近年、起業件数の増加や起業資金が低くなっていたりと起業のハードルが下がり、起業しやすくなっているという。そこで、起業の現状や成功させるポイント、シニアの場合の注意点などを、起業家向けの無料ビジネス誌『創業手帳』を発行している創業手帳㈱の代表取締役・大久保幸世さんにお聞きした。
掲載:2024年7月号
CONTENTS
お聞きしたのは……
創業手帳㈱ 代表取締役 大久保幸世さん
大手ITベンチャー役員として多くの起業家と接し、会社のさまざまな悩みに答えるガイドブック『創業手帳』を考案し、創業手帳㈱を創業。『創業手帳』の印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は100万人を超える。創業手帳アプリの開発や起業無料相談、資金調達セミナー、補助金自動マッチング「補助金AI」の開発・運営など、創業・起業に関するあらゆることに対応。
https://sogyotecho.jp
以前より起業しやすくなっている?
毎月、新しく登記される法人は1万社以上、ここ数年の設立数は増加傾向にあります(図1参照)。また、新たな事業を始める起業家に対し国や自治体による「スタートアップ支援」が行われているほか、オフィススペースや交流の場となるオープンイノベーション拠点などが増えてくるなど、起業しやすい環境も整ってきています。さらに、開業資金は年々減少し、資金調達の方法も多様化してきています。こうしたことから、今の時代は、起業のハードルが下がり、起業しやすくなっているといえます。
起業の際の必要資金はいくら?
起業で困ったこととして最も多いのが、資金です。開業資金は、1995年には平均で1770万円、中央値で1000万円だったものが、2020年には平均で989万円、中央値で560万円と年々減ってきています(図2参照)。中央値で見れば、1995年の約半分ですむことになります。
また、創業手帳のアンケートでは、66%が起業後に予想外の出費があると答えていて、その金額は100万円以上300万円未満が24%でした。余裕をもって資金調達をする必要があります。
資金の調達方法は?
起業資金の調達方法は、創業手帳のアンケートでは、補助金、融資、クラウドファンディング、VC(ベンチャーキャピタル)・エンジェルの順で興味が高くなっていました。日本に約3000もある補助金は、小規模事業者持続化補助金、ものづくり補助金、IT導入補助金、自治体の創業助成金など、ある程度金額の枠が大きなものが人気です。融資は、日本政策金融公庫や保証協会の融資が主ですが、事業計画の実現性が高くないと難しいようです。クラウドファンディングは、プロジェクトの意義やお返しとなるリターンの充実、魅力的なページづくりが大切となります。VC・エンジェルはどちらも投資ですが、VCは投資会社、エンジェルは個人投資家です。
どの方法にしても、自分の起業に合う最適な方法を選ぶことと、きちんとした事業計画、それに基づく商品・顧客づくりが大事です。なお創業手帳では、自分に合った補助金の最新情報が自動で届く「補助金A(Iほじょアイ)」を提供しています(要登録、無料)。
起業にあたって考えておくべきことは?
起業家と多く接してきましたが、成功する起業家の多くは「Will=したい」が明確です。ここは起業家の姿勢が伝わりやすく、起業家が一番大きく勝てる要素なのです。「Can=できる」「Must=しないといけない」は起業後についてくるほうが成功しやすい傾向にあります。
以下に起業にあたって考えておくべき9つの質問を挙げました。この9つの質問にスパッと答えられるようにしておくと、起業時の決断や事業計画、ホームページの作成などの際にまとめやすくなります。
起業にあたって考えておくべき9つの質問
●顧客に関すること
1.国、地域、業界、顧客の問題は何ですか?(背景の課題)
2.顧客がお金を払ってでも今解決したい困りごとは?(市場価値)
3.結果、顧客の方たちにどうなってほしいですか?(ユーザーの変化のイメージ)
4.顧客の方たちが特に集中している属性や特徴は?(対象)
5.どうやったらその人たちに商品を届けられますか?(どう届ける)
●自社に関すること
6.あなたは、なぜ起業をしたいのですか? その事業を選んだ理由は?(創業ストーリー)
7.あなたの事業は社会や顧客にどのように貢献できますか?(価値貢献)
8.ほかにない特徴や武器はなんですか?(差別化)
9.顧客に行動を起こさせるに足る裏付けはなんですか?(信頼要素)
地方起業のメリット
地方で起業するメリットとしては、家賃や人件費が都会より安いことから低コストで始められる、競合が少なくビジネス展開しやすい、以前に田舎暮らしの本Webで紹介した「ブルーベリーファームおかざき」のように農業や観光、特産品、自然などのビジネスに活用できる地域資源があることなどが挙げられます。また、人と人とのかかわりが深くなりやすいため、自治体や地域企業との協力や、起業・開業の支援や補助金が用意されている地方自治体が多いなど、サポート面でもメリットがあります。一方で、デメリットとしては、やはり人口の少なさゆえに市場規模が小さくなることや、人材確保が難しいこと、業種によっては新規参入が難しい場合があることなどがあります。
シニア起業するといい点は?
起業家といえば学生や若い人のイメージが強いですが、じつは起業する人の平均年齢は42歳。近年、男女ともに60歳以上で起業する人の割合が増えてきています。シニア起業のいい点は、①やりたいことや好きなことを仕事にできる、②長年培った知識や経験が活かせる、③定年がないので生涯現役で働ける、④若い世代よりは資金的な余裕があるなどです。
シニア世代の起業の業種として多いのが、サービス業(飲食関連や販売関連)、不動産業、学術研究や技術サービス業です。基本的には、自分のネットワークや経験を活かせる仕事が多いです。また趣味や好きなことを仕事にする人もいます。例えば、愛犬のお散歩を代行する会社を設立した方や飲食店などです。最近ではInstagramで活躍するシニア世代が「インスタグランマ」と呼ばれて注目を集めています。
シニア起業家向けの支援制度
日本政策金融公庫
新規開業資金(女性、若者/シニア起業家支援関連)
女性もしくは35歳未満、55歳以上の起業を対象とした融資制度。融資限度額は7200万円(運転資金は4800万円)
シニア起業の注意点
多くの利点がある一方、シニア起業には注意しなければならない点もあります。まずは、なにより長く続けることが難しいため、後継者が確定しているなどの場合を除き短期決戦で考えるということ。体力も落ちていくので、起業時には大丈夫でも、次第に続かなくなる可能性もあります。スモールスタートで、その後は肉体的に無理のない範囲で行うことが大切です。
また、これまでの肩書にしがみつくことはNG。起業はゼロからのスタートです。経験やスキルを活かしつつ、柔軟に謙虚な姿勢で取り組みましょう。
家族の理解も不可欠です。資金や事業計画は、家族も含めた老後の生活を考えて進めてください。怪しいセミナーの勧誘などにも注意しましょう。
文/水野昌美 イラスト/関上絵美・晴香
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