秀峰・鳥海山の麓のまちにUターンしてブドウ栽培を始めた豊島昂生さんは、就農10年目を迎えて念願のワイナリーを開業した。冬が来る前の剪定作業など雪国の苦労はあるが、周囲からの応援を受けながら、風土に根差したワインで地域を盛り上げたいと意気込む。
掲載:2025年10月号

秋田県由利本荘市 ゆりほんじょうし
秋田県南西部、日本海から鳥海山まで県内一の面積は神奈川県の約半分に匹敵する。人口約6万9500人、年平均気温12.0℃。稲作のほか山麓で育つ秋田由利牛も特産、日本酒の酒蔵は4つある。東京駅から秋田新幹線で秋田駅まで約3時間4 5分、秋田駅から羽後本荘駅までJR羽越本線で約45分。
若手就農者の挑戦は、地域に助けられながら
TOYOSHIMA FARM 豊島昂生さん
由利本荘市の内陸部、鳥海山麓の矢島地区出身の35歳。大学を卒業し大阪で働いた後Uターン。2016年にワイン用ブドウ栽培をスタートし、委託製造してジュースやワインを販売。昨年10月に醸造免許を取得してワイナリーを開業。今秋から本格的な自家醸造に乗り出す。写真/収穫時期、野鳥の食害を防ぐために活躍するかかしたちに囲まれて。
https://toyoshimafarm.com
豊島昂生さんは2014年、大阪での会社勤めを辞めて故郷に戻った。当時24歳。実家の稲作を手伝いながら鳥海山を望む田園の風景を見て思った。
「農業を継いで、この風景を残したい」
だが、米価が低迷を続ける当時、父親は息子に言った。
「米以外の新しいものを探せ」
たどり着いた答えがワインのブドウ栽培だ。
「新潟や山梨のワイナリーを訪ねると、ホテルや飲食店と協力して地域を盛り上げていたんです。農業というと生産者だけのイメージだったので、農業を超えた広がりは画期的に見えました」
こうして、ブドウ栽培だけでなくワイナリーも含めた、いわゆる六次産業化を目標にした豊島さんの挑戦が始まった。
栽培技術は県内・横手市の果樹試験場で研修。同時に栽培の本場、山梨県にも通って学んだ。試験場の圃場は生食用のブドウだったため、本来2年ある研修期間を1年で終え、自前の圃場での栽培を開始した。
ブドウ畑は車で10分ほど坂を上った標高200m超えの高台と、その後、標高500m近い花立高原にも確保して、現在、面積は合わせて2haほどになる。
「周囲は稲作地域ですが、多肥と過湿を嫌うブドウの栽培に休耕田は適しません。父にも協力してもらい畑地を探しました」
ブドウは苗木を植えたあと、初収穫まで3年。実用的収量を得るには5年かかるという。その間は国の農業次世代人材投資資金の支援(当時150万円/年×5年)を受けてしのいだ。資材や機械の準備には新規就農者向けで無利子の青年等就農資金などの制度をフルに活用した。
2haの畑でワイン用のブドウ8品種、計6000本を育てる。
ブドウは海外で一般的な「垣根仕立て」。豪雪に耐える工夫は北海道で学んだ。この風景が気に入っている。
豊島さんが生み出す特産品【由利本荘生まれのワインの特徴は?】
ブドウ畑のある矢島地区は平均気温が低く、昼夜の寒暖差は大きく、2mも雪が降る豪雪地帯。日照時間は短く雨量は多く、名産地とは真逆の条件。そこで豊島さんが目指すのは土地に根差した味わい。「冷涼地らしい『心地よい酸味』『フレッシュな果実味』『優しい渋み』を意識した『飲みやすいワイン』です」(豊島さん)。
収穫開始後は委託製造してジュースやワインを販売するが、順調に運んだわけではない。
「ブドウ栽培が難しい気象条件だと、あとになって痛感しました。植えたブドウを全滅させてしまった年もあります。このときはさすがに諦めかけました」
支えてくれたのは、市内をはじめ周囲の人たち。会員制のサポーターとして農園を支援する企業や団体は10件を超える。
「農作業に追われて営業や広報活動にかける時間はほとんどありません。それでも地域の皆さんが見守ってくれて、声をかけてくださる。本当にありがたいです」
自家醸造に向けては隣県の委託先のほか、長野県内のワイナリーにも通って技術を覚えた。昨年秋には醸造免許を取得。農協の元資材センターの建物をリフォームし、県内7番目になる念願のワイナリーを開いた。今年収穫するブドウから、いよいよ自家醸造がスタートする。
「11月にはヌーボー祭りも予定しています。矢島地区には古くからの酒蔵も2軒あり、いろいろな方と一緒になって地域を盛り上げていきたいです」
小学生の長男、保育園に通う長女と。家族は妻と両親、祖母を合わせて7人。
雪で枝が折れないよう本格的な積雪前に剪定を終わらせる。「鼻水を垂らしながら作業に追われます」。

ワイナリーは建物や設備のコストを最小限に抑え、農協・地銀・国の協調融資や出資、クラウドファンディングも活用して資金を捻出。
特産品を生み出すためのアドバイス
「地域の豊かな自然と食の魅力を生かした特産品づくりには、地域の優しさや応援の輪が欠かせません。人とのつながりを大切にしながら、新しいことに挑戦していれば、きっと手を貸してもらえます。田園風景は人が暮らし農業が営まれてこそ保たれていくものだと、誰もが感じていますから。特産品には、お互いに協力しながら地域を盛り上げる力があると思います」(豊島さん)
由利本荘市の魅力はここ!
- 日本海と鳥海山のアウトドアが楽しめる
- 魚や山菜がおいしい
- 米や秋田由利牛など豊かな農産物
- 酒蔵は市内全域に4軒。地酒がおいしい
- 気軽に入れる温泉がある
- 人が優しい
【由利本荘市移住支援情報】
山・川・海の自然にあふれ、のびのびと子育てしやすいまち
鳥海山、子吉川、日本海と美しい自然に囲まれ、四季を通じてさまざまなアクティビティを楽しめる由利本荘市。仕事や住まいの情報提供などワンストップで相談に対応しているほか、移住・就職学生支援金、定住促進奨励金、移住体験等交通費補助金、奨学金返還助成などの支援も行っている(要件あり)。
問い合わせ/移住支援課 ☎0184-24-6247
https://yurihonjo-teiju.jp
過去の移住就農体験ツアーでは「TOYOSHIMA FARM」の現地視察をアテンド。
移住に関するお悩みを専門の相談員がオンライン相談でサポート。
「充実した子育て支援もある由利本荘市。親子でのびのびと暮らしてみませんか?」
(市公認キャラクター 松皮カンナ/ⓒゆりほん娘プロモーション)
文/新田穂高 写真提供/豊島昂生さん、由利本荘市
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