前回までにキッチンまわりの施工が完了した和田邸。今回からは土壁塗りの作業だ。地味で面倒な作業が続くが……。施主がテキトーすぎてはかどらないことに。
掲載:2018年7月号
和田が好きなのはエコ!? タダ!?
遅刻した。
いつもは前夜に自宅(東京・奥多摩)を出発し、高速道路のサービスエリアで仮眠をとって来るんだが、この日は朝7時に家を出たら、見事に渋滞にはまってしまった。
和田邸に到着したのは午前9時45分。道中携帯が鳴りっぱなしであった。
一同「遅い!」
中山「そうおっしゃいますが、みなさん、そろそろ10時集合に戻してもいいんじゃないの?」
昨年末に「日が短いから」という理由で、和田が一方的に「集合時間を9時にする」と宣言したのだが、そろそろ戻してもいいのではないか。
一同「どうなんだ、テキトー施主!?」
和田「10時でも、11時でも、12時でも、どうせ遅刻するじゃん」
阪口「それはいえるな」
中山「んぐ……」
水野「まぁ、早く始めて、早く終われるように、これまで通り9時集合でやりましょう」
というわけで今日の作業は土壁塗りである。
土壁は、粘りのある赤土に石灰や稲わらなどをすき込み、一定期間放置して発酵させたものでつくる。日本の伝統建築では、竹木舞(たけこまい)で囲った上を土壁で塗り固め、お金持ちはさらに漆喰上塗りで仕上げるのが一般的だった。現在では吸湿性やシックハウス対策、環境問題などで、その有効性が見直されているわけだが……。
和田「やっぱり自然素材だよね!」
水野「単にタダだからなんじゃないの?」
担当・水野のスルドイツッコミに、和田がひるむ。
和田「ぐ……。それもあるけど、やっぱりエコじゃないとね!」
阪口「『エコ』じゃなくて『セコ』いんだよな」
中山「『ロハス』じゃなくて『只す』とか?」(昔は「只=タダ」のことを「ロハ」と言った)
阪口「うまいね、ザブトン一枚!」
水野「はいはい。今日の大喜利はおしまいね!」
当然ながら、その辺の土は石ころだらけ!
ところで土壁塗りの作業は、昨年のうちにすでに始めていた(上の写真)。
その土に稲わらなどを練り混んで1カ月ほどおいたものを掘り出してみると、白いカビみたいなのが生えていて、ずいぶん発酵が進んでいた。これをトロ舟に移してセメントをテキトーに加え、水を流し込むと、ネットリした壁材ができあがった。
和田「いいねー! このネチャネチャした感じが!」
握りつぶすと指の間からムニューッとあふれてくる。いい具合に練り上がったのをコテ板にとって塗りはじめたんだが、気分がよかったのはここまでである。
一同「小石が邪魔だ!」
そう。敷地のテキトーな場所の土をそのまま使ったので、石ころが大量に混ざっているのだ。
塗り始めると、それらはコテに引きずられ、壁面に「ハレー彗星」のごとき尾を描いてしまうのだ。一同舌打ちしながら、ほじって投げ捨てる。
一同「なんとかしろよ、テキトー施主!」
和田「……なんとかして!」
一同「オマエがなんとかしろ!」
というようなことがあったので……(場面は現在へ)。
和田「今回はちゃんとフルイにかけといたから!」
なんと、事前に土塊をふるっておいたらしいのだ。確かに土の感触がふっくらとしていて、小石も混じってない。水を加えると前よりもさらにソフトな仕上がりに。
水野「ホントだ。全然違う!」
和田「やっぱりフルイにかけないとダメだね!」
中山「じゃあなんで前回はやらなかったんだよ」
和田「……いやホラ! 知らなかったから!」
中山「奥多摩で三和土の土間をつくったときはちゃんとフルイにかけてたぞ」
阪口「しかもあのとき和田もいたし!」
