波穏やかな瀬戸内海では新規就業で船を持ち、漁師として独立が目指せる。広島県では漁業協同組合が研修を行い、新規就業者の独立を支援する。福山市の横島で12年前に研修を受けた内健司さんは、多様な漁法を学び、現在では若い研修生を船に乗せて漁に出る。
掲載:2025年11月号
広島県福山市/内 健司さん
2013年に広島県新規漁業就業者支援協議会の支援を受けて福山市の横島漁業協同組合で研修。44歳でトラック運転手から漁師に転身した。現在は底びき網を中心に、さまざまな漁法を組み合わせて生計を立てている。大阪市出身。写真/底びき網を載せた内さんの船。中古の漁船が入手でき、市の補助制度も利用して低資金で独立できた。
複数の親方の船に乗り、1年の研修で独立を目指す
広島県では県内の各漁業協同組合を中心に漁業関係団体と行政で構成する「広島県新規漁業就業者支援協議会」で、新たな漁業の担い手育成に取り組んでいる。
「釣りが好きで海の仕事に興味がありました」と言う内健司さん(58歳)は12年前に同協議会の制度のもと、横島漁業協同組合で研修。横島漁業協同組合参事の岡崎宏司さん(64歳)は言う。
「研修は先駆け的に2010年ごろから受け入れています。横島はもともと出稼ぎ漁師が多く、よそで受け入れてもらった経験があるので、今度は受け入れる側になりたいと考えたんです。これまでに13人が研修し、7人が独立して漁師になりました」
研修では組合員の親方の船に乗って漁法を学ぶ。横島漁協では70代の大ベテランから若い親方まで、複数の船を経験して教わるシステムをとっている。
「人それぞれの漁を見て『こういうやり方があるんだ』と学べたのがよかったです」
と言う内さん。毎朝の出船は日の出前なので、住居を横島の地区内に移した。地区内に住むのは組合員資格取得の条件でもあり、漁協では住まい探しもサポートしている。
横島漁業協同組合で漁師として活躍する内健司さん(右)と、同組合で長年にわたり新規漁業就業の支援を続ける岡崎宏司さん(左)。
漁港には波穏やかな瀬戸内海で操業する小型の漁船が並ぶ。
地域の支援で漁業就業、目標は次世代を育てること
1年間の研修の後、内さんは漁業権を持つ親方漁師として独立。船は漁を引退する人から50万円ほどで譲ってもらえた。
「独立後も、海底に網が引っかかったりトラブルがあるんです。漁師仲間に助けてもらいました。とにかく横島は人がいい。漁だけでなく生活のいろいろな面でお世話になってます」
底びき網では主にエビやカニを獲る。最近では資源量の減少に対応し、たこ壺漁、カキやアサリの養殖など経営を多角化。獲れた魚介は島内の商店や得意客、週末に漁港で行う〝浜売り〞などで直接販売している。岡崎さんは新規就業者に「自分で獲った魚は自分で売れ」と指導。仲買人を通すより高く売れるうえ、必要以上に獲らずに済んで資源管理にもつながる。
「どれだけ入っているか期待しながら網を揚げるのが楽しい」と話す内さん。目標は自身が教える側に立ち、漁師を育てることだった。そしてこの春から研修を始めたのは横島の漁業を次代につなぐ18歳。内さんの船に乗り、初めての弟子になる。
“漁師の浜売り”ではヒラメ、クルマエビ、タコなど獲れたばかりの魚介を漁師が直接販売。
横島は瀬戸内海西部の芸予諸島の一つ。本州とは橋でつながり、漁港からは隣接する田島がすぐ前に見える。
利用した制度
・広島県新規漁業就業者支援協議会「新規就業者支援対策事業」
漁業就業者フェアでの相談の後、3日以内の短期研修を経て、3~24カ月の長期研修を実施。その後、研修先漁協に加入、独立を支援する。協議会では独立後のフォローアップも行う。広島県新規漁業就業者支援協議会の研修を修了し、市内の漁協に加盟した新規漁業就業者に対し、導入する漁船や漁具などに最大90万円の補助(補助率1/2以内)。
・福山市新規漁業就業者漁船等整備事業
広島県新規漁業就業者支援協議会の研修を修了し、市内の漁協に加盟した新規漁業就業者に対し、導入する漁船や漁具などに最大90万円の補助(補助率1/2以内)。
Advice
「向き不向きはあります。危険を予測して機転が利くことが重要です。例外もありますが短期研修でだいたいわかるので、漁業をやりたい気持ちがあれば参加してみてください。そして、漁師になろうと親方についたら、とにかく一生懸命やることです」(内さん&岡崎さん)
文/新田穂高 写真提供/横島漁業協同組合
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