掲載:2019年7月号
割安で、部屋数が多くて、何より日本家屋ならではの風情がいい……。などなど、魅力だけが目立ちがちな古民家だが、じつはデメリットも多い。ライター横澤が築100年の借家物件で暮らし、実感したことをお伝えします!
格安の借家物件に築100年の古民家が!
それは8年ほど前のことだ。
職業柄、雑誌・書籍類が増え続ける私。修理が趣味で、道具類を買い足したがる夫。
40代を目前にしても、夫婦の物は増え続けていた。そのため、「このまま暮らし続けるにはアパートは手狭」と感じた2人は、家を探すことに。元来、私も夫もマンション暮らしにはなじみのない田舎者で、「将来は一軒家に住みたい」と漠然と考えていたのだが、いきなりの購入はちゅうちょしていた。
そんなとき、不動産サイトでヒットした格安物件が、築100年ほどの借家だった。昔は囲炉裏があったであろう構造をしているが、持ち主は修復しながら暮らしてきたようで、普通に暮らす分には不自由のない状態。トイレは水洗にリフォーム済み、2階建てで部屋数も多い。おまけに屋根裏部屋もあって、「秘密基地みたいに使えたらすてき!」なんて当初は思っていた。一方で、中途半端にリフォームされているせいか、台所部分が細長くて使いづらそう、風呂場には脱衣所がない、2階の1室は傾いている……などなど、気になる点も多々あった。しかし、格安ということも手伝って、ほぼ即決に近い状態で一軒家を借りることとなった。
隙間から虫やナメクジ発生!
さらにはネズミが大暴れ
無事に引っ越しが終わり、ご近所への挨拶回りを済ませたころ、私たちはそれなりに快適な暮らしを送っていた。じつは、雨の日は台所にナメクジが現れるなど、隙間が多い古民家ならではの悩みはあったのだが、これくらいは想定内。虫やナメクジは何とかやり過ごしてきた。
そんなとき、あるモノが床に落ちているのを見つける。黒くて細長〜い物体だ。最初はホコリかと思って気にせず指でつまんだが、カリカリの感触に、これがネズミのふんだと気づいたのは数分後。併せて、洗面所のせっけんがかじられていた。
まず打った手はゼリー状の忌避剤(きひざい)。ネズミはハッカやワサビのにおいが苦手で、忌避剤を置くことでネズミを遠ざける効果が期待できるそう。さっそく家のあちらこちらに設置したところ、ふんは見当たらなくなった。すっかり安堵し、この出来事を忘れかけたころ、被害が発生した。サツマイモが何者かに食い荒らされていたのだ。周囲を見ると、ふんも落ちている。
ゼリー状の忌避剤は徐々に効果が落ちていくため交換していく必要があったのだ。が、平穏な日々にあぐらをかいたがため、再びネズミは現れた。自分の愚かさを悔いるも、時すでに遅し。以前は気配を隠していたネズミだったが、夜な夜な天井裏で大暴れ。ゼリー状とスプレー状、くん煙タイプの忌避剤で対抗したが、今回のネズミはふてぶてしいようで、居座り続けている。日ごとにネズミの存在感は大きくなっていき、私は仕事そっちのけで日々、「ネズミ・対策」「ネズミ・駆除」などとネット検索に没頭する始末。ネズミは電気コードをかじって火災を起こすこともあるという情報も見つけ、睡眠もままならない状態。今思い起こせば、軽いノイローゼだったかもしれない。
食品類を外に置かない、忌避剤を設置するなどして、ネズミが棲みづらい環境をつくってみたものの効き目なし。ラットサイン(ネズミの通り道)を探してみるも、黒い汚れや足跡は見つからず。穴という穴を網でふさいでみたが、ネズミは居座っている。そもそも築100年の古民家。目に見えない場所にも隙間があるのだろう。
どうやら我が家はネズミの棲み処として気に入られてしまったようだ。そうなったら次の手を打つしかない。できれば避けたかったが、毒エサや、粘着タイプのワナを設置した。が、そう簡単には引っかかってはくれない。まだ見ぬネズミの姿におびえる日々はしばらく続いたが、ある夜、夫がネズミと遭遇することとなる。それは20cm以上もあるジャンボサイズで、台所でモソモソと動いていたそうだ。懐中電灯でネズミを照らすと、慌てて玄関方面へ逃げていき、粘着タイプのワナを華麗にピョ〜ンッと飛び越え、どこかに消えていったという。
翌日調べてみると、我が家に棲み着いているのはクマネズミだということが判明。ハツカネズミやドブネズミと比べると厄介で、高い学習能力を持っている類だという。これはプロに依頼すべきか? ネコを飼うべきか? 2人とも仕事を持ち、留守が多い家で動物を飼うのはどうか? 思い悩むなか、「蚊取り線香の煙でネズミを追い払った」という記事を発見。ネズミは煙を嫌う性質があり、くん煙タイプの忌避剤もあるのだが、持続性は一時的なものだ。だが、ものは試し。さっそく屋根裏に続く階段で蚊取り線香をたいてみた。しかも、煙が充満するよう3個同時に。すると、天井裏でネズミが暴れまわる音がぴたりとやんだ。その後も油断せず、来る日も来る日も蚊取り線香をたいてみると、ネズミの気配を感じなくなった。煙によって「この家は危険」と認識されたのかは不明だが、クマネズミ事件は幕を閉じた。
しかし数カ月後、今度はハツカネズミが出没。ネズミは寒さをしのぎに家に上がり込むことがあるようで、これはもう古民家の床下から修復しないと手に負えないと実感した。さらにコンセントの工事をした際、内部に数十年分のホコリがギッシリと詰まっていたのを発見。よく発火しなかったものだ。ネズミ対策、電気回りの安全対策のほかにも、暮らしやすく改装したい箇所はあったが、借家は現状で返す約束だ。いろいろと限界を感じ、3年ほどで古民家生活は終了した。
失敗を活かして中古物件を購入・補修
「入居前にリフォームやDIYの許可を取るべきだった」など後悔もあるが、この体験はムダではなかったと思っている。その後、私たちは懲りずに築30年ほどの中古物件を購入。古民家で感じた不便やアクシデントを振り返り、生活動線を考慮したリフォームをしたり、床板を自分たちで張り直したりと、購入当初に時間をかけて補修を施してきた。結果、5年経過した現在も、快適な暮らしを送っている。
不便はあるが、古い物件は割安で、工夫すれば楽しく暮らせる。これに対して、修繕などの維持費がかかるといったデメリットも多い。購入する場合は、借家や体験住宅でシミュレーションをしてからをおすすめする。古い物件といっても、家は高い買い物なのだから。
文/横澤寛子 イラスト/吉野 歩
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