会社員から林業へと人生を一変させた室橋春樹さん。妻の智美さんとともに、訪れたこともない大分県へ。求めたのは、都会にはない、自然に囲まれた豊かさだった。
掲載:2022年3月号
自然が身近な日常を求めて飛び込んだ「初めての場所」
オレンジ色のユニフォーム、手にはチェーンソー。大木と向き合う姿は、まさに職人。室橋春樹さん(48歳)が林業の道を歩みはじめて5年目。「先人たちが植えた苗木のおかげで森ができます。自分が植えた苗木も、後世につながっていくと思うと感慨深いです」とやりがいを語る。
千葉県出身の春樹さんは、東京で営業職をしていた。転勤で長野県へ赴任していたときに、自然に囲まれる生活の豊かさを体感。「また東京に戻ったのですが、長野県での生活を経験したからか、都会の生活が疲れるんですよね」。
妻の智美(ともみ)さん(48歳)と一緒に乗っていた通勤電車の中でたまたま見かけたのが、林業の担い手を募集する「森林(もり)の仕事ガイダンス」の広告。「これ、いいんじゃない?」と智美さんも転職に賛成し、夫妻揃ってガイダンスへ。2回目に参加したときに、大分県が募集している「林業アカデミー」の制度を知る。1期生を募集していたこと、春樹さんがちょうど年齢制限の43歳だったこと、担当者の対応が好印象だったこと。いろいろな要素が重なり「行くなら今年しかない!」と決心し、2016年にまずは別府市へ。
大分県はもちろん、九州を訪れたことがなかった春樹さんは、「実家に近い場所がいいと思っていたのですが、妻が『せっかくなら行ったことないところにしようよ』と。簡単に戻れないからこそ決心がつきました」と振り返る。「寒いところは苦手だし、知らない地域のほうが楽しそう!」という智美さんの言葉も大きな後押しになった。
1年間の研修で、林業の基礎知識や仕事に必要な資格を取得し、国東(くにさき)森林組合に就職。智美さんの職場が別府市だったことから、中間地点の日出町にマイホームを建て、2020年に移り住んだ。
移住後は、智美さんの行動力が人とのつながりを広げる。
「ランチに入った店で声をかけてもらったり、よく通う温泉で顔なじみになったり。興味があるイベントにも積極的に参加していたら、いつの間にか友達が増えました」と智美さんは話す。別府市内の88湯を巡るともらえる「別府八湯温泉道名人」の称号を取得し、伝統工芸の竹細工教室に通うなど、「この地域だからできること」に全力だ。休日には2人で出かけることも増え、温泉巡りやスポーツ観戦など共通の趣味を楽しむ時間も持てるようになった。
林業従事者としてさらなるスキルアップを目指している春樹さん。自然相手の仕事に厳しさも感じるというが、念願だった自然に囲まれた毎日は充実感に満ちている。
「畑も田んぼも竹細工も、誰かに『やってみたい』と話すと詳しい人に出会えるんです。地域の人たちに恵まれました」と話す室橋さん夫妻。仕事もプライベートも欲張りながら、日出町で穏やかな日々を満喫している。
室橋さん夫妻に聞く「移住して大きく変わったこと」
春樹さん 「ほぼ毎日温泉に通うようになりました。大分県にたくさんの温泉があることは知っていましたが、まさかこんなにも身近だとは! 温泉好きの私たちにとって最高の環境です」
智美さん 「時間がゆっくり流れていると感じます。移住前は仕事が中心の生活でしたけど、今は夫婦で休みを合わせられるので一緒に過ごす時間が増えて、会話も増えました」
日出町移住支援情報
アクセス環境に恵まれ、住みやすいコンパクトシティ
温暖な気候で、食べ物もおいしく名水も湧き出る日出町。生活に必要な施設・インフラが備わり、「街の住みここちランキング 大分県版(大東建託賃貸未来研究所)」では2年連続第1位を獲得。町では、オンライン移住相談窓口を設置、また県外からの移住者に補助金制度を用意している。
日出町政策推進課 ☎0977-73-3116
https://www.town.hiji.lg.jp/page/page_00084.html
文/黒木ゆか 写真/衛藤フミオ
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