和歌山県田辺市の山間にある龍神村(りゅうじんむら)。面積のほとんどを急峻な山地が占め、平地に小さな集落が点在している。そんな龍神村で養鶏場を開いた石﨑さん夫妻。自家製発酵飼料を強みにたまごの販売を始めて7年、養豚や酒蔵などさらに大きな夢が広がる。
掲載:2024年12月号
和歌山県田辺市(たなべし)
和歌山県の中南部に位置し、2005年に田辺市、龍神村、中辺路(なかへち)町、大塔村、本宮町が合併。歴史的な町並みや世界遺産「熊野古道」、豊かな自然、温泉などを有する。写真は、中辺路地区の「高原の棚田」。南紀白浜空港から田辺市街まで車で約30分。
山々に囲まれた土地で、平飼いの養鶏場をスタート
事業を拡大して雇用を生み出し、龍神村に人を増やしたいと願う石﨑さん夫妻。研修生を1人受け入れることになった。また、移住希望者の見学や農場体験なども受け入れている。「とりとんファーム」https://toriton-farm.com
和歌山県の中央部に位置する田辺市龍神村。面積の約95%を森林が占め、昔から林業が盛んな地域だ。2017年に龍神村へ移住した石﨑源太郎さん(50歳)・亜矢子さん(40歳)夫妻は、この地で平飼いの養鶏場「とりとんファーム」を営んでいる。
「毎日たまごを産むニワトリは、すぐに収入につながるので、スタートにはちょうどいいんです。ゆくゆくは養豚もしたいという思いもあり、『とりとん』と名づけました」と亜矢子さん。
大阪府出身の源太郎さんと、京都府出身の亜矢子さんは、仕事探しをするなかで、農業や畜産に興味を持った。2人は、和歌山県内の養鶏と養豚をしている農場で研修生として出会い、結婚を機に独立を目指す。移住先は縁のあった龍神村に決めた。
周囲に住宅がなく、きれいな谷水が湧いていて、交通の便もいいところを3カ月ほどかけて探す。見つかった土地は条件には適していたものの、背丈を越えるススキが生い茂る荒地。草刈りしてゴミを処分。整地はプロに頼んだが、基礎工事や鶏舎の建設は、友人に手伝ってもらい自分たちで行った。
「とりとんファーム」周辺には、山が広がっている。車がないと買い物などが不便だが、最近、村内にコンビニがオープンした。
亜矢子さんによると、「こうした労力も大変でしたが、一番大変だったのは資金繰り」とのこと。主な初期費用だけで、土地は3反で70万円、鶏舎は3部屋で約200万円、ヒナ100羽で約15万円。ランニングコストとして多くの飼料費がかかる。
農林水産省の「青年就農給付金(現・経営開始資金)」を夫妻で申請し5年で1125万円受給。補助金が終了した今は、日本政策金融公庫から約1000万円の融資を受けている。
「提出する事業計画や申請書をつくるだけでひと苦労。畜産の経営コンサルタント業務をしている『畜産協会わかやま』の方にアドバイスしてもらえて助かりました」と亜矢子さん。
開業から少しずつ土地と設備を増やし、現在は18部屋の鶏舎で約1700羽を飼育。生産したたまごは、百貨店や地元小売店への卸、個人向けにもネット通販で販売。お客さんからは、「ここのたまごを食べると、よそのたまごが食べられなくなる」といった声をよく聞くそうだ。
「とりとんファーム」では、国産小麦や遺伝子組み換えでないトウモロコシを使い、地元の製造工場から出る食品残さを配合した自家製の発酵飼料を与えている。
「発酵させた飼料のほうが喜んで食べるし、腸内環境がよくなるんです。それが、たまごの味にも反映されます。ただ、発酵した飼料は手間がかかります。小さな養鶏場だからこそできることですね」と源太郎さん。
1つの部屋に約100羽がいて、元気に動き回っている。「とりとんファーム」ではストレスが少なく、健康的にニワトリが育っている。
トウモロコシや小麦に豆腐、おから、酒かすなどを混ぜ合わせた発酵飼料は、ニワトリも喜んで食べてくれる。
龍神村は住んでいる人が温かいと口を揃える2人。「周りの人たちには、何かと助けていただいていて、恩返しをしたいと思っています」と話す。
「とりとんファーム」は、まだほんの一部がスタートしたばかりだ。「次は養豚を始めてハムやソーセージをつくり、乳牛を飼って乳製品もつくりたい。さらに、牧場レストランや直売所などを併設し、酒米を栽培して酒づくりにも挑戦したい」と目を輝かせる。
小さな田んぼを借りて米を栽培。手作業で田植えをし、草取りをし、昔ながらの天日干しでつくっている。
「とりとんファーム」のたまごと龍神村の天日干しのお米で、「たまごかけごはんセット」を販売。お米はなくなり次第終了。
開業へのアドバイス
大きな夢を持って、楽しく仕事しましょう!
まずは大きな夢を持つことですね。小さな夢を大きくするのは難しいですから、大きな夢がいいと思います。あと、苦労をどんどんすること。苦労しないと、何が楽しいのかわかりません。(源太郎さん)
田舎で何かをするのなら、地域社会に溶け込むこと。さまざまな行事や消防団などに参加して少しでも地域の役に立ち、自分たちが助けてもらうばかりにならないようにしましょう。(亜矢子さん)
田辺市の移住の問い合わせ
市のワンストップパーソンが移住をサポート
田辺市は沿岸部のコンパクトな市街地や日本有数の梅・柑橘の産地である農村地域、紀伊山地に囲まれた自然豊かな山村地域がある近畿一広いまち。市の中心を横断する世界遺産「熊野古道」には国内外から観光客が訪れる。地域ごとに特色のある田舎暮らしや就業・起業の機会を求めて移住する人も多い。市のワンストップパーソンが配置され、移住をサポートしている。
お問い合わせ:田辺市たなべ営業室 ☎0739-33-7714
https://tanabegurashi.jp
田辺市の山間地域には短期滞在施設があり、最長1年間の入居が可能。家賃や敷金は施設により異なる。
「魅力いっぱいの田辺市へぜひお越しください」(たなべ営業室の丹田 敦さん)
文/水野昌美 写真提供/とりとんファーム、田辺市
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