2021年11月に北海道厚沢部町でスタートした「保育園留学®※」。㈱キッチハイクが事業化したこの取り組みは、1~3週間、地域の保育園に子どもを通わせながら、家族での滞在や田舎暮らしが楽しめるプログラム。自然に触れる保育や地域との交流など、多様な体験が子どもたちにもたらすものとは? 同社広報の福田将人さんにお話を伺った。
掲載:2023年8月号
※「保育園留学®」は、株式会社キッチハイクの商標です。特許取得済。
(特許第7164260号「 滞在支援システム、滞在支援方法、およびプログラム」)
厚沢部町のこども園に集まる全国からの留学生
北海道の南西部、渡島(おしま)半島の日本海側に位置する厚沢部町は、人口わずか3500人ほどの町。今、町内に1つしかない保育園・厚沢部町認定こども園「はぜる」には、全国から多くの子どもたちが保育園留学を目的にやってくる。そして、ここ「はぜる」から保育園留学の取り組みがスタートし、全国各地に広がりを見せているのだ。
「もともとは弊社代表の山本が、厚沢部町に家族で滞在したことが、保育園留学の事業がスタートしたきっかけなんです」
とは、同事業を展開する㈱キッチハイクの広報担当、福田将人さん。
同社CEOである山本雅也さんが初めて家族と厚沢部町を訪れたのは、2021年7月のことだ。もともと同社の「ふるさと食体験」事業を通して、厚沢部町に魅力を感じていたという山本さん。当時2歳の娘さんがいたことから、厚沢部町と保育園について詳しく調べてみると、「はぜる」の豊かな保育環境とちょっと暮らし住宅の情報を発見する。
「この園に娘を預けて、家族で滞在したい!」と、同町の政策推進課に問い合わせたところ、ものすごいスピードで娘さんの一時預かりと親子での滞在が実現した。
「はぜるは、子どもが主役の『世界一のこども園をつくろう!』というビジョンのもと、2019年につくられました。しかし、コロナ禍になり、『よい保育園をつくったけれど、どうしたら子どもの数が増えるかな……』と、先生や町の担当者が試行錯誤していたタイミングで、山本がやってきた。そこから、いろんなピースがつながったんです」
子どもたちに寄り添ってくれる魅力的な園の先生たち、町の自然を最大限生かした保育環境、地域の人びとの温かさに魅了された山本さんは、多くの人にこの体験を広めたいと、政策推進課(当時)の木口孝志さんと協力し、同町での保育園留学を事業化した。
「2021年の夏に山本が滞在して、事業化したのが同年11月のこと。4カ月で事業化にこぎ着けたのは、厚沢部町の木口さん、そしてはぜるの先生方の熱量の高さがあったからだと思います」と、福田さんは当時を振り返る。
定常的に町に子育て世代が来る仕組み
厚沢部町では、1〜2週間の期間で保育園留学を受け入れている。期間中は、同町のちょっと暮らし住宅に滞在しながら、子どもは「はぜる」に通い、地域の子どもたちと同じように園で過ごす。受け入れをスタートして1年半になるが、保育園留学を利用した家族はすでに約300組! なかにはリピーターもいるという。
「厚沢部町では6棟のちょっと暮らし住宅が稼働しているんですが、定常的にほぼ100%、保育園留学のファミリーが滞在しています。期間ごとに入れ替わりはしますが、それは常時6組の子育て家族がまちに移住しているということ。そんな状況に、町の移住・定住担当の方も手応えを感じてくださっています」と、福田さん。
1〜2週間という短い滞在期間だが、たとえ1週間であっても子どもたちは見違えるように成長し、顔つきも変化する。
「はぜるでは、一人ひとりのやりたいことを引き出してあげるような、保育のスタイルを実践しているんです。留学生の子が帰るときには、先生も在園児も留学生も、全員が泣くんですよね。毎週そんな感じで『また来てね!』と、みんなが泣いている。最初は引っ込み思案だったり、人と話すのが得意じゃない子も、はぜるのなかでは生き生きとして、好きな子もできたり……。どんどん自発的になっていく。そんな成長が日々見られることに、先生たちもやりがいを感じているようです」
メリットは留学生だけではなく、地元から通う在園児にもあるという。
「『東京から来ました』と言う子がいたときに、『先生、東京ってどこ?』と、地図に興味を持つようになったクラスがあったそうです。『北海道って海の中にあるんだね!』とか、在園児にとっても留学生が来ることで、世界が広がるんですよね」
厚沢部町で保育園留学を利用する家族の7〜8割は、首都圏(東京、神奈川、千葉、埼玉)から訪れるケースだという。家族全員での参加や、ママ+子どもというワンオペでの参加など、各家庭のスタイルもさまざま。
「お仕事はIT系やフリーランス、自分で事業をやっている方が多い印象です。リモートワークをしながら滞在する方が中心ですが、なかには育休のタイミングでいらっしゃって、0歳児を自分で見ながら、上の子をこども園に預ける方もいます。厚沢部の自然を自分自身も楽しみながら、子どもにもたくさんの経験をさせてあげられる。そのあたりもユーザーさんに喜んでいただけているポイントですね」
全国約30地域の保育園が留学生を受け入れ中
一時預かりや託児を受け入れている保育園・こども園があること、家族で滞在できるお試し住宅などの施設があること、そして滞在中に仕事ができるWi-Fiなどの環境が整っていること――。もともと備わっている既存のスキームをそのまま利用できることから、保育園留学を受け入れる園と自治体は、全国各地に広がっている。現在、留学先は、北は北海道から南は鹿児島まで、約30地域(2023年年8月時点)にのぼる。
受け付けの窓口はすべてキッチハイクが一括して行っており、「保育園留学」のホームページから各留学先への申し込みが可能だ。また、自治体や保育園への提出書類は同社担当者が提出してくれるなど、留学までの流れがスムーズな点も、日ごろ忙しいパパママにとって魅力的なポイント。そして留学先については、コンシェルジュと相談しながら決めることもできるという。
「この事業を通して気づいたのが、全国に素敵な保育園ってたくさんあるんだな……ということ。厚沢部もそうですし、熊本県天草市の認定こども園『もぐし海のこども園』は、どろんこになってOK!という園で、毎日、裸足で外遊びをしています。ローカルのなかで本当によい保育をやっていきたいという、熱意のある先生が全国にはたくさんいる。そこの価値を、なるべくいろんな子育て家族にお届けできたらと思っているんですよね」
【保育園留学 利用の流れ】
■Step1 留学先を選ぶ
「保育園留学」のサイト(https://hoikuen-ryugaku.com)から、留学先と予約可能なプラン&日程を選んで予約する。
■Step2 申し込み書類の提出
一時預かりに関する書類を提出する。
■Step3 園とオンライン面談
事前に園とオンライン面談を行い、入園に関する質問、不安な点などを相談。
■Step4 登園!
現地や宿泊先へは各自向かう。登園に必要なものなども確認のうえ、忘れずに持参を。
【基本プラン料金&参加資格】
■基本プラン料金 20万円~
※大人2人、子ども1人で2週間(最大10日登園)の場合(平日の預かり保育料、宿泊費、生活備品、宿泊施設でのWi-Fi利用料を含む。食費や保険料、現地までの移動費などは含まない)
■参加資格 未就学児のいる家族
(対象年齢は園により異なる)
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全国の「保育園留学」受け入れ園のなかから、気になる4園ご紹介!
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