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田舎暮らしの本 8月号

最新号のご案内

田舎暮らしの本 8月号

7月3日(木)
890円(税込)

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北村有起哉さんインタビュー「俳優はご縁を大切に、『またご一緒できたら』と願うことの繰り返し」|映画『逆火』

NHK連続テレビ小説『おむすび』での娘思いの父親、ドラマ『いつか、ヒーロー』での闇を抱えた巨大企業グループの会長と、どんな作品のどんな役柄にも見どころを持たせ、作品の質を底上げする凄腕俳優の北村有起哉さん。新たな主演映画『逆火』が公開されます。映画のこと、子育てのこと、田舎暮らしへの思いを聞きました。

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掲載:2025年8月号

田舎暮らしの本のインタビューを受ける北村有起哉さん
きたむら・ゆきや●1974年生まれ、東京都出身。98年に『カンゾー先生』で映画デビュー。最近の主な出演作は『舞妓さんちのまかないさん』(Netflix)、『完全無罪』(WOWOW)、NHK連続テレビ小説『おむすび』、『いつか、ヒーロー』(テレビ朝日系)などのテレビドラマ、『ヤクザと家族 The Family』『すばらしき世界』『前科者』『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』『キリエのうた』『愛にイナズマ』などの映画がある。

 

悲劇のヒロインか? 嘘つきな犯罪者か?

 「内田監督とご一緒するのは3度目。原案も手がけた作品に主演というお話で、とてもうれしくて。俳優はご縁を大切に、〝またご一緒できたら〞と願うことの繰り返しです。だからこそ、嫌いじゃないんだな僕のことは、と(笑)」

 北村有起哉さんは、映画『逆火』のオファーを受けたときをそう振り返る。『ミッドナイトスワン』の内田英治監督による衝撃作。貧困にあえいだヤングケアラーがその体験を小説化。ARISAと名乗って注目を浴び、事業を起こして成功を収め、小説の映画化が動くなかである疑惑が。感動の実話は嘘? 彼女は悲劇のヒロインではなく犯罪者!?

 北村さんは、助監督の野島を演じた。

 「じつはよくある話とも言えそうです。それが内田監督の手にかかると、ホラーのようで、ミステリーのよう。先が気になり、テレビならチャンネルを変えられない感じで」

 映画監督を目指す野島は、社会派で話題作を前に意気込む。通信社に勤めていた彼は、ARISAの周辺取材を始める。

 「一流大学を出て一流企業に勤めたけど、いろいろあったんでしょう。根が真面目過ぎて、ため込む気質があったかも。それで好きだった映画の世界に入って。次回作が期待される監督の下、撮影前から注目される作品の助監督ですから。失敗できない、そんなプレッシャーもあったでしょう。だからこそ事実が明らかになるうち、ジャーナリズム魂に火がつく。ああ、こんな人はいそうだなと」

 それでいて、「こんな人がいてくれたほうがいい」とも。

 「理想論と正論って別でしょうけど、野島は理想論が第一にある。世の中は大抵が正論で動きますが、理想論をちゃんと持つ人がいると安心します。なかでも芸術家はどんな状況でも強い意志を持つ、不撓不屈でないと。なんのために表現を?ということになる気がして」

 けれど野島は、だからこそ〝中年の危機〞のような状況にもある。なかなか監督デビューできず、家庭には不穏な空気が漂う。そうして、ARISAの周辺取材にずぶずぶとハマっていく。

 「野島には青臭さやピュアさもあるから。奥さんも大変です、娘もあんなになって。なぜあそこまで溝ができたのか? 想像しましたけども、人間的にこれはダメだというヒントはたくさんありました」

 高校生の娘は両親に心を閉ざして新宿歌舞伎町、いわゆる〝トー横通い〞の挙句、怪しいバイトに手を染めようとする。

 「職場では仕事ができる助監督ですけど、家では結構な亭主関白。妻がお代わりの缶ビールを持ってきてくれても無視して仕事をしている。それが普通で、大切なことをすっぽかしてるなと」

 確かに「そこは娘の目を見ながら言わないと!」と、映画を観ながらも野島へのツッコミが止まらない。「そう、バランスの悪い人で」と北村さん。そんな役をさらりと、でも緻密に確実に構築する。

 「撮影現場での助監督なりのリズム、立ち居振る舞いのイメージはなんとなくありました。演技としてやるのは新鮮でしたけど」

 いやそれどころか! 劇中の北村さんは映画の撮影現場にいる助監督そのもの。「こんな人を現場で見た!」と何度も思うほど。実際、かなり少人数だったスタッフの中、俳優とわからないほど溶け込んでいたそう。

