畑とニワトリ
梅の花とミツバチ
5日ぶりの快晴の朝。また明日の夕刻から雨か雪という予報だが、この久しぶりの豊かな光を、僕もニワトリも、太陽光発電のパネルも梅の花も気分よく楽しんでいる。15本の梅が一斉に花開く。桜に劣らぬ美しい風景である。
梅は昨年ほぼ収穫皆無だった。気候変動。開花期とミツバチの活動がズレたせいだと言われている。ミツバチの助けを借りて授粉するのは梅の他にイチゴ、プラム、アンズ、梨と様々ある。甘い蜜を求めてミツバチが花の上を歩き回る。その活動が授粉を促す。
ミツバチの助けを借りて実りの時を迎える植物。動物としての人間とはかなりの違いがある。授粉の際の梅の花のココロ、快感か安堵か。それは僕にも分からない。人間が秘め事において求めるのは快感であり、いっときの精神の解放であろう。社会生活とは別なゾーンに存在する古来のDNAに刻み込まれた本能の営み。社会の規範や日常生活における様々なルールと対極にある行動。あえて言うなら、その行為は時に滑稽である。でも楽しく幼稚でもある。裸足で野山を行く、手に槍を持つ古代のヒトの姿、それを連想させる原始的なもの。
性的欲求と精神性
男女は交わるために着ているものを全て脱ぐが、精神や気持ちにおいても同様、外の社会から人為的に纏わされているいっさいを脱ぎ捨て、裸の心になって快感の時を共有する(……のが理想)。
むかし読んだ本の中に「離婚の理由で性格の不一致だとされる例が少なくないが、現実には性の不一致であることが多い……」そんな記述があった。僕もこれには同意する。生きる価値観や趣味、その一致も二人には重要。でもそれに劣らず性的欲求の度合い、そこから得る快感の深さ。これが男女イーブンに近ければ近いほどうまくいき、シアワセは長続きする……ように僕は思う。
高騰する野菜
ニワトリとの攻防
前年同期に比べ白菜は4倍以上、キャベツは3倍近く。この高値は3月いっぱい続く。農水省の発表を受けてメディアはそう伝えている。昨秋遅くに苗を植えた我がキャベツ。不運にも、わずかな隙間からニワトリが侵入し齧られた。「葉ものを食べたい」はニワトリの本能。その葉ものが1年で底をつく今の時期、ニワトリたちは必死になってビニールハウスへの侵入を試みるのだ。
ケージ飼いのニワトリ以上に狭い空間で苦しんでいる、それは豚である。先ごろ朝日新聞が世界的潮流となっているアニマルウェルフェア(動物福祉)を主題とする連載をした。豚は妊娠から分娩直前までの114日、分娩から離乳までの20日余り、ストールと呼ばれる金属製の檻に入れられる。その幅60センチ。ほとんど身動きできない。
子豚たちをも過酷な運命が待つ。生まれてすぐ無麻酔で尾を切断され、オスは肉に臭味が出ないよう去勢される。生後20日余りで移される飼育舎のスペースは1頭当たり1平方メートル……。なんという狭さか。僕は胸が痛む。しかし、朝日の連載後半では、豚たちに広く快適な空間を提供する業者も存在することが伝えられ、僕はホッと喜びのため息をついた。
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この記事を書いた人
中村顕治
【なかむら・けんじ】1947年山口県祝島(いわいじま、上関町・かみのせきちょう)生まれ。医学雑誌編集者として出版社に勤務しながら、31歳で茨城県取手市(とりでし)に築50年の農家跡を購入して最初の田舎暮らしを始める。その7年後(1984年)の38歳のとき、現在地(千葉県八街市・やちまたし)に50a(50アール、5000㎡)の土地と新築同様の家屋を入手して移住。往復4時間という長距離通勤を1年半続けたのちに会社を退職して農家になる。現在は有機無農薬で栽培した野菜の宅配が主で、放し飼いしている鶏の卵も扱う。太陽光発電で電力の自給にも取り組む。
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