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田舎暮らしの本 5月号

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3月3日(月)
890円(税込)

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消滅可能性自治体/自給自足を夢見て脱サラ農家37年(55)【千葉県八街市】

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 今回のタイトル「消滅可能性自治体」という言葉、アナタは耳や目にしたことがあるだろうか。あるいは日常的に意識にのぼっているだろうか。以前から書いているように、僕のふるさと祝島は、農業も漁業も盛んで、昭和30年代、戸数600、人口3600人ほどだった。旅館は3軒、寺は3つ。映画や芝居が上演され、商店は数多く、パン屋さんがあり、夏にはかき氷の出前をしてくれる店もあった。僕はそこを中学3年で離れたのだが、その時から63年たった今、人口は280人ほどと伝えられている。まさに、消滅可能性自治体は、自分の生まれ故郷という身近な問題であったわけだが、ショックはそこにとどまらない。中国地方5県で2050年における人口減少率が最も高いのは山口県であると、中国新聞が伝えている。僕は小学生の頃、雑誌『冒険王』や『少年画報』買いたさに中国新聞を配達していたのだが、その新聞からこの悲しい知らせを受けることとなった。さて、そこにさらに追い打ちをかけたのが、4月のことだったか、千葉県内における消滅可能性自治体に、僕がいま暮らす八街市(やちまたし)が含まれている、現在のままの減少率が継続すると2040年には消滅するという新聞のニュースだった。人口がじわじわ減っているのは知ってはいたが、まさか、そこまで・・・。

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 50歳になる娘がこの村に転校することとなったのは小学5年生。学年は1クラスだけだった。ところが、それから10年もしないうち、人口がどんどん増え始めた。移住当時は印旛郡八街町だったが、やがて市に昇格した。母数は少ないけれど、なんと人口増加率は全国トップだと新聞が伝えたこともある。小学校の校舎は増築され、運動会ともなれば生徒と見学の父兄とで校庭は溢れた。市当局はゆくゆく人口10万人を想定しているとも伝えられた。いかなる理由でかくも急激な人口増加となったか。土地が安かったからであろう。東京方面への通勤は、せいぜい佐倉市までが限界。しかしそこには手が出ない。八街市には規制がなく、どんな場所にも住宅建設が可能。そして安い。どれだけ不便でもマイホームが欲しいという人たちが押し寄せて来たのである。だが隆盛はそう長くは続かなかった。ピーク時から20年を経た今、あちこちに、雑草に囲まれ、雨戸が閉じられたままの家が見られる。新築時はよかっただろう。しかし、すっかり傷みのきた今見ると、庭は猫の額よりも小さく、買い手もないのだろうか、見捨てられた家はどうにも物悲しい。家人はどうなったのだろう。マイホーム購入時40代だったとして、もうとっくに定年という年齢を超えている。定年を待たずしてこの家から出ることを決めたのは、購入当時の、これが我がマイホームだ!! という興奮と喜びが失せたからなのか、それとも長距離通勤に疲れてしまったからなのか・・・僕はおよそ2年半、この地から東京文京区の会社まで通った。地下鉄→JR→もう一度JR→そして我が家まで自転車で6キロ。片道が、待ち時間を入れると2時間近い長丁場だった。それにどうにか耐えられたのはもう畑と家を手に入れ、百姓になると決めていたからだ。そんな僕と違い、定年までの20年かそれ以上、長距離通勤しようとした人は、途中で挫折したとしても不思議ではない。

 消滅可能性の自治体がある一方で、これからさらなる発展を遂げるだろうという自治体もある。すぐに思い浮かぶのが印西市(いんざいし)だ。25年ないし30年昔のことになるが、我孫子市(あびこし)に住む弟がいた。弟を訪ねるために必ず僕が車で通る場所、そこが印西だった。不便な農村地帯に暮らす僕の目にも、空き地やヤブだらけで明らかに格下と思われた。その印西が豹変した。大型のショッピングモールが出来、洒落た住宅街が広がる。自治体は若い夫婦に子ども手当てなどさまざまな支援策を打ち出している。新しい住まいの場所として印西を目指す人はこれからさらに増えるらしい。

 ヒトは生まれて10数年すると活発な成長期に入る。30歳くらいまでは輝きあふれる時代を過ごす。しかしやがて、現在の僕がそうであるように、腰が曲がり、頭の毛が薄くなり、耳が遠くなり、頻尿に悩まされるようになる。土地だって、ヒトの一生と同じなのかもしれない。成長・拡大し、その輝きがピークに達して以後は、徐々に、確実に“老化”の道を歩む。永遠不変はない・・・そうとはいえ、やはり、自分が生まれた島、自分が夢を抱いて移り住んだ街、そこが人間の姿の見えない無人の空間になると想像するのは哀しい。

 つい先日、公示地価の発表があった。相変わらずのダントツは東京銀座の1平方メートル何千万円。驚いたのは、地方都市でも大きな上昇率を見せているところがある。とりわけすごいのは、北海道の有名なスキーリゾート地で、なんと30%を超える上昇だという。その背景にあるのはインバウンド。円安というのも理由のひとつらしいが、外国人による需要が不動産価格を押し上げているとのことだ。日本の人口は減る。地方の、遠隔不便、気象条件の厳しいところからだんだんと人がいなくなり、自治体が消滅する。それでいて、富裕な外国人たちが颯爽とスキーを楽しんでいる・・・じつに不思議な風景がいま僕の目の前に広がる。

この記事を書いた人

中村顕治

中村顕治

【なかむら・けんじ】1947年山口県祝島(いわいじま、上関町・かみのせきちょう)生まれ。医学雑誌編集者として出版社に勤務しながら、31歳で茨城県取手市(とりでし)に築50年の農家跡を購入して最初の田舎暮らしを始める。その7年後(1984年)の38歳のとき、現在地(千葉県八街市・やちまたし)に50a(50アール、5000㎡)の土地と新築同様の家屋を入手して移住。往復4時間という長距離通勤を1年半続けたのちに会社を退職して農家になる。現在は有機無農薬で栽培した野菜の宅配が主で、放し飼いしている鶏の卵も扱う。太陽光発電で電力の自給にも取り組む。

Website:https://ameblo.jp/inakagurasi31nen/

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