掲載:2021年8月号
「合掌(がっしょう)造り集落」のある観光エリアとして知られる富山県南砺市の五箇山(ごかやま)地区へ移住してきた多賀野さん夫妻。2018年にゲストハウスを開業し、2020年8月には長男も誕生した。家族3人の生活をスタートしたばかりの多賀野さんが手に入れた暮らし。その風景を少しだけのぞかせてもらった。
富山県南砺市五箇山地区
富山県南西部に位置する南砺市五箇山。40の小さな集落が集まり、そのうち合掌造りの家が現存する「相倉(あいのくら)」と「菅沼(すがぬま)」は世界文化遺産に登録されている。国内外から多くの観光客が訪れる。東京から新高岡駅まで北陸新幹線で約2時間40分、新高岡駅からは世界遺産バスで上梨(かみなし)・皆葎(かいむくら)まで約1時間15分。
東日本大震災をきっかけに安心できる暮らしを選択
日本でも有数の豪雪地帯、南砺市五箇山地区。茅葺き屋根の家屋が点在するこの地区は小さな集落から成り立つ、静かな山里だ。千葉県出身の多賀野公太(たがのこうた)さん(39歳)・伽菜子(かなこ)さん(37歳)夫妻は、2011年に入籍し、6年前に五箇山に移住した。
「入籍して家を探しているときに、東日本大震災を経験しました。帰宅困難に陥ったことで、安心できる暮らしに重点を置きたいという考えになったんです。妻にプレゼンしまくって、3年がかりで納得してもらいました」と公太さんは笑う。
千葉のアウトドアショップに勤務する公太さんと、都内の建築金物メーカーに勤務していた伽菜子さんの共通の趣味はアウトドア。全国のいろいろな地域を旅してきたこともあり、土地そのものを楽しむことには自信があった。特に山遊びが大好きな2人が移住先として絞ったのは、北陸、東北、北海道。そのなかでも伽菜子さんの知り合いが多くいた富山県に縁を感じ、直感的に決めたという。
「五箇山を選んだのも、なんとなくピンときたから。便利な街での暮らしも考えましたが、それだと千葉とあまり変わらない風景だなって。頭であまり考えず、直感で五箇山がいいってなりました」と伽菜子さん。
知り合いの紹介で仕事、家、ゲストハウスを入手
移住後、まず1年限定という条件付きの古民家を借りて職探しを始めた公太さん。知り合いの紹介で、近所の宿泊施設に就職し、調理補助、接客、風呂掃除やベッドメイキングといったスキルを身につけた。
ある日、伽菜子さんのアルバイト先の主人から空き家があると聞いて見に行ったのが、今の家。持ち主と何度も交渉し「しっかり冬が越せたら売ってあげるよ」と言われ、2年がかりで手に入れることができた。
「元は民宿だったから2人で住むには大きすぎて……。自宅を使って何かしたいと思っていたので、ゲストハウスを開業することにしました」(公太さん)
改装は以前、公太さんが仕事を手伝っていた土建屋さんが引き受けてくれた。設計は伽菜子さんで、家族や仲間も参加。費用は借り入れと補助金を活用した。「一緒に壁塗りやタイル貼りをしたり、楽しかったです」。
こうしてゲストハウス「タカズーリ喜多」をオープン。「人と情報が行き交う交差点のような場」を目指して運営し、今年で4年目を迎える。
「都市部の生活は何でもお金で買えたけど、今は、お金とは距離のある暮らし。食べ物は畑から穫れるし、ないものはつくればいい。冬場は不便もあるけれど、雪があるから作物もおいしいし、スキーも楽しめます。このまま流れに身を任せながら生きていきたいですね」
2人は満ち足りた笑顔で顔を見合わせた。
多賀野さんからアドバイス
コミュニティに参加して知り合いを増やすこと!
青年団、消防団、婦人会、お祭りなど、地域のコミュニティにはなるべく参加するようにしています。知り合いがいることで助けられることが本当に多かったですね。生きる知恵を持っている地域の人たちに、リスペクトの心を持って接することが大切だと思います。
南砺市移住支援情報
住宅取得奨励金や新婚世帯への支援
移住希望者への家の紹介、起業や就業する人への支援、子育て支援など、さまざまな支援を行っている。市外から転入して住宅を取得した人に奨励金を交付(新築住宅の場合100万円+家族加算、中古住宅の場合60万円+家族加算)。新婚世帯に対しては、婚姻に伴う新生活のスタートアップを支援する制度(住宅賃借費用、引っ越し事業者などへの支払い費用などへの支援で1世帯当たり上限30万円、付帯条件あり)がある。
問い合わせ:南砺で暮らしません課 ☎︎0763-23-2037
https://www.kurashi.city.nanto.toyama.jp
文/居場 梓 写真/利波由紀子
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