東日本大震災と結婚をきっかけに、自分のスキルを社会に還元したいと考えた高掛さんは、広島県にUターン。島暮らしの感動をゲストとシェアする民泊事業を立ち上げた。初期費用を抑え、副業からスタートした事業は順調に成長。誰もができる地域活性化のモデルケースをつくり、雇用の創出、地域課題の解決も目指している。
掲載:2022年1月号
初期費用を抑えてスタート。5年目で2棟目をオープン
田舎に移住してゲストハウスや民宿、ペンションなどの経営で独立・開業する人が増えている。高掛智朗(たかがけともを)さんもその1人。
広島出身の高掛さんは、大学卒業後、東京でIT企業に入社し、広告やメディア関連の仕事をしていたが、東日本大震災をきっかけに気持ちに変化が起きた。自分のスキルを世の中のために使いたいと、島学や農業ビジネスデザイン、コミュニティデザインを学び、社会問題を解決していく取り組みを考えるように。
「ちょうど結婚したこともあり、将来のことを見据え、瀬戸内で暮らす決意をしました。僕の子どものころの思い出といえば、毎日のように近くの海へ行き、素潜りをしたり無人島まで泳いだり……。子どもが生まれたら、そういう体験をさせたいというのも大きかった」
2012年末、尾道市の市街地に移住し、サラリーマンをしながら理想の暮らしができる場所探しを開始。いろいろな島を巡り、たどり着いたのが百島(ももしま)だ。バブル時代の別荘が手つかずのまま残されている別荘地に立つ一軒家は、目の前には砂浜と魚釣りのできる防波堤、近くには山もある。東京にいたときから思い描いていた通りの場所だと、すぐさま購入を決めた。
ちょうどそのころ、世界的にもホームシェアリングビジネス(日本でいう民泊)が伸びていたこともあり、一棟貸しビジネスに注目。購入した家を自分でリフォームして、16年に「瀬戸内隠れ家リゾートCiela」をオープンした。
「物件の費用は自己資金で賄いました。リフォームは大工の友人に手伝ってもらってのDIYと、自分の可能な範囲でできるスモールスタートです」
21年4月には2棟目をオープンし、この年だけでも利用者は300組ほど。
ドアを開けるとすぐ海という好立地を活かし、魚釣りやカヤックなどのアウトドア、サンセットや星空を眺めながら砂浜でディナーを食べるといった、自然をコンテンツにした非日常体験が話題となっている。今後は、百島を軸に、無人島などほかの島を巡るアイランドホッピングを企画中だ。
「海でも山でも川でもいい。その場所ならではの価値を見いだして、自分自身が感動したことをコンテンツにする。自分の価値観に共感してくれる人は必ずいるので、ずっと探し続けていけばこれだ!というものが見つかるはず。大きな資金がなくても、空き家や自然などあるものを活かすことで、ビジネスをつくることはできます。私の目標は、誰もができる地域活性化のモデルケースをつくること。空き家の活用をはじめ、地域に雇用も創出したいし、地域の課題を解決していきたい」
現在、高掛さんは会社勤めを辞め、宿泊施設の運営に専念している。そして宿泊者がいない日はここで過ごすのが高掛さんの楽しみだという。「思いっきり遊ぶことがマーケティングリサーチになる」と笑う。島での暮らしや遊びを満喫しながら、それをビジネスにする――田舎ならではの新しいビジネス展開といえる。
瀬戸内隠れ家リゾート
Ciela(シエラ)/広島県尾道市百島町2586-22
Viena(ビエナ)/広島県尾道市百島町2581-8
setouchikakuregaresorts@gmail.com
https://setouchikakuregaresorts.jp
高掛さんから起業アドバイス
まずは生活の安定が第一。副業で起業を目指そう
移住して起業となると心配なのが収入面。僕も3分の1まで収入が落ち、移住して2年は大変でした。平日は働いて必要な生活費を確保しつつ、週末など休みに起業準備を進めるのがおすすめ。いまの時代、副業OKな会社は意外と多いですし、家賃収入は副業にあたらないケースもありますので、空き家を改修して、不動産投資から始める方法もあると思います。
尾道市移住支援情報
山、街、海が楽しめ、子育て世代に人気
田園風景が広がる「やまなみ」から情緒ある「まちなみ」、瀬戸内の「しまなみ」まで、さまざまなロケーションを選ぶことができる尾道市。街と自然が近接していることから子育て世代にも人気が高く、支援も、中学校卒業までの医療費助成、子育て世帯等住宅取得支援など充実している。また創業・開業支援補助金などの起業補助もある。
尾道市政策企画課 ☎︎0848-38-9316 http://onomichi-ijuportal.jp
文/佐藤明日香 写真/福角智江
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