「待たせたな!」ビニールハウスの奮闘劇。
それでもツルは伸びる
待たせたな・・・今日はカボチャのハウスに朝一番で向かった。苗を植えたのは3月末。汚れたビニールを強引に組み合わせて冷気を防いでやった。本当はちゃんと光の入るきれいな透明ビニールで囲ってやりたかったが、まあカボチャだから、これでよし・・・。ええっ、オレたちだけ差別扱いかよ・・・カボチャが聞いたら気を悪くするような勝手な判断で仕立てたハウスではあったが、定植から45日、ツルは2メートルまで伸びた。
今日はそれを摘芯し、鞍築き(根周りの土を高く盛る)をやるのだ。ただし、1か月後、このハウスだけでは収まらない。ひとつ手を打つ。隣接するのは順次収穫中のジャガイモのハウスだ。この方向にカボチャのツルを誘導する。こうすると、面積の拡大だけでなく、梅雨のさなかに開花したものへの授粉の手間も省ける。
作業しながらカボチャのツルの伸長スピード、それとジャガイモの収穫テンポがうまく合致するか頭の中で時間計算をする。ジャガイモの収穫完了は6月に入る頃だからうまくいきそうだな・・・企画立案と現場作業員、僕はそれを兼ねている。失敗したら誰かに叱責されるという「強迫観念」はない。自由な発想とタフな心身。それが百姓暮らしの土台。これさえあればなんとかなる。
2000万円の「愛の家」と、汗と工夫の「わが家」
今日の朝刊からすべり出た折り込みチラシ。その中の1枚。キャッチフレーズは「新発売“愛の家”」だった。土地35坪、二階建ての建物は24坪。金額は1998万円。一見するなり、ほほおっと僕は小さく驚きの声をあげた。駅から徒歩圏内だし、生活インフラも充実している。我が家は駅から6キロ、最短のスーパーでも3キロ、比較にならないベターな生活環境ではあるが、1998万円はすごすぎる・・・。
甘い言葉がそこにある。「今の家賃と比べてください。ローンは月々37484円」。なるほど、賃貸なら2部屋程度のアパートでも5万円はする。魅力的な数字だ。ただし、小さな文字の追加でこうある。35年ローンの場合です・・・。こりゃ長いなあ。40歳で買ったとして支払い完了は75歳だ。現在高さ15メートル、胴回り2メートルに達する桜の苗木を植えた時、僕は43歳だった。ローン返済と同じ35年が経過。はるかな歳月であった
トマトがらみの作業に追われる。4つのハウスで育てているトマト。これでもかというくらい脇芽を出し、たちまち伸びる。この上の写真。ハウスの長さは15メートル。例によって曲がったりサイズがばらばらだったりするパイプ100本を辛抱強く組み合わせて完成させた。これがもしチームでの作業だと意見の相違があるだろう。仕上がり具合を評価する、される、その関係もあるだろう。単独仕事にはそれがない。もちろん苦労はある。パイプ同士の連結のために脚立を移動する、それだけでも何十回だったのだ。だが、自分が思うままのペース、思いつきでの勝手し放題。そんな流儀が僕の性には合う。
「今やる。すぐやる。好きなようにやる。」森永卓郎氏の言葉から「行動力」の真髄を学ぶ
「やらない言い訳」になる準備
今やる。すぐやる。好きなようにやる。(朝日新聞「一語一会」)
経済アナリスト森永卓郎さんが、息子の康平さんに向けた言葉だという。「僕は気が弱くて、岐路に立つと色々考えてしまう。でも事前の準備や調査をしすぎると、結局、やらないという選択の言い訳作りになるんですね」・・・康平さんは生前の父の言葉をたどりながら、このように語っている。
森永さん親子のやり取りは僕の日常にそのまま重なる。慎重な事前の調査準備とは無縁、何事も雑把な僕である。この上のトマトハウスの場合も、ここにハウスを作ろうと決めた瞬間、もうあちこちからパイプを集め始めていた。暗くなってもやめたくなくて、太陽光発電からライトを引っ張り夜間作業までやった。今やる、すぐやる、好きなようにやる。卓郎さんの「やってみないと本当のことは分からない・・・」それは万事共通の真実である。
世の中は三日見ぬ間の脇芽かな・・・そんな駄洒落も出るくらい脇芽の伸びは早い。タイミングを逃し、もしゃもしゃになるという失敗も時には犯す。でもって今日、僕はわき目もふらず集中して脇芽をちぎり取り、同時に、日毎に伸びる本枝を紐で縛っている。トマトはなんたって雨が嫌い。乾燥と低温にはかなり強い。僕の好きな食べ方は、やや厚目にスライス、クリームチーズを載せ、電子レンジでチン、塩コショウを振りかけるやり方だ。ライ麦パンとの組み合わせ、それが朝の光と相まって幸せをもたらす。
摘果の「無念」から生まれる「未来の喜び」
プラムの摘果に取り掛かる。去年、梅とともに収穫皆無だった。それが逆に木に栄養分を蓄積させたということか、今年は驚くほどの実なりである。短い枝1本に6つ7つの実。今日はそれを半分ちぎり落とす。正直、無念である。これが全部、立派な実になってくれたらと思う。だがそうはいかない。そのままでは貧弱な実になる。くっつき合った実は梅雨の到来とともに果皮に傷みが生じる。
せっかくの実を摘み取るのは無念であるが、そろそろ梅雨明けかという時期の収穫に思いを寄せて胸ふくらむものがある。収穫期、仕事の合間、3時のティータイムにこれをかぶりつく。写真のプラムは果皮が黄色。糖度が高く、かつ果汁がいっぱい。夏の疲れを癒やすには申し分ない果物だ。
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この記事を書いた人
中村顕治
【なかむら・けんじ】1947年山口県祝島(いわいじま、上関町・かみのせきちょう)生まれ。医学雑誌編集者として出版社に勤務しながら、31歳で茨城県取手市(とりでし)に築50年の農家跡を購入して最初の田舎暮らしを始める。その7年後(1984年)の38歳のとき、現在地(千葉県八街市・やちまたし)に50a(50アール、5000㎡)の土地と新築同様の家屋を入手して移住。往復4時間という長距離通勤を1年半続けたのちに会社を退職して農家になる。現在は有機無農薬で栽培した野菜の宅配が主で、放し飼いしている鶏の卵も扱う。太陽光発電で電力の自給にも取り組む。
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