 「彼は〝できる助監督〞、です。同時にいくつもの問題を処理する能力があって、みんなに頼られます。でもなんでもやってしまってはその人のためにならないから、〝そんなの自分で考えな〞と突き放したりもする。それでいて監督との信頼関係もしっかりしている――。そんなイメージ像でした」

田舎暮らしの本のインタビューを受ける北村有起哉さん
ジャケット¥36,300/クラウデッド クローゼット(クラウデッド クローゼット越谷レイクタウン店 ☎048-930-7224)
シャツ¥8,690/ユニオンステーション(メンズビギ ☎03-5428-0370)

 

僕は、言われたらなんでもやります

 助監督としての異様な説得力には、確かな裏付けがあった。そして、そんな野島が支える大沢監督役は、『キングオブコント』で優勝経験もあるお笑いコンビ「かもめんたる」の岩崎う大さん。劇団を旗揚げして作・演出を手がける多才な人なのだが、それにしても映画監督として驚くほどにリアル。ARISAとしてふてぶてしく画面の中に存在する円井わんを含め、配役の妙にうなる。

 「内田監督は、キャスティングした時点で基本はお任せのようで。僕もそうでした。野島が草原をぼ〜っと漂うシーンがあって。台本に書かれていませんでしたが突然、〝そっちに行って、なんかやってください〞と。〝なんか!?〞と思ったけど(笑)。撮影しながらイメージが膨らんだのかとうれしくなりました。それに僕は、言われたらなんでもやりますから!」

 映画はヤングケアラーだけでなく、さまざまな社会問題に触れる。現実に起きた衝撃的な事件を思い出させたりもして、あれこれ考えないわけにはいかない。

 「例えば絵画でも音楽でも、芸術かビジネスか?というのも永遠のテーマですよね。ほかに、映画界の現状も描かれます。制作中断の危機に、女手ひとつで子どもを育てるカメラマンや〝奨学金が返せない〞と嘆く若手と、スタッフが直面する厳しさを憂いてもいる。好きなことをやりたいけど、それがいかに難しいことかと」

 そうしてできた映画を、まるで観客のように楽しんだ。

 「自分がずっと出てくるので、普通なら〝目が細いなあ〞なんて余計なことを考えちゃうんだけど(笑)。野島が新たな証言を得るごとに周囲の水かさが増す圧迫感、もやもやがあって。底なし沼にはまるよう。こういう展開だった!と思い出しながら面白くて。しかも野島の眼鏡は、僕が普段かけているもの。そんなの初めてで、〝これ俺じゃん〞と(笑)。役との境界線、カーテンみたいなものが限りなく薄かった。そんな違和感が自分としては新鮮でした」

 

子育ての“手伝い”をしているようなもの

 「野島は妻に娘のことを押し付け、だいぶほったらかしだったんでしょう。でもお金も食べるものにも困らせてないし、お小遣いも渡している。だから、とたまに父親風を吹かせたりしてイラッとさせます。女の子の精神的成長は早いでしょうから、気づかないうちに信頼が失われたのかも」

 一方で北村さんのSNSには、公園でブランコに乗ったり、釣り堀に行ったり、10歳と5歳の息子と全力で遊ぶ姿が時折登場する。

 「ウチの子はまだちっちゃくて。子育ての〝手伝い〞をしているくらいのものです(笑)。家を空けるのは圧倒的に僕ですから。できる限りやっているつもりですけど、だからこそ……なんでしょう。ゴールのない子育てというのは、これがなかなかね」

 奥さまは2002年、NHKの連続テレビ小説『さくら』でヒロインを務めた俳優の高野志穂さん。結婚して12年経つ今も、子どもを寝かしつけたあとに晩酌を楽しむ。

 「おしゃべりですね〜、二人とも。とにかく話題が尽きないです、子育てのこととかいろいろと。それでず〜っとしゃべって、もうこんな時間じゃん!ということになる、と」

 それでも子育てが大変なことに変わりはない。劇中で野島も、痛いほどにそれを味わう。

 「お母さんって本当に大変ですから。それでお互いに疲れていたりすると摩擦が起き、野島みたいに〝俺だってやってるじゃん〞と、絶対言っちゃいけない言葉が口をつくんですよ。すると〝いやいやいや、やってるうちに入らないから!〞と火に油を注ぐことになるので、それだけは言わないほうがいい――。子どもが生まれた後輩にそう言ったんです。経験者は語る、で(笑)。それなりに手伝いはしているつもりだから、つい小学1年生レベルで〝(口をとがらせ、子どものように)僕だってやってるもん!〞みたいな感情にとらわれてしまうんですけどね」

田舎暮らしの本のインタビューを受ける北村有起哉さん

 

