、床が鳴る家! 忍者屋敷みたいで!」
阪口「いっそのこと忍者屋敷にしちゃったら?」
水野「いいですねー。床の間の裏側に隠し部屋があったりして」
中山「トイレに入ったら落とし穴で、肥溜めにドボーン!とか」
和田「……無理だから!」
次回、今度こそ棟上げだ!
文/中山茂大 写真/阪口 克 イラスト/和田義弥
第1回 基礎工事
第2回 墨付け、刻み
第3回 柱、梁、桁の刻み
第5回 棟上げ
第6回 棟上げ
第7回 棟上げ
第8回 足場組み、家起こし
第9回 屋根
第10回 屋根材張り&プロによる中間チェック
人力社
ライター中山とカメラマン阪口、 ライター和田の旅とDIYを得意とする3人組トリオ。「人力山荘」シリーズでは中山の母屋リフォーム、中山のアネックス新築DIY、和田の自宅新築DIYを連載。阪口も自宅をDIYで新築している。
人力社HP➡www.jinriki.net
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