若き日の過ちから学んだこと
ソローの理想と現実のギャップ
いつか田舎暮らしをと願うアナタ。
ヘンリー・D・ソロー著『森の生活』を読んだことがあるだろうか。あるいは。まだ読んでいないがその本は知っている、だろうか。
20代終わり、僕は『森の生活に』心を縛られた。今こうして書いている自分の精神の原型はソローの本にある、僕の人生を決定づけたのは森の中で2年余り自給自足で暮らしたヘンリー・ソローかもしれない。
思えばあれも若さゆえの勇み足だった。長野に山を買った。名目は1000坪だが、白樺が生い茂る急斜面。水は山からの湧き水。そこに手製の小屋を建てた。30分歩くと県道。松本方面へのバスに乗って仕事に向かう……。“森の生活”をイメージした。
今なら分かる。
若い勢いだけの行動だったなと。
電気なし、熊が出てもおかしくない山中に妻と就学前の子ふたりを置いて仕事に出て行くなんて……。
山小屋での暮らしは断念。でもいつか田舎暮らしを。ニワトリを飼い、野菜や果物を作って生きるという望みは捨てなかった。
最初の田舎暮らしは33歳、次は39歳。通算45年を僕は土に接しながら暮らしてきた。田舎暮らしというのはほぼ自動的に人体の老化を遅らせ、体力向上に働く。会社で終日パソコンに向かう仕事を1とするなら、「何でも屋」になって生活万般、自助に励む田舎暮らしは10のエネルギーを要する。よって骨や筋肉はおのずと強くなる。されど、それに任せておくと全身のバランスに偏りが生じる。僕が毎朝ラニングし、腹筋や懸垂とともに入念にストレッチをするのは腰や膝や足首の動きを滑らかにしておくためである。
そこでアナタへのアドバイス。田舎暮らしという夢が生じたら物件情報に目を凝らすと同時に運動習慣を定着させること。
また読書。
田舎での新生活を実現した先輩たちが書いたものを数多く読むこと。これを実行しておけば、夢が実現した後に待ち受けている古い家屋の補修だとか、水回りの整備とか、さまざまな肉体労働を乗り切れる。また野菜や果物の栽培、その保存法、ニワトリや山羊の飼育など、不明なことが発生した時、先輩たちが記した記録は役に立つ。
GWを過ぎた頃の風景である。正月の今、僕はまず立春を待ち望む。次は桜の開花。そして緑あふれる五月の空に期待を寄せる。
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この記事を書いた人
中村顕治
【なかむら・けんじ】1947年山口県祝島(いわいじま、上関町・かみのせきちょう)生まれ。医学雑誌編集者として出版社に勤務しながら、31歳で茨城県取手市(とりでし)に築50年の農家跡を購入して最初の田舎暮らしを始める。その7年後(1984年)の38歳のとき、現在地(千葉県八街市・やちまたし)に50a(50アール、5000㎡)の土地と新築同様の家屋を入手して移住。往復4時間という長距離通勤を1年半続けたのちに会社を退職して農家になる。現在は有機無農薬で栽培した野菜の宅配が主で、放し飼いしている鶏の卵も扱う。太陽光発電で電力の自給にも取り組む。
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