どんな役を演じても、どっしりとした実在感をもたらす俳優の赤井英和さん。若年性認知症と診断された会社員とその妻による夫婦の絆を描く最新映画『オレンジ・ランプ』のこと、ボクサーから俳優へ転身するまでの壮絶な日々のこと、夫婦円満の秘訣についてなど。「佳子ちゃん」と呼ぶ奥さまと一緒にお話を聞きました。
掲載:2023年8月号
心が広く情に厚い社長役
「素晴らしい話やないですか? 認知症って誰しもかかる可能性があるし、それとどう向き合うのか? 実話が元で、自分も認知症になるかもしれない未来に、勇気を与えてくれますよね。心が広くて情に厚い社長という役を頂き、ありがたかったです」
映画に失礼がないよう、緊張で大きなからだを縮めるようにして生真面目に言葉を探していく赤井英和さん。映画『オレンジ・ランプ』は、39歳で若年性認知症と診断された晃一とその妻、真央の9年間を描く人間ドラマ。赤井さんが演じるのは晃一が勤める会社の社長。認知症になっても日常を死守しようともがく社員を温かく見守る島崎を演じた。
役柄について監督とどんな話をしたのか尋ねると、「どやったかな、佳子ちゃん?」と愛妻に助けを求める赤井さん。
「三原監督とご一緒するのは2度目で、赤井はセリフだけでなく人柄が画面にあふれ出るからそのままやってくださいと」
即座にフォローする言葉にうれしそうに耳を傾け、会話を録音するためのマイクを佳子さんのほうへ向ける赤井さん。せっかくなので、お2人からお話を聞くことに。
赤井「島崎は晃一に、『できることをしたらええねん』と言います。会社を運営するうえでうまく人を使う人やねんなと。撮影は……もう1年前か」
時の流れの早さに、そうか……と思いつつ、ふと95歳まで長生きしたというおばあちゃんのことを思い出したよう。
赤井「最後の1年間は寝たきりで、言葉を発するのもままならない状態でした。そのせいもあってか、認知症は高齢者がなるものだろうと。若い人も発症するのをこの映画で知りました。発症後も会社員を続けたり、昔やっていたサーフィンを再び始める人もいるそうで、からだは覚えているんでしょうね。認知症になったから何もできなくなるのではなく、まったくの別人になるのでもないのだなと」
晃一は認知症になっても「何を諦めたくないか?」を考え、仕事をしたい!という結論に至る。
赤井「僕の場合は家族との時間です。長男の英五郎が結婚して昨年、孫ができましたし。長いこと赤ちゃんを見ていなくて、こんなにちっちゃかったんや!と」
佳子「昨日、寝言を言ってたよ? ××ちゃんに石鹸とタオルを準備しとかな、って」
赤井「あ、そう? 覚えてない。しょっちゅう寝言を言うみたいで」
佳子さんがTwitterでつぶやく赤井さんの〝生態〞が話題だが、なるほどネタは尽きないだろう。時折見せる笑顔はまさに人柄のよさが全開で、「もちろん子どももそうですが、やっぱり孫ってかわいらしいですね」と笑う目尻は、いつもよりさらに下がっている。
次ページ:「奥さまとの力関係は100対0!?」
この記事のタグ
田舎暮らしの記事をシェアする