演技にはいろいろと企み、その作業も楽しむ

 野島の〝中年の危機〞は他人事と思えず、その追い詰められようはこちらまで動揺するほど。けれど北村さん自身は父親として子育ての大変さを楽しみ、俳優としてもここ数年は出演作が途切れない。充実感でいっぱいなはず。

 「危機的状況……にあったとしても忘れちゃうんです。忘れるのは得意かも(笑)。仕事の条件というのはいろいろですが、なんでもよくて。監督が好きとか脚本が面白いとか、ひとつでも心惹かれるものがあればいい。すると変なこだわりや苦手意識はどうでもよくなる。そうマインドコントロールする感じです。ある劇場が取り壊されると聞き、じゃあやる!と決めたこともあります。それで、やると決めたら責任を持つ。途中でうじうじ言わず、どんどん楽しみを見つけて千秋楽まで突っ走ります」

 そのせいだろうか? どんな役でもいつでも、北村さんの演技だけで観る価値があると思わせる。

 「いろいろと企んでいる……というのはあるかも。その作業も好きです。何度も却下されてきましたが、全部をひっくるめて楽しんじゃう。もちろん今回も。この劇世界の中、ちょっとはみ出す?という、きわきわを行こうとするのも面白くて」

 その企みのセンスとそれを表現する精度、身体表現のツボの突き方を含め、俳優としての力は揺るぎない。

 「言われた通りにやっても、誰でもできるじゃん!と思うところはあるかも。自分の感性と感覚とオリジナリティ、いろいろな方とお仕事をさせていただいてブレンドされたものが、大げさに言えば唯一無二だとして。それを表現しないと!と思っています」

 そんな北村さんも、決して一足飛びに今に至るわけではない。でも今の彼に、「あの北村和夫の息子」という表現を用いる人は、ほぼいないだろう。

 「20代のころは舞台をず〜っとやって、叩き上げ感というのか度胸をつけ、基礎的な演技のやり方を身につけよう――。そんな未来予想図を描いていました。それでいつか、映画やテレビでも声をかけていただけるように次につなげていこうと思っていたんです」

 

広いところで犬を飼って、子どもを自然に触れさせたい

 「いつか朝ドラの父親役をやるような俳優に」、そんな夢も『おむすび』でかなう。北村さん演じた米田聖人(よねだまさと)は年齢を重ねて故郷の福岡、糸島に戻って農業を引き継ぐ。

 「田舎暮らし、とても興味があります。今は都内のマンション住まいなので、広いところで犬を飼いたいとか車のガレージがほしいとか。子どもたちを自然に触れさせたい思いもあります。子どもたちは虫が大好きで。今朝も、近所の知り合いからカブトムシの幼虫をもらえる?もらえない?と話していて。いつ、もらってくるの?って、都会生まれの都会育ちだとこうなるわな〜と(笑)」

 〝おしゃべりな夫婦〞のよもやま話で、「もし田舎暮らしをしたら?」という話題が上ることもあるそう。

 「妄想レベルですけど。親友が、コロナ禍で山梨に移住して。『もっと早くしておけばよかった』と言うくらいに満喫しているんです。でもね……。朝早く、ロケへ向かうために都内から車で下り車線を走っていると、上りに車がびっちり詰まっていて。それを見るたびに、毎日これは大変だな〜と思ってしまって」

 しばらくは、田舎暮らしは話のネタか。今は俳優業と子育てに全力を傾ける。

 「僕自身は父親とのコミュニケーションをあまり覚えていません。昭和の、団塊世代より上の年代で、無口な父親像というのは珍しくなかったですし。それで自分は非行に走ったりはしませんでしたが、今思えばお芝居の話とか、もっと聞きたいことがたくさんあった。なんで話さなかったのだろう? いなくなってしまうとこんなに寂しいのか……と。だから父親のことは大好きでしたが、それとは違うスタンスの父親像でありたい。この映画の野島と真逆? そうかもしれません。それで当たり前ですけど〝いってらっしゃい〞〝おかえりなさい〞とそういうところから、いちいちずっと話しかける。コミュニケーションを大切にしたいと、思っているんですよね」

 

『逆火』

(配給:KADOKAWA)

『逆火』/ⓒ2025「逆火」製作委員会
●原案・監督:内田英治 ●脚本:まなべゆきこ●出演:北村有起哉、円井わん、岩崎う大(かもめんたる)、大山真絵子、中心愛、片岡礼子 ほか ●7月11日(金)よりテアトル新宿ほか全国順次公開

ⓒ2025「逆火」製作委員会 https://movies.kadokawa.co.jp/gyakka/

 

文/浅見祥子 写真/菅原孝司(東京グラフィックデザイナーズ) ヘアメイク/上地可紗 スタイリスト/吉田幸弘

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