古代史好きという共通の趣味を通じて出会った夫妻は、数多くの歴史遺産が彩る古都、明日香村に魅了されて移住。「観光客に依存することなく自分たちにできることを」と古民家カフェを営み、食やモノを通じて村の魅力向上に努めている。
掲載:2021年12月号
明日香を訪れる側から、明日香へ呼び込む側に
明日香村のなかでも、石舞台(いしぶたい)古墳からほど近い岡地区内。風情ある町家が並ぶ通り沿いに元造り酒屋の古民家がたたずむ。ここで「カフェことだま」を営んでいるのが、加藤準一(かとうじゅんいち)さん(62歳)・典子(のりこ)さん(50歳)夫妻だ。準一さんは東京の化粧品会社や飲食店で働き、典子さんは岡山で考古学関係の仕事などをする傍ら、ともに歴史ロマンあふれる明日香村にひかれて通うなかで出会い、結婚。奈良市内での仮住まい後、2002年に明日香村へ移住し、一緒に店を立ち上げようと思い至った。
「最初に借りた物件は人通りが少ない場所にあり、飲食ならわざわざ足を運んでもらえるかなと考えたのが、カフェに決めたそもそもの理由です」
そう話すのは典子さん。06年に開業すると経営は順調だったが、賃貸契約終了に伴って今の場所へ移転することに。
「ここは、以前にお蕎麦屋さんが入っていたときから憧れの物件でした。そのお店の撤退後は空き家になっていて、縁あって運よく借りられたんです」
床の板張りや壁の珪藻土塗りなど、専門工事以外の内装は基本的に自分たちで改修。3カ月ほどで準備を整え、15 年3月にオープンさせた。現在は準一さんが厨房を担当し、典子さんは経営全般や接客にあたる。1日200人近い来店客があるため、10人ほどのスタッフで切り盛りしているが、好調の要因を準一さんはこう分析する。
「明日香村は観光地という印象がある半面、実際の観光客はコロナ禍以前で年間60万人ほどとさほど多くはなく、春・秋に集中。その半分近くが修学旅行生などで、観光客相手だけでは経営が成り立たないと考えました。そこで、料理は地元の旬の野菜や古代米、豆腐などを使いながら、イタリアン風や韓国風といったアレンジを加え、地元の方に非日常を楽しんでいただけるよう工夫しています」
14時以降のティータイムには、村特産のイチゴ「あすかルビー」など季節の果物を使ったパフェや韓国風かき氷「パッピンス」が好評。入り口付近の広いスペースを生かしてギャラリーや地元産品コーナーを併設し、飲食やまち歩きがてらに立ち寄れるようにもした。
「想定よりも事業が広がり、ゆっくり明日香を楽しむ余裕がありません。でも、この店を成功させることが私たちの役割」と、準一さん。
自分たちの姿を見て、この村で何か始めたいと思う人が増え、にぎわいの創出につながることが2人の願いだ。
オーナー加藤さん夫妻から田舎カフェ開業へのアドバイス!
「ニーズの実情を知ることが大切です」
自分がやりたいこととマーケットが望むことが同じとは限りません。観光客が来るだろうと安易に思い込み、自分の好みを打ち出すだけでは失敗も。私たちの場合、観光客に頼らずにお客さまをどう呼ぶか工夫。店舗改装の様子をブログにアップしたり、今ならインスタを活用したり、そのとき一番効果的な情報発信も意識しています。
caféことだま
☎0744-54-4010
住所/奈良県高市郡明日香村岡1223
営業時間/10:00~17:00(土・日曜・祝日~18:00)
定休日/火曜、第3水曜(祝日の場合は要問い合わせ)
https://www.cafe-kotodama.com
Instagram/@cafe.kotodama
明日香村移住支援情報
古都での移住・開業を幅広くサポート
歴史的風土を保存するため村全体が「明日香法」という法律によって守られ、一歩踏み込めばいにしえの飛鳥が匂い立つ明日香村。空き家バンク制度で移住や開業を支援しており、最大200万円の空き家リフォーム補助金や、100万円の子育て世帯の新築補助金などを用意。近年は古民家を活用した飲食店や宿泊施設も増えている。
総合政策課 ☎︎0744-54-2001
https://asukamura.jp
文・写真/笹木博幸
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