2011年の東日本大震災で津波被害を受け、復興に取り組む陸前高田市。復興を進めるなかで掲げた、すべての人がともに暮らす日常を目指す「ノーマライゼーションという言葉のいらないまちづくり」を、SDGs実現の中心に据える。
掲載:2023年10月号
岩手県陸前高田市(りくぜんたかたし)
岩手県南東部、三陸海岸の南側に位置する。人口約1万7800人。年平均気温11.6℃。比較的温暖で降雪も少ない。ホタテや牡蠣などの養殖、定置網漁、「米崎りんご」やブランド米「たかたのゆめ」などの農業、「気仙杉」で知られる林業が盛ん。東日本大震災では約5割の世帯が津波被害を受けた。東北自動車道一関ICより車で約1時間15分。写真は高田松原。震災で壊滅した後、整備され2021年に海水浴場がオープンした。
行政と民間の連携が進み、若い世代のチャレンジも
震災後の復興事業でかさ上げされた市街地。ショッピングセンターなども営業を始めている。
風光明媚な三陸海岸に面する陸前高田市は、東日本大震災で未曾有の津波被害を受けた。震災とその後の復興の過程でわかってきたのは、高齢者や障がい者といった社会的弱者への配慮の必要性。そこで市は2015年に「ノーマライゼーション(※1)という言葉のいらないまちづくり」アクションプランを策定。すべての人がともに暮らす日常を目指し、「防災・コミュニティ・情報共有・PR」「教育・子育て」「保健・医療・福祉・介護」「産業・雇用・観光」「建物・道路・公園・交通」の各分野について行動計画を示した。
「市には障がいがない人、ある人、みんなで障壁を感じないまちをつくっていこうという強い思いが、SDGs以前からあったわけです。SDGsの持つ『誰一人取り残さない』という理念は、私たちの目指すまちづくりにぴったり合致しました」
と言うのはSDGsを担当する市役所政策推進室の出沼与夢(いでぬまあとむ)さん。市は「ノーマライゼーションという言葉のいらないまちづくり」を掲げたSDGs推進を提案し、2019年に内閣府からSDGs未来都市に選定された。
実際の取り組みはハード、ソフトの両面にわたる。例えば、将来の震災に備え、かさ上げされ復興した市街地。そこに再建される店舗には、ユニバーサルデザイン(※2)が取り入れられるよう工夫が行われた。ふるさと納税の返礼品の梱包には障がい者が取り組む。ノーマライゼーションについて講師を招いて勉強の機会を設け、受検に市民・職員が取り組んだ。7月に開催した「パラスポーツフェスティバル」では、市民がパラフェンシングやボッチャなどを体験した。
「市街地には平日に居住地と商業施設をつなぐグリーンスローモビリティが運行しています。これは時速20km未満で運行する電動バスで、かさ上げした市街地はこの交通システムに適したコンパクトシティです」
と出沼さん。SDGs未来都市の選定によって進んだのは、行政と民間、他の自治体、大学などとの連携だという。
「『陸前高田市SDGs推進プラットフォーム』では事業者、団体、市を合わせて約40名が参加し、毎月意見交換を行っています。また、法政大学とSDGsに関する連携協定を締結し、学生と市、市内の社会福祉法人、文房具店などが参加して、ワークショップも開催しました。東北地域のSDGs未来都市間での交流も進んでいます」
(※1) デンマークのバンク-ミケルセンが提唱した理念で、厚生労働省は「障がいのある人が障がいのない人と同等に生活し、ともに生き生きと活動できる社会を目指す」とする。
(※2) 文化・言語・国籍の違い、老若男女といった差異、障がい・能力の有無を問わずに、誰もが利用できる施設・製品・情報の設計、デザインのこと。
グリーンスローモビリティは平日は生活の足としてまちなかを回り、休日は観光客向けに観光施設や商業施設を周遊。
新しい市街地には、震災前の旧市街で営業していた飲食店も戻ってきた。
道の駅高田松原と併設された東日本大震災津波伝承館。海との間には高さ12.5mの防潮堤が築かれている。
最近では起業したり、漁業や農業に取り組んだりと、移住した若い世代のチャレンジも増えている。出沼さんは言う。
「私自身は神奈川県川崎市の出身です。最初は任期付き職員でしたが、人のつながりが広がって、このまちで生きていこうと決めました。ここは夏涼しく冬は雪が少なく、過ごしやすいうえに食べ物がおいしい。そして何より人がいい。外からの人に寛容なんです」
SDGsの目標は持続可能であること。陸前高田市は、すべての人が集い活躍できるまちとして、未来への持続を目指す。
ユニバーサルデザインが意識された新しい市庁舎の駐車場。
広田湾産イシカゲ貝は陸前高田市が国内で唯一の養殖産地。ホタテの甘味とアサリのうま味を持つといわれる。旬は6~9月。
2台の山車がぶつかり合う「気仙町けんか七夕まつり」は約900年の歴史があるといわれ、東北の奇祭とも呼ばれる。
陸前高田市のSDGs ここがスゴイ!
●創造的な復興を目指し防災・減災の先進地として魅力あるまちづくりに取り組む
●多様性を認め合い、高齢者や障がいのある人も安心して自分らしく暮らせるまちを目指し、ハード面の整備とソフト面の充実を図る
●パラスポーツの合宿・大会などを誘致し、交流を促進する
●漁業や林業の担い手を育てるため助成や体験などを行う
●行政・企業・団体・他の自治体・大学などが連携し、協力してSDGsを進める
「SDGs未来都市に選ばれたのをきっかけに、多くの人が関心を持ち、取り組みの輪が広がりました」
(政策推進室 出沼与夢さん)
陸前高田市移住支援情報
相談やイベントを専属スタッフが手厚くサポート
移住定住を考える人のサポートは市から委託を受けたNPO法人高田暮舎の専属スタッフが行っている。移住コンシェルジュの多勢瞳さんは、移住前から移住後まで、陸前高田を知り、関係をつくってほしいと相談やイベントに情熱を持って取り組む。「仕事、住まい、コミュニティ……。なんでも相談してください!」。
●問い合わせ先/観光交流課定住交流係 ☎️0192-54-2111(代)
https://takatakurashi.jp
多勢さんは千葉県出身。2020年に陸前高田市に移住した。休日には漁業や農業の手伝いや釣りなど暮らしを満喫中
お試し居住は市営住宅に家賃月1万円で3カ月から1年間滞在し、第一次産業やまちづくりへの参加などを通じて地域とのつながりを持てる。
「20~40代の方の移住も多いです。ぜひ一度陸前高田を訪ねてみてください」
(観光交流課定住交流係 若杉紗香さん)
文/新田穂高 写真提供/陸前高田市
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