和田「……いやホラ! 多少小石が混ざっていても大丈夫かなって!」
水野「さっきと言ってること違うし」
中山「どっかの国の政治家みたいだな」
面倒な軒壁が丸太でさらに面倒に
外壁の広い面は、和田が1人でボツボツ仕上げていたので、今回、助っ人一同が取りかかるのは、面倒くさい軒壁である。
どう面倒くさいのか。
和田邸は二重梁はり(二重桁)になっているのだが、そのすき間が異常に狭くて(幅3㎝に満たない部分もある)、しかも丸太なのでデコボコ。やりにくいったらありゃしない。
軒壁の施工が面倒なのは、よくいわれることで、垂木(たるき)と垂木のすき間に張る「面戸板(めんどいた)」が、別名「面倒板」といわれるところからもわかる通りだ。しかし和田邸の場合、さらに桁と桁の間のすき間もなんとかしないとイケナイわけである。
阪口「で、どうすんの?」
和田「これにしました!」
和田が取り出したのは幹巻テープ(麻布)である。
和田「これを下地の板にラス網代わりに張る!」
水野「えー、それって意味あるの?」
和田「塗り壁のとき垂れてこないでしょ。それに自然素材だから、いずれ分解してなくなっちゃう!」
阪口「分解しちゃまずいだろ」
和田 「なんで?」
阪口「土壁がはがれてくるよね? ラス網は金属だからいいけど」
和田「大丈夫大丈夫!」
なにが大丈夫なのかわからないまま作業に入る。幹巻テープをタッカーで留めていくが、キワの部分は切り張りしたり折り込んだりで、想像通りの「面倒くささ」である。
幹巻テープを張り終えたら、さっそく例のソフトに仕上がった土壁材を塗り込んでいく。塗り心地は極めて良好。前回とは比較にならないほど快適だ。しかしまたしても、それは束の間であった。
和田がフルイにかけた土塊は一瞬でなくなってしまい、助っ人一同でひたすらフルイがけすることに……。そしてこれがまた異常に面倒くさいのだ。
■粘土質なので崩れにくい!
■フルイの目が細かい!
■フルイが小さすぎる!
要するに全然はかどらないのだ。
阪口「なんかさ……、いいトシした大人が昼間から土こねてるって、どうなんだろうねえ」
中山「そろそろ50の声が聞こえてきたしなあ、水野さんも腰痛なんでしょ」
水野「だ、大丈夫だから!」
和田「私はまだまだ大丈夫!」
阪口「オマエだって老眼のくせに」
水野「トシのことは言わないの!」(←年齢不詳)
文/中山茂大 写真/阪口 克
過去記事はこちら!
第1回 基礎工事
第2回 墨付け、刻み
第3回 柱、梁、桁の刻み
第4回 棟上げ目前
第5回 棟上げ
第6回 棟上げ
第7回 棟上げ
第8回 足場組み、家起こし
第9回 屋根
第10回 屋根材張り&プロによる中間チェック
第11回 壁の施工、窓の取り付け
第12回 差し鴨居
第13回 外壁
第14回 はめ殺し窓、下見板
第15回 床の施工
第16回 荒床張りと電気の引き込み
第17回 ウッドデッキ
第18回 天井張り
第19回 内装工事
第20回 水回りの施工
第21回 トイレの設置
第22回 下水管の接続
第23回 下水管の接続
第24回 キッチンの施工
第25回 トイレ後日談
第26回 キッチンの施工
人力社
ライター中山とカメラマン阪口、 ライター和田の旅とDIYを得意とする3人組トリオ。「人力山荘」シリーズでは中山の母屋リフォーム、中山のアネックス新築DIY、和田の自宅新築DIYを連載。阪口も自宅をDIYで新築している。
人力社HP➡www.jinriki.net
阪口HP➡https://www.sakaguti.org
和田HP➡http://www.wadayoshi.com
この記事のタグ
田舎暮らしの記事をシェアする