林業が盛んな庄原市。今年4月、その現場に新しく入ったのが、元農林水産省職員の水出元さんだ。森林ボランティアをきっかけに林業の魅力に惹かれ、現在は伐倒から搬出までの仕事に挑んでいる。
掲載:2025年11月号
広島県庄原市/水出 元さん
55歳で国家公務員から林業に転職。昔ながらの田園風景や昭和の面影を残す庄原市を気に入っている。自宅からは星がよく見え、最近は星座図鑑を片手に星の観察を楽しんでいる。写真/現場での水出さん。現在、緑の雇用のフォレストワーカー1年目だが、今後は重機の免許なども取る予定。
必要な講座を自費で受講。熱意が伝わり就職へ
近畿以西最大の市域面積を有し、その約85%を森林が占める庄原市。民有林の人工林率は47%で、県平均の31%を大きく上回る、林業が盛んなまちだ。
水出元さんは、この庄原市にある光永運送の林業部門に2025年4月に転職した。前職は農林水産省動物検疫所の職員という異例の経歴だ。
「コロナ禍の直前に広島空港へ転勤になったのですが、国際線の発着が減ってしまって。そのころ、ネットでヒノキの間伐を行う森林ボランティアを見つけて参加してみたんです」
もともと森で働くことに興味があったという水出さん。初めてチェーンソーの使い方を教えてもらい、木を倒した。
「機械が好きだったので、エンジンの振動を直接感じながら木を倒す体験は迫力があり、興奮しました」
その後2年間、休日には森林ボランティアを続けた。しかし国際線の運航が戻るにつれて本業が忙しくなり、次第に参加できなくなっていった。
「そのころ、転勤の話があったのですが、広島での暮らしが自分に合っていると感じて。長く勤めたし、ここで暮らすのもいいかなと思ったんです」
林業を仕事にしたいと考えた水出さんは、広島県森林組合連合会の就職相談窓口を訪ねた。林業就業アドバイザーの佐々木
悠二さんは当時をこう語る。
「年齢と、現職の国家公務員であるということから、最初は『考え直したほうがいいのでは』とお伝えしました。でも林業従事者に義務付けられた講習を2つご案内したら、本当に受講されたんです。そこまで行動する方は少ないので、『この方は本気だ!』と感じました」
光永運送の林業部門では、伐倒から搬出・出荷までを一貫して行う。水出さんは先輩に学びながら経験を重ねている。
「最初の2カ月は体力的にきつく、わからないことばかりでした。でも先輩方に教わって、できることが少しずつ増えていくのがうれしいですね。まずは一通りの作業を身につけて、そのうえで広島の山の適正管理に貢献していきたいです」
林道の先には、一般の人が知らない絶景ポイントが待っていることも。
「まだ5カ月目ですが、伐倒などの技術が少しずつ上がっているのを感じられます」と、水出さん。
空き家バンクの物件も検討したが、市営住宅に入居。広島のソウルフード、ホルモン炒めをつくることも。
利用した制度
・緑の雇用
林野庁が実施する事業で、OJTや集合研修を通じて林業の担い手を支援。就業1年目から知識と技能を身につけられるプログラムが用意され、5年目以降はリーダー、10年目以降は現場統括者の育成へと段階的にサポート。
https://www.ringyou.net
・無料職業紹介所
広島県の支援を受け、林業で働きたい人と人材を求める事業体をつなぐ無料職業紹介所。未経験者が多い業界のため、仕事内容や資格、研修の相談から、職場見学、斡旋、就職後のフォローまで幅広く支援している。
http://www.hiroshima-moriren.or.jp/untitled7.html
相談窓口で対応する林業就業アドバイザーの佐々木さん。
Advice
「林業は大変そうというイメージがあるかもしれません。でも実際は、仲間とチームワークを組みながら目の前の木を切ることに集中できたり、間伐のあとの風の気持ちよさやヒノキの香りに包まれたり、そうした瞬間にやりがいを感じる方が多いんです。『ちょっと興味がある』というくらいでも、森で働くことに関心があれば、ぜひ気軽に相談してみてください」(林業就業アドバイザー佐々木さん)
文/はっさく堂 写真提供/水出 元さん、広島県森林組合連合会
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