ついに始まった棟上げである。テキトー施主和田の、数々の「段取りの悪さ」を 乗り越えて柱や梁が徐々に組み上がっていく。しかし、和田の「テキトーぶり」はそれどころではないレベルに達していたのである。それはもはや「神」レベル!?
最大の難関、7間の丸太を吊り上げる!
和田の切り札・カズさんの奮迅の働きで、じつにスムーズに桁が組み上がっていく和田邸である。番付表の「一、四、七」のラインに東西方向で乗る桁のうち早くも「一」のラインの柱と桁が組み上がり、いよいよ最大の難関、「四」と「七」のラインの組み上げに入る。
なにが難関なのか。それは例の7間(約13m)におよぶ1本モノの丸太を吊り上げないといけないからである。これはもう人力では不可能(&危険)なので、三脚をもう1つ組み立て、2支点で吊り上げることにした。丸太にスリングを通してウインチとチェーンブロックに引っ掛け、できるだけ水平を保ちながら引き上げる。巨大丸太が浮き上がり、徐々に吊り上げられていく。なかなか壮観である。
ギシ……。
丸太の重みで三脚が微妙にたわんだ。
中山「うわー。怖いよお」
さらにウインチを巻き上げる。ギシ……。
またもや三脚が揺れる。心なしか、さっきより三脚全体がたわんでいる気がしないでもない。あの丸太、いったい何百キロあるんだろうか。確かウインチの耐荷重って250㎏だったな。チェーンブロックは1000㎏だったはずだが……。すでに見上げるほどの高さに達した巨大丸太が自重のせいかユラユラ揺れている。今にも三脚が空中分解しそうで気が気ではない。
和田「そっち! 早く上げて!」
和田に急かされて、さらにウインチを巻き上げる。 ギシ……ギシ……。
再び三脚が大きくたわんだ。ひえ~~~。
逃げ出したい衝動を抑えつつウインチのスイッチを握りしめる。
じつは一番安全な場所にいながら額の汗を拭う中山であったが、あとで写真を確認したら、三脚のたわみは気のせいではなかったのである!(上の写真参照)
水野「怖すぎる!」
中山「さすがにこれは、やばいだろ」
阪口「安全第一じゃなかったのかよ」
和田「結果オーライだから!」
全然懲りてない「テキトー施主」なのであった。
ようやく柱の上まで持ち上がったところで、ホゾの位置を確認しながら微調整。柱のホゾと桁のホゾ穴が合ったところで、カケヤで叩き込む。うまい具合に、今回は一発ではまった。さすがに一発で入らないとシャレにならないので、和田がわざとホゾ穴を大きめに開けたんだろう。すかさず仮筋交いを入れて柱を安定させる。ふう、……これでひとまず安心である。
三脚の高さが足りない!?
続けて、もう1本、「四」のラインに負けず劣らずの巨大丸太を七のラインに吊り上げる。丸太がゆっくりと空中に持ち上がっていき、見上げるほどの高さに吊り上げられていく。快調に高度を上げていったそのとき、悲鳴にも似た声が上がった。
阪口「高さが足りないっ!」
なんと、三脚の角度が緩すぎたために、頂点の高さが低すぎて、桁が柱のてっぺんまで届かないことが判明したのだ。その差、わずか20㎝ほど。
和田「わかった! 油圧ショベルで桁を持ち上げよう!」
一同「おー! その手があったか!」
期待を込めた一同の視線が集まるなか、和田が操縦する油圧ショベルがさっそうと登場。長いアームが空中に延びていく……、しかしアームとバケットを最大限に上げた状態で油圧ショベルは止まってしまった。
一同「届かねー!」
失笑が巻き起こるなか、和田の油圧ショベルはあえなく退場していった……。結局、いったん丸太を下ろして三脚を組み直すという地味な作業を経て、なんとか巨大丸太を組み上げることができた。
「ほー七」がない⁉
これで最難関と目されていた巨大丸太2本の吊り上げが無事に完了し、なんとか柱と桁が組み上がったんだが……。ここで難しい顔をして番付表とにらめっこしていた和田がボソリとつぶやいた。
和田「『ほ―七』がない……」
怪訝に思った一同が和田のもとに集まり、番付表をのぞき込む。
確かに番付表には「ほ―七」の位置に柱が立つことになっており、土台と桁にもちゃんとホゾ穴が刻んである。しかし資材置き場を探しても「ほ七」の柱は見つからないのである。
阪口「もしかして、つくり忘れ?」
和田「……そうみたい」
中山「てことは、あの巨大丸太を、いったん下ろすわけ?」
一同「……」
どよーんとした脱力感がその場を覆った。「沈黙」という名の非難が和田に向けられる。
そのときであった。和田が決然と言い放ったのである。
和田「……いや、いい! 柱はナシ!」
一同「ええーっ!!」
和田「大丈夫! なくても2間飛ばしだから問題ない!」
本来入れるべき柱をなかったことにするとは……、恐るべし「テキトー施主」。しかもその理由が「つくり忘れ」。
阪口「……まあ、施主がナシでいいっていうんならね」
中山「そうだね。あの丸太を今から下ろしたくないし」
一同「じゃあ、ナシってことで!」
施主と助っ人の思惑が合致して「柱ナシ」と決まり、本来予定のなかった「2 間飛ばし」に、なし崩しに計画変更となったのであったが……、テキトーすぎるだろ。いろんな意味で……。
簡易足場もでき、梁を順調に載せていく
次は梁と二重桁を載せていく作業である。前にも報告したとおり、和田のコダワリは二重桁、つまり「桁→梁→桁」と、梁をサンドイッチするように井ゲタに梁桁を組むという構造である。すでに下の桁は組み上がっているので、次に載せるのは梁である。
ここでカズさんの提案で急きょ、こしらえたのが簡易足場。柱の約2mの高さのところに垂木材を打ち付けて受けをつくり、そこに足場板を渡したのだ。これにより高所で丸太を受け取れるようになり、作業性が一気に上がった。
阪口「足場ナシで棟上げするとか豪語してたけど、やっぱり必要だね」
和田「だって奥多摩の人力山荘は足場ナシで棟上げしたんでしょ?」
中山「あのときは、単にそういう知恵がなかっただけ」
阪口「しかも『足場板は用意した』とか言ってたくせに、来てみたら2mの板が4枚しかないし」
和田「いいじゃん。足りてるし」
一同「あれはカズさんが気を利かせて持ってきてくれたやつだし!」
助っ人からのブーイングをよそに作業は粛々と進み……。
再びウインチとチェーンブロックの活躍で、丸太梁が次々に持ち上がる。これもなかなかの直径だが、長さが約4間で桁に比べれば短いため重量も軽く、三脚のたわみもそれほどではない。しかし、1間ごとに合計7本の丸太梁を載せるので、途中で三脚を反対側に移動するのがけっこうな手間である。さらに梁を上げてからも、桁の上を滑らせて移動させないといけないので、ロープをかけて、下から3人がかりで引っ張る。そして、所定の位置にはめ込む段階になって、ああ……、やはりというべきか。桁の相欠きにはまらないのである。さらに1カ所、柱が長すぎることが判明したので、急きょ、和田がチェーンソーで丈詰め&切り欠き作業を始める。
しかし、この程度の段取りの悪さは、もはやどうってことはないのである。日陰で麦茶でも飲みながら和田の「つじつま合わせ」を待つ一同であった。
簡易足場が壊れて、あわや大惨事!?
全体としてスムーズに梁が上がり、次は梁の上に載る桁である。「一」のラインは2間ほどの丸太を継ぐので人力でも大丈夫そうだ。助っ人さんも増えたので、一気に上げてしまおうということになった。高所が大丈夫な数人が足場に上り、高所がダメな「ヘタレ組」(もち ろん中山含む)は、下から材木を 上げる後方支援である。
しかし、「四」と「七」のラインは、い ずれも7間を2本の丸太で継ぐので、長いものは1本5間を超える。それをウインチで吊り上げることにしたんだが、しかしここで、ああ、またしても、三脚の高さが足りず丸太桁が梁に上がらないのだ(原因は二重桁のために載せる位置が高くなったため)。その差、わずかに数センチ。
和田「人力で持ち上げよう!」
施主和田の鶴の一声で、足場にいる人全員で、巨大丸太をほんの数センチ持ち上げることになった。
「ふんぬ~~~~!」
全員が踏ん張った瞬間であった。バキッ。木が割れる音とともに足場がガクンと傾いた。重圧に耐えきれずに簡易足場の受けが折れたのである。助っ人一同に緊張が走ったが、大事に至らなかったのは幸いであった。応急処置をして再度チャレンジして、ようやく丸太桁が上がった。こうして2日目の午後3時、ついに構造材が組み上がった……!
小休止を挟んだら、棟上げも最終局面に入る。例の和田のコダワリで仮組みを終えた「小屋組」である。小屋組とは梁桁から上の屋根を支える構造のことだ。わざわざ仮組みまでしたんだから、素晴らしくスムーズに棟上げが完了するに違いない……、と思ったら、そうは問屋が卸さないのが「テキトー施主」である。
次回、施主和田の「テキトーぶり」が大炸裂! 「テキトー施主」から「テキトー大王」に昇格決定だ!
文/中山茂大 写真/阪口 克 イラスト/和田義弥
第1回 基礎工事
第2回 墨付け、刻み
第3回 柱、梁、桁の刻み
第4回 棟上げ目前
第5回 棟上げ
第7回 棟上げ
第8回 足場組み、家起こし
第9回 屋根
第10回 屋根材張り&プロによる中間チェック
人力社
ライター中山とカメラマン阪口、 ライター和田の旅とDIYを得意とする3人組トリオ。「人力山荘」シリーズでは中山の母屋リフォーム、中山のアネックス新築DIY、和田の自宅新築DIYを連載。阪口も自宅をDIYで新築している。
人力社HP➡www.jinriki.net
この記事のタグ
田舎暮らしの記事をシェアする