海辺のまち・南知多町は漁業で発展してきたが、愛知用水が整備され農業も急速に発展。都市近郊農業地帯が広がり、整備された農地に関しては耕作使用率が9割超えだという。移住を希望する空き家バンク登録者数も100名を超える。そんな人気移住地と「ご縁でつながった」と語る杉山さん夫妻の、畑と人との距離を縮める活動を取材した。
掲載:2022年6月号
JAを辞めて全国の農家を巡り、農家の取り組みを見聞
海岸線沿いの国道から車で約5分の丘。訪れたころは、畑に野菜の花が咲き乱れていた。
「黄色はブロッコリー。白い花は大根で、種もおいしいんですよ。種の採取は農業として非効率かもしれませんが、畑に来てくれた方とこういう話をしながら過ごす時間が楽しいですね」
ここは杉山直生さん(33歳)、千尋さん(31歳)の農園。少量多品目の野菜生産を行うほかマルシェ出店、収穫体験などを開催している。これまでどのような道を歩いてきたのかを伺った。
帯広畜産大学を卒業後、JAあいち経済連に就職した直生さん。さまざまな農家とかかわるなかで、「個人でもっと農業に深く携わりたい」と思うように。4年勤めた後、大学の後輩で、静岡県富士宮市の農園レストランで働いていた千尋さんを誘い、全国の農家を巡る旅へ出る。
「いろんな農家さんの取り組みを見せていただいたのですが、どこも素晴らしくて。最終的にご縁を選ぶことにしました」
まず訪ねたのは南知多町の隣、美浜町の「太田農園」。
「太田さんは有機農業の裾野を広げることをいとわない方。JA勤務時代から農業の楽しさを教えてくださった方です」
2人は美浜町内の農園で研修やアルバイトを開始。そのなかで立ち上げたのが農と食のイベント「とるたべる」だ。知多半島に人を呼び、畑と食卓の距離を縮める活動を重ねていくなかで、千尋さんは自分の農園を持ちたいと思い始める。当時のアルバイト先の農園に相談すると、南知多町の農地を紹介してもらえることに。一方、迷いを見せたのが直生さんだったが、千尋さんは1人で農作業を決行。
「最初は仕方なく手伝い始めたのですが、気がついたら今の生活が始まっていました」と直生さん。決意を固め就農したのは2018年5月のことだ。
その後もさまざまな人との縁を与えてくれたのが太田さん。南知多町でゲストハウス「ほどほど」を営む小杉さん夫妻との出会いもその1つ。小杉さんは自家採取した種から田んぼを営み、ゲストに稲作体験の場を提供している。そんな共通点もあり、ゲストハウスで一緒に食事をする仲に。会話を交わすうちにコラボイベントを開いたこともある。ゲストが杉山さんの農園で朝ご飯を食べる「畑モーニング」という試みだ。現在も地域と移住者が一緒になり多彩な取り組みを続けている。
「自分たちがお客さんにとっての〝推し農家〞となって、南知多町に遊びに来てくれる場所を築きたい。そうしたら、みんなの食卓と畑との距離も縮まって楽しいと思うんです」
南知多町に根を下ろした杉山さん夫妻。「今は未来しか見えない」と話す笑顔がまぶしい。
【南知多町】わたしの移住物語
1977年、石川県金沢市生まれ。大学卒業後、縁のあった有機農家でアルバイトを開始。有機野菜宅配スタッフを務めた後、世界一周の船旅で妻の菜々さんと出会う。自分たちのペースで暮らすために各所で研修し、2013年5月に南知多町でゲストハウス「ほどほど」を開業。
https://hodohodo.jimdofree.com/
【南知多町】移住支援情報
海も山も島もある! 南知多町の空き家物件情報を発信
南知多町空き家バンクWEBサイトでは、登録されている物件情報を公開。エリア別に土地、家屋の売買・賃貸情報が掲載されているので、希望するライフスタイルに合わせて物件が探せる。また、空き家バンク制度補助金もあり、中古住宅購入費補助(最大30万円まで)、改修費補助(最大10万円まで)などの支援が受けられる。
まちづくり推進室 ☎︎0569-65-0711(内線335)
「南知多町空き家バンク」
https://www.town.minamichita.lg.jp/akiya
文/横澤寛子 写真/古川寛